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ベストフレンド  作者: ROSE


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10/18

9 気晴らし

 相変わらずアンバーは浮き沈みが激しい。

 それに以前よりも頻繁に外出するようになっていた。

 ダニエルは屋敷や庭の掃除をして、時々デラの手伝いもする変わりない生活を続けながら、いつまでも世話になるのは申し訳ないと無料配布されている求人情報誌に目を通し、数回面接を受けたが結果は散々だった。前職に対して偏見がある人間が多いことは理解していたつもりだったが見通しが甘かったのだろう。

 ジャガイモの皮むきを手伝いながら溜息が出た。

「ダニー、落ち込まないでください。きっといい職場と出会えますよ」

 デラはそう励ましてくれるけれど、それはそれで複雑な心境だった。

 つまりデラはダニエルに早く出て行って欲しいということなのだろうか。

 彼女の性格を考えるとそんなことはないと理解出来るはずなのに、思わず後ろ向きな考えに襲われる。

 少しでもアンバーを元気づけようと、彼の好物らしいハッシュドポテトを用意する手伝いをしていたはずなのに、今慰めが必要なのはダニエル自身のように思えた。

「ダニー」

 背後から明るい声が響いた。

「あれ? 今日は料理の手伝い? デラ、ダニーを借りてもいい?」

 明るい少年の様にアンバーがデラにおねだりする。どうやら今日は気分がいいらしい。

「はい。もちろんです。ダニー、アンバー様を頼みましたよ」

「ええ」

 ダニエルは頷いてアンバーを見る。

「なにか手伝いが必要?」

「僕の気晴らしに付き合って。夕飯までには帰ってくる予定だから」

 アンバーは久々に会った伯父を遊びに誘う少年の様にダニエルの手を引いて歩き出す。

「気晴らし? どこか出かけるの?」

「うん。ダニー、運転免許証は持ってる?」

「一応」

「お酒は?」

「好きだけど、最近は飲んでないかな」

 そう答えるとアンバーは少しだけ考える仕草を見せ、それからベンを呼んだ。

「ベン、車を出してくれる? 帰りはタクシーを使うけど」

「かしこまりました」

 ベンは車の鍵を取りに去って行く。

「遠出?」

「ちょっとね。ああ、ついでだからダニーも何着か仕立てよう」

「へ?」

 ダニエルは耳を疑う。

「贔屓のデザイナーがいるんだ。フィットするスーツを仕立てるのが上手い。彼のスーツは上品で、つまり、凄くいい。口うるさい親戚連中も彼のスーツの仕立てだけは褒めてくれる。まあ、僕がそれを着ることをいいとは思わないみたいだけど」

 アンバーは少しだけ不満そうな様子を見せた。

「無理だよ。僕は新しいスーツを仕立てられる程の余裕はないんだ。確かにいい給料は貰っているよ。でも、君が贔屓にするようなデザイナーに仕立てて貰えるほどじゃないだろう?」

 この先の生活の為に貯金もしなくてはいけない。

「いいよ。僕のおごり。ダニーは背も高いし、スタイルがいいからきっとデザイナーも喜ぶよ。僕に少し身長を分けてくれたっていいんだよ」

 アンバーは冗談のような口調で言う。

「アンバー、それは貰えないよ。僕は君から十分過ぎる給料を貰っているんだ」

「勘違いしないで。デザイナーへの投資みたいなものだよ」

 そう言い切られてしまえば、ダニエルはなにも言えなくなってしまう。

 育ちが違う。

 アンバーにとっては本当に投資のひとつでしかないのだろう。

 ダニエルはそう自分に言い聞かせるしかなかった。




 ブティックが並ぶ通りで、骨董品店のような雰囲気の看板を掲げた小さな店に入る。

 高級衣装店の中でもかなり上等であろうことが一目でわかる紳士服専門店のようで、アンバーが入るなり真っ先に素晴らしい仕立てのスーツに身を包んだ金髪の美男子が声をかけた。

「いらっしゃいませ。アンバー様。お久しぶりです。本日も新しいニットを?」

「今日はパーティーに着ていくタキシードを一着。あとは部屋着も少し欲しいな。それと、彼のスーツも何着か仕立てたい」

 アンバーは慣れた様子で美男子と話を進めていく。

「ダニー、彼がデザイナーのジャスパーだよ。凄く腕がいいんだ。君もぴったりのスーツを仕立てて貰うといい。ジャスパー、僕のサイズは把握しているだろう? 親戚が集まるだけのパーティーだから君の好みで仕立ててくれ。部屋着は楽なのがいいな」

 アンバーは話しながら店内をうろうろと歩き始めた。

「アンバーはいつもあんな感じなの?」

 ジャスパーに訊ねる。

 アンバーがこのままふらふらと消えてしまうのではないかという不安が込み上げたせいかもしれない。

「ええ、初めの頃は細かい指示を頂きましたが近頃は私に任せてくださいます」

「スーツはフィット感が命だからね。嫌いな色が入っていなければそこまで拘りはないんだ」

 アンバーは店内を囲むようならせん階段の上からそう答える。

 どうやら三階までこの店が使用しているらしい。階段を上がりながら既製服や生地見本が確認出来るインテリアは店主の拘りなのだろうか。骨董品の雰囲気と上品な仕立ての既製服を見るだけで上流階級向けの衣装店なのだと伝わってくる。

 自分は場違いなのではないか。どう考えたダニエルの前に、巻き尺を手にしたジャスパーが立った。

「採寸しながら要望をお伺いします」

「え? ええ。お願いします……あー、実は、オーダーメイドでスーツを作るのは初めてで……」

 スーツはいつも吊るしをサイズ直しして着ていた。ドレスならオーダーしたことがあるけれど。そんな言葉を飲み込み、ジャスパーに全てを任せることにした。

 

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