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1-5 月曜日の朝

 異世界熊の一件についての説教を終え、カナタはカバンを持ってリビングを出ようとした。

「どこか行くの?」

 机でトーストを食べていたマキナが聞いた。

「学校。夕方まで帰らないから大人しくしててね」

「学校?!」

 『学校』という言葉に反応したマキナは、目をとても輝かせていた。

「もしかして、行きたいの?」

 カナタのその声で、マキナは正気を取り戻した。

「あっ、ごめん、取り乱した。まあ色々事情があって……うん。だけど、手続きとかお金とかの面で無茶な話なのは分かってるから、忘れて」

「そ、そっか……行ってくる」

「いってらー」

「行ってらっしゃい」

 各々の声を背に、カナタは靴を履いて玄関を出て、自転車にまたがる。家々の影から時折覗かせる朝日を浴びながら坂道を駆け下りる。


 **********


 時々信号や曲がり角で止まりながら学校まであと六〇〇メートル程の交差点までやって来た。

 朝七時は通勤ラッシュがピークの時間である、車通りはとても多く、あわや事故を起こしてしまいそうな程のスピードで走る車もいる。

 そういった光景を見ながら信号が変わるのを待つカナタの後ろから、声が聞こえた。

「おーはよっ」

「あ、チハヤ。おはよう今日は早いね。遅刻癖治ったみたいでなにより」


 冬雪チハヤ。世にも珍しい純白髪のポニーテールで、華奢な見た目の少女。カナタの幼稚園時代……それどころか生まれた病院、生まれた時刻(秒単位)まで一緒。その上母親同士が古くからの親友とくる。正真正銘、マジでガチな幼馴染だ。


「治ってない治ってない。今日はほんとにたまたまだから。ねね、久しぶりに一緒に学校まで歩かない? 時間はまだあるしさ」

「じゃあそうしよっか」

 カナタは自転車から降りた。

 それと同時に信号が変わり、鳥の鳴き声のような補助音も聞こえてきた。

「朝ごはん何食べた?」

 チハヤがカナタに聞く。

「普通にトーストとベーコンエッグ」

「カナタって意外と普通だよね、家柄以外。私は昨日のハンバーグとお米~」

「チハヤだって普通じゃん」

「ま確かにね。 というか聞いて、今思い出したんだけどうちのクラスの担任マジでウザイの。鬼怒川って言うんだけどさ」

「あ~、鬼怒川って、今年異動してきた先生だよね」

「そう。初日から言動がマジイミフでさぁ。もうあたしにはサッパリ。頼む! ほんとにどうにかして〜!」

 チハヤは人目も構わずカナタに抱きついた。

「流石にそれは無理だから諦めて。……で、そしてここ普通に街中だから早く退いて? めちゃくちゃ恥ずかしい」

 カナタは、そう言う割にはあまり動じていないように見える様子で、冷静に返した。

 そして、これらの一連のイチャイチャを、チハヤのクラスメイトの男子三人組が後ろから見ていた。

「あれ、うちのクラスの冬雪さんだよね」

「彼氏いないって言ってたのにやっぱり居たのか〜残念」

「お前狙ってたもんな」

 チハヤはとっさにカナタから手を離した。

「か、彼氏じゃなくて! 幼なじみだから!」

「それみろ誤解された」

「え? 聞かれてた?」

 狙っていたという男子は驚いた様子だ。

「こいつ、人より耳いいから多分皆さんのヒソヒソ話が聞こえたんだと……」

「マジか! 恥ずかし! バレたやん!」

「残念だったな」

 三人のうちの一人が苦笑した。


 そんなやり取りをしているうちに学校に着いた。


 二-三 春晴彼方

 二-一 冬雪千速


 それぞれ下駄箱にしまってあった名札を胸につけ、二年生フロアである三階に上がった。

「じゃあ私こっちだから、また部活でね」

「おう、じゃあまた」

 こうして一時の別れを告げた二人はそれぞれの教室に入っていった。


 *********


 少し時と場所が移って、街のお店が開き始めた一〇時過ぎ、母とセルア達はショッピングモール内の服屋にいた。平日だからか閑散としてはいるが、数人の客はいるようだ。

「私はお店の中ウロウロしてるから、欲しい服があったら呼んでちょうだいね」

 サユコは四人に呼び掛けた。

 そして各々が服を選んでいる最中、彼女はマキナに声をかけた。

「ねえ、マキナちゃん。今朝のことに関する事情を教えてくれない? やっぱり、ずっと気になっちゃって……」

「……はい。実は、貧民街に住まなくちゃいけないほど、家庭が貧乏で学校には行けなかったんです」

「異世界だし、日本みたいに充実した社会サービスが整ってるとは、やっぱり限らないのね」

「はい。学習支援をしてくれる人たちに勉強を教えてもらったりはしてたんですが、それでもまだ学校には憧れがあるんです。学校に通ってた子供たちはいつも目をキラキラさせて笑ってて、周りにはいつもお友達がいて。ほんと、羨ましくて羨ましくて、一晩中泣いたことさえありました」

「そうなのね。ありがとう、教えてくれて」

 サユコは、そう言うとマキナをギュッと抱きしめた。

「ちょっ……サユコさん苦しいですっ」

 それをゴルダンとセルアは遠目に見ていた。

「何やってんだ?」

「さあ」

 服選びを済ませると、同ショッピングモール内のスマホショップで四人分のスマホを契約し、生活用品を多く買い足し、書店で小学校と中学校の問題集をそれぞれ五教科分買って帰路に着いた。


 **********


 五人が家に帰ってきたのは一三時頃の筈だが、なぜか先にカナタが家にいた。

「カナタ? 何かあったの?」

 カナタはソファから起き、スマホを置いて口を開く。

「それがさ、給食室が火事になったんだよ」

「あら。大変じゃないの」

「幸い他のところには燃え広がらなかったんだけど、安全のためだっつって午前授業になった。それより腹減った〜なんか作って〜」

「じゃあ、はいこれ」

 サユコは紙袋が入ったビニール袋をカナタに手渡した。

「わっついずでぃす」

「本当はおやつにって思って買ったんだけど、そういうことならお昼ご飯ね」

 袋の中身はハンバーガーだった。

「おー! ありがとう!」

「食べる前に制服脱ぎなさいね」

「分かった!」

 カナタはそう言うと、袋を持って二階へと駆け上がって行った。

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