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3-7 混沌の会議室

「つまりこれは、鋭利な牙を持ち、地面を這いずり回る、熊とワニ、もしくは鮫を掛け合わせたような新種の生物である、ということですよね? 教授。本能をむき出しにしたまま人を襲っている以上、早急な駆除が望まれます!」

 ブラインドで締め切られた会議室の壁に映し出されたスクリーンの前で、箱根警察署長の舟江が熱弁する。

「待ちなさい。凶暴だとは言え新種である以上、研究のためにも捕獲することは絶対です」

 学者の老人が割り入って言う。

「私もそれは考えましたが……ところで、釘原さんは遭遇されてるんですよね? その生物に」

「はい」

「どういった感じでした?」

「言ってしまえば、あれは地球上に現在存在する猛獣のそれを遥かに凌駕している、と言えますね」

 マコトの言葉を聞いた舟江は「それみろ」と言いたげなドヤ顔を浮かべた。

「ならば、やはり駆除しかあり得ません。捕獲に人員と費用を割いたところで、損益で終わるのは目に見えております。それにですよ、研究なんて死体でも可能でしょう?」

「いや、待った」

 そう言ってドアを勢いよく開け、唐突に部屋に入ってきた小太りの男を見た人々は「観光課長!」と、声を揃えて驚く。

「町長と一緒に東京へ出張では…?」

 会議に参加していた町職員の一人が観光課長の近くを歩きながら問う。

「緊急事態と聞きましたからな。私ワタクシが伝書鳩さながらに飛んで戻って参りました」

 観光課長はスクリーンの前に立ち、両腕を大きく広げて口を開く。

「それでは、単刀直入に貿並町長の御意見を伝えましょう。『生け捕りにして珍獣園を開け』。また『捕獲の様子はテレビやユーチューブ、ニコ生で配信して一大イベントにしろ』とも、言われておりました」

 観光課長が声高に叫んだその言葉に、会議室は騒然とする。清水ユウヤもまた、その言葉に怒りを覚え、机を勢いよく叩いて立ち上がる。

「正気っすか!? 研究目的ならまだしも、珍獣園だなんて危険以外の何物でも無いっす! こんなことは止めるように、今すぐ町長に……」

「清水、一旦落ち着け」

 ヒートアップしたユウヤをマコトがなだめ、代わりにレイカが立ち上がって口を開く。

「先ほど部下が取り乱しましたことを、ここにお詫び致します。ですが、我々JNIAの見解と致しましては、彼の主張と同じです。然るべき機関が、然るべき目的を持ち、安全な対応を取るべきかと」

 レイカの言葉に対し、観光課長は「フン」と鼻息を鳴らす。

「君たちはなぁんにも分かっていないようだね。こ・れ・は、この町の未来に関わることなのだよ。どんなエンターテイメントでも、数一〇年もすれば飽きられる、そうならないためにエンターテイナーは新しいものを提供し続ける必要がある。それで今回計画しているのが件の珍獣園だ。私の言っていることが分かりますかね?」

「エンターテイメント云々の部分については分かりますが、珍獣園の計画ばかりは危険すぎます。考え直してください」

「それ即ち、私の主張が分かっていないも同然じゃあありませんか。いくらあなた方の権力があろうとも・・・」

 その時、再びドアが勢いよく開けられた。部屋に入ってきたのは、カナタたち四人だった。

「なんなんだね君たちは!?」

「釘原さんのとこの関係者、って言うのが一番近いかな」

 カナタたちの姿を見たユウヤは、レイカに小声で聞く。

「月海センパイ、もしかして彼らが……」

「ああ。例の異世界転移事案の当事者たちだ」


「シャークデ……じゃなくて、怪人に関す新しい情報を見つけましたので、ここに報告します」

「それは一体、どういったもので?」

 学者の老人が質問した。

「例の怪人の正体です」

 突入の直後にマキナから耳打ちされた内容を、マコトは答え、詳細についても続ける。

「奴……以後『シャーク』と呼称しますが、シャークの正体はいわば改造生物と言えるでしょう。未知のエネルギー体を身体に取り込み、超人的な力を発揮したということです。…………で、合ってるよね?」

 マコトは丁度後ろに立っていたセルアの方へ顔だけ向けて、不安そうに聞き、セルアもそれに答える。

「はい。奴が活動を行った場所とその周辺には、魔素の構成が大きく組み替えられた未知の魔力成分がこびりついていました。ちなみに、これはカナタの学校の跡地にもありました。恐らく魔王軍の行った身体改造によるものかと」

 この内容についても、マコトは少し改変し、一部をカットして発表した。

「そんなの、単なる妄想にすぎんだろう。証拠を持ってきなさい証拠を!」

「先ほど見せた防犯カメラとドライブレコーダーの映像と、今スクリーンに映しているJNIAのエネルギー観測レーダーが証拠の全てです。

 昨夜の二〇時頃から今朝にかけて、未知のエネルギーが複数観測されていますよね。先ほど私が言った『改造に用いられた未知のエネルギー体』が、放射性物質の放射能と同じような性質を持つ場合、このように観測されることも不思議ではないでしょう。

 これらのことに加え、重ね重ねの説明にはなりますが、映像に映っていたシャークの挙動と姿形は現存する自然な生物ではあり得ないということは明らかです」

「おお……それなら尚更研究が必要じゃないか! 月村くん! 今すぐに捕獲チームを……」

「待て、今の発表で尚更必要になったのは駆除だ駆除。放置したら犠牲者がもっと増える。猟友会や警察では対処しきれないことが想定されます。自衛隊の災害派遣を要請すべきです」

「我々JNIAも、舟江署長の意見に賛同します」

 そう言う釘原の後ろで、カナタたち四人も首を縦に振る。

「いやいや、シャークでしたっけ? サメなら海外に行けばケージの中に入って戯れるアクティビティだってありますよ。ちょっとの危険が無いと楽しくなんてないんですよ!」

 各々の主張が出揃ったところで、三者はにらみ合いになった。

「生け捕り研究!」

「駆除!」

「珍獣園!」

 三者とも一歩も退かない状況。だが、戦いの火蓋は切って落とされた。舟江が観光課長の襟を掴んで投げ飛ばし、とうとう取っ組み合いの喧嘩にまで発展したのだ。

「アンタは市民をなんだと思ってんだ!? 危険を冒せば何人死ぬか分かったもんじゃねえぞ!」

 複数の職員に肩や腕を掴まれて制止させられている中で、舟江は叫んだ。

「おめぇこの野郎……! 議員の俺様に何したか、分かってんのか!?」

「煩い! とっとと辞任しやがれ論外野郎。さっき町長にメールして聞いたよ。それで何て帰ってきたか分かるか? 『珍獣園は観光課長がゴリ押した』とよ!」

「なっ、よくも暴露してくれたなこの野郎!!!」

 今度は観光課長の方が舟江に掴みかかり、彼らの一対一のファイトが始まる。それと同時に騒ぎを聞きつけた部屋の外から、多くの町職員と警察がなだれ込んだ。

 なだれ込んだ者たちの全てが双方をなだめようとするが、勢い余って投げ飛ばされたり、拳が顔や腹に飛んで来たりして、その何人もがヒートアップし乱闘に加わった。そのせいで会議室の大騒ぎはさらに混沌とする。

「うわぁぁぁぁっ。ちょっと、みなさんが喧嘩しても何も解決しませんって! 『事件は会議室じゃなくて現場で起きてる』って青島俊作刑事も……痛い痛い痛い、足踏んでますって!」

 かつてのJNIA本部のときと同じようにもみくちゃにされているカナタが叫ぶ、どこかで聞いたその言葉も、彼らの耳には届かない。

 ────もうどうしようもなくない? これ。

 カナタはそう思った直後、ふと何気なくドアの方へ目をやって見た。すると、先ほど学者の老人が「月村」と呼んでいた若い男が胸から血を噴いて倒れこむ様子が見えてしまった。

 ────え? え? これは、まさか……

 カナタは急ぎ足で、目の前にいた人たちを押しのけながらもドアの方へ向かう。


 **********


「大丈夫ですか!?」

 月村のもとへ寄り添う。しかし、身体が冷たく、脈もない、血もたくさん出ている。何より、彼の心臓部分に噛みついて目一杯荒ぶっているピラニアのような何かの存在が、彼の死を物語っていた。

 ────クソッ、間に合わなかった! 学者のおじいさんは……

 いた。廊下の突き当たり、曲がり角のところで尻もちをついて、青ザメた顔で後退りしている。学者の老人の目線の先には、大きな口で彼を食べようとする恐ろしいサメの怪物の影が映っていた。

「させない!」

 カナタは駆け出し、変身してシャークと学者の老人の間に割って入る。

 彼が目にしたシャークの姿は昨日とはうって変わり、体そのものの大きさは約二倍、背中や肩には戦国武将の甲冑のような蒼い鎧が新たに出現し、鋭利なギザ歯も「鬼」を思わせる牙に変化していた。

「怪人らしい見た目になっちゃって……おじいさん、向こうに非常口がありました。そこから会議室にいる人たちを連れて逃げてください」

「あ、ありがとう。ここは任せた、お面バイカー!」

 学者の老人は立ち上がって深くお辞儀をし、来た道を戻って逃げて行った。

 ────どっちかというとゴニンジャーなんだけどなぁ。

 それらの光景を見届けたシャークは、腹びれのような手をバキバキと鳴らしながらコスモの方へ歩み寄る。

「昨日ブリだな、少年」

「ちゃんと喋れるようになったみたいだね。それに見た目もメガロドン元帥みたいになってる。それで、お前はここになにをしに来た」

 メガロドン元帥とは、映画「シーシャーク・ウォー」の海中サメ人間たちのリーダー的存在である。

「なに、俺様と魔王様に盾突く者たちを殺しに来たまで……だ!!!」

 その瞬間、シャークは床を勢いよく蹴り、コスモめがけて頭から突進する。

「──! ニコーラー!!」

『はいッ!』

 昨日の戦闘のときと同じように、ニコーラーはハニカム状のバリアを、今度は全身に展開する。だが、このバリアはダメージを削減するだけであり、無効化や衝撃の完全な吸収はできないのだ。

 バリア越しにシャークの特攻を受けたコスモは後ろに吹き飛ぶ。その際に壁を一枚破壊してしまったのだが、最悪なことにその壁の向こうには未だ乱闘が収束していない会議室であった。

 ───やばい。まじか。

「みんな逃げて!! 例のサメ怪人が来た!!!」

 コスモの叫んだその言葉で皆の視線は一斉に、開いた穴からのそりと入ってくるシャークに向かった。

 この世のものとは思えない見た目の巨人に全員が息を呑んで後ずさる。

「に……逃げろぉ!!!」

 一人の男が不意に叫んだ一言で、ぴりついた乱闘会場の空気から一転、会議室内は大パニックへと変化を遂げた。恐怖のあまり叫ぶ者、恐怖のあまり走り回ることしかできない者、腰が抜けた者、扉に押し寄せた群衆雪崩の発生で足をくじいた者、どちらが先に逃げるかで喧嘩を始めた者、地獄絵図と呼ぶにはまだ生ぬるいが、極限の恐怖というものがどれほど人をおかしくしてしまうかを実感できるひと時と化しているのは間違いないだろう。

「あいつがシャークデーモン……なんすよね!?」

 ユウヤはマコトに聞く。

「ああその通りだ。月海、清水、天童、総員発砲許可、戦闘用意!」

「「「はっ」」」

 マコトの一言で三人はホルスターから銃を抜き、銃口をシャークに向ける。

「僕たちも行こう」

「うん! 回転する風の……/Alae Venti ……」

 その時、マキナの詠唱を遮るマコトの声が会議室に響く。

「今はダメだ! 人が多すぎる!」

「……確かにそうね」

 逃げ遅れた部外者もいる会議室内での魔術使用。その結果がどうなってしまうかは、マキナにとって想像が容易なものだった。

 ────魔術が使えないうちは……

「二人とも! 取りあえず今は逃げ遅れてる人たちを避難させよう! 人いたら魔術使えないし!」

 マキナが同胞の二人に向かって呼びかけた。

「確かに。失念していた」

「っぱマキナは冴えてんなぁ」

 三人はまず会議室の扉付近で腰を抜かした女性を逃がし、そのまま警察署内全体の避難誘導に向かった。


 **********


 コスモとシャークの戦闘を囲むように、JNIAの四人はそれぞれ倒した机の影に身を隠し、そこからシャークに向けて発砲を行ってコスモの戦闘をサポートしていた。しかし、何発撃って命中させてもこれといったダメージを与えられているようには見えない。

「あいつ、固いな」

「ほんとそれな。マコトセンパ~イ、もうこの際『刀』使っちゃってくださいよ~」

「……すまない、持ってきてない」

「え~だっる。こんなの絶対苦戦コースじゃないっすかぁ!」

「四の五の言って士気を下げるんじゃない、清水!!」

「はいさーせん! からの~? 弾丸一〇連発!」

 レイカに叱られたユウヤは、シャークの頭に向けて宣言通りに弾丸一〇発を連射したものの、案の定まともなダメージは通らなかった。だが、彼の放った銃弾を最後に、シャークのマジギレを誘発することはできてしまったのだ。

 ギロリと睨む恐ろしい視線が、ユウヤを刺す。

「ユウヤ……お前やっちまったな」

「えっ、俺!?」

 シャークは大口を開いてユウヤの方へ飛んでくる。絶体絶命の大ピンチ……だがその時、

「回転する風の刃/Alae Venti Rotantes」

 そう少女の声がしたかと思えば、シャークは左腕に切り傷を作って血を流し、横に二mほど吹き飛ばされた。

「間に合ったぁ……」

 コスモが声の下に視線を合わせると、左手を前に出して息を切らしながら佇むマキナの姿があった。

「今、何が起こったんすか……?」

「ユウヤ、モツ、お前たちも今日からこの事案についてもらうことになるだろうから、これからの戦いをよく見ていろ」

 会議室に、セルア、マキナ、ゴルダンの三人が揃い、各々剣を抜き、杖を構え、オープンフィンガーグローブを装備する。

「あれ? ゴルダン、なんかグローブがゴツくなってない?」

「これがコイツの真の姿だ。俺も危機感を持たざるを得ねぇし、そもそも一時的に弱くなってたからな」

 セルアは一歩前に踏み出し、剣先をシャークに向ける。

「シラ王国王立騎士団壱番隊隊長、セルア・レイズ。シラ王国と騎士団の誇りに誓って、貴様を討ち倒す」

 その口上がセルアにとってどんな時に使われるかを、カナタは知っていた。

 ────キタ……セルアのこの口上は、「本気モード」開始の合図!

 セルアは腰の高さで剣を携えて走り出し、シャークの胸を斜めに薙ぎ払うように斬る。しかし結果はちょっとした切り傷程度。

 ────なるほど。筋肉を魔力で最大限硬化させて傷を最大限減らす。ゴルダンがやっていることと同じか。

 それでも果敢にセルアは攻撃を繰り出し、その隙間を縫うようにマキナは魔法を遠くから放ち、ゴルダンとコスモは格闘技でシャークに確実なダメージを与えてゆく。

「すごいな。押してやがる」

「あれが……異世界の力なんすか!?」

 初めて目にする剣と魔法の『異世界の力』にモトキは圧倒され、ユウヤは目を輝かせた。

「ああ。そうだ」

「私たちも援護するぞ。くれぐれも弾をあいつらに当てるなよ。特に清水!」

「いや、ここは撤退だ。彼らの足手まといになりかねない。上への報告と付近の人間の避難を。行くぞ!」

 マコトを先頭に、四人はその場から離脱した。


「古式武闘術十番:雷拳!」

 その正拳突きはシャークの腹に食い込み、少しの痺れを覚えたシャークは片膝をついた。

「今だ!」

 その声を聞いたセルアは、姿勢を低く、スピードは速く、蛇行しながらシャークのところへ駆ける。

「返してもらうよ」

 彼の呟き声がシャークの耳には届いたが、幸運なことに何のことを言っているのかを理解することができなかった。

 セルアは剣に全ての魔力を込め、シャークの腹を斬り裂く。血と腸が宙に舞うが、シャークはとっさに回復魔法を発動させた様子であり、少しずつ傷が元通りになってゆく。

 そんなところにセルアは手を突っ込み、かき回して探す。

 ────見つけた! ラーシャの腕!

 『それ』を離さぬようにがっしり掴んで、腹から手を引き抜く。

「よしっ。ラーシャの腕、取り返したわね! カナタ、後やっちゃって!」

 コスモはオーブリンクを行い、チェンジャーのスライドを五回引く。

『チョウ・ヒッサツ』

 銃口にエネルギーがチャージされる。

 チャージが満タンになると同時に、コスモはトリガーを引く。

「昨日はできなかったけど、今日は使っちゃうよ!」

『ショット・フィニッシュ・ショーット!!!』

 エネルギーに満たされた弾丸は、目では追えぬほどの速さで空気中を進み、シャークの身体に命中。爆発四散した。

「っしゃ! 倒したと思いたいけど、ジョンソンの例があるから油断はできない!!」

 ……やはり、カナタの不安は的中してしまう。シャークは重傷を負っていたものの生きていた。

「やっぱり! 決めた、もう『チョウ・ヒッサツ』は使わない!」

 死ななかったとはいえ、『チョウ・ヒッサツ』で大怪我を負ったシャークはよろめきながらも立ち上がる。

 ────ここにいてはマズいぞ。こうなっタラ……

 逃げた。シャークは逃げた。床に潜って窓のある方へ向かって全速力で泳ぎ、壁を破壊して建物の外へ逃げ出した。

「あっ、待て!」

 しかし、彼の逃亡計画は失敗に終わることになった。なぜなら、

「これは……バリア? 警察署の周りを囲ってるっぽいな。ってことは……」

 緑色のバリアが、シャークの視界いっぱいに広がっていた。

「ねぇ、このバリアって」

「あぁ」

 二人の会話で自身の予想が的中したことを悟ったカナタは、期待を込めて上を見上げる。


 そこには、残された右腕で杖を持ちつつ、バリアの応用で空へ浮かんでいる司教、ラーシャ・マグナの姿があった。


「申し訳ありません。遅れました」

「怪我人のラーシャがそれを気にしてはダメだ。それより、取り返したよ、腕」

 セルアはラーシャに彼女自身の左腕を差し出す。

「ああっ、ありがとうございます。それでは……

Partes desideratas iterum coniunge/欠損部よ、再び結合せよ」

 左腕に巻かれた包帯を取り、傷口と切断された部分を軽く押し付けながらそう魔術を使用する。すると、光の糸のようなものが二つを縫い繋ぎ、やがてそれが新たな皮膚の繋ぎ目となった。

「回復魔術ってこんなこともできるのかよ。すげぇなぁオイ」

「現実世界に存在しようものなら、医療制度崩壊レベルだね……」

 一時の和やかな空気を放つ五人のところへ、シャークが警察署の壁をよじ登って戻ってくる。バリアに打ち付けられたのだろうか、顔に関してはより重傷が加速している。

「貴様らぁッ……一度に足らず二度も俺様の邪魔をしやがって!! もう……許さんぞ……発動:liquefactio/液状化、turbo/竜巻」

 シャークは二つの魔術を同時発動。長机やパイプ椅子等の残骸、建物の瓦礫を液体に変え、それをさらに渦巻き・トルネード状に変化させた。

「これは『シャークネード』ってことでいいの!?」

「そんなもの知らぬわ!!」

 作り出したトルネードを、シャークは投げるような仕草をしてコスモたちのいる方へ勢いよく動かさせる。

 それらは、回避する暇もなく五人のもとへ到達し、同時に「バン」と破裂した。

 爆発をもろに受けた五人は体のあちらこちらに傷を負い、後ろへ吹き飛ばされ、転げる。コスモに至っては変身が強制解除されてしまった。

『すみません。これイジョウは…………キュウミンモードニハイリマシタ』

「えっ、ウソ? ……っ、まじかよぉっ!」

 シャークは負け犬を蔑むような目でこちらを見下しながら近づいてくる。全身から力が抜けてしまったせいで床を舐めることしかできない彼らを嘲笑うかのように。

「貴様らはこれくらいで許してやる。精々、この町の人間が喰い殺されていくのをそこで見ていろ」

 そう言い残して立ち去ろうとするシャークの背中に、「待て!」とカナタは投げつける。

「今夜〇時、今から一二時間後だよ。箱根元宮に来て。そこで俺とお前で一騎討ちをしよう。町の人たちを殺すのは、俺をもう一回倒してからだ!」

「……面白い。その勝負、乗った」

 シャークは再び彼らに背を向けてその場を立ち去る。警察署の周りに張られたラーシャのバリアは、既に消失していた。

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