Log 0:未来確定事項
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治療ルーム前は、負傷者で溢れていた。
メディカルアンドロイドを呼んでも、処理が追いつかない。
その間に、桐生と間宮の容体は急変し、危篤状態へ移行する。
咄嗟の判断で、私は幼馴染である桐生を”治癒能力”で回復させ、
続けて間宮の生命活動の蘇生を試みた。
残存体力をすべて使い果たし――
成功率は計算上、2%未満だったはずだ。
間宮の恋人である長谷部のエネルギーを転用した影響で、
彼女のバイタルは急激に低下している。
(しかし、彼女の必死な願いは通じた……)
(よかった)
瀕死の二人を同時に治癒したため、
悲鳴をあげそうな激痛に襲われた。
死傷者が多く出ているにもかかわらず、作戦変更はなく、
小隊が崩壊しても撤退命令は出なかった。
――生還を前提としていない配置。
――足音。
規則的。複数。
重装備特有の床振動が廊下側から接近してくる。
このフロアは特別病棟。
通常警備ではない。
桐生がいる緊急治療ルームのドアが、激しい衝撃音とともに開いた。
空気圧が変化し、室内の静音が破壊される。
ルール違反者の拘束部隊。
SEAL執行代行者だ。
「個別ID:ナズナ博士。
匿名通報に基づき、軍事規約逸脱の証拠を確認した。
君は重大なSEAL法違反の被疑者だ。
――間違いないか?」
桐生たちの安全を最優先に考え、
この部屋での被害を最小限にするよう努めた。
反論成功率、3%未満。
最適解は一つ。
「その通りです」
「確認した。ナズナ博士をSEAL法違反で拘束する」
「本時刻をもってSEAL研究博士の権限を停止。24時間以内に中層階級資格を剥奪する」
「身柄は執行局へ移送する」
わたしは無抵抗のまま拘束された。
執行代行が、わたしを立たせようとする。
視界が揺れる。
出血が止まらない。
エネルギー消耗が大きすぎる。身体が言うことをきかない。
「……すまない。現在、起立は不可能だ」
「把握。拘束を維持。運搬ドローンを要請する」
金属アームが降下する。
両腕、両脚を固定。生体認証ロック、三重。
振動とともに、床が遠ざかる。
その時、病室の扉が開いた。
西園寺が入ってくる。
……それで、すべて理解した。
わたしは彼女の意図によって、ここに至ったのだ。
西園寺は、まるで汚いものを見るような目で私に言った。
「見苦しいわね。早く連れて行ってちょうだい」
わたしを一瞥しただけで、興味を失ったように視線を外す。
桐生、間宮、長谷部、そして多くの負傷者。
あの作戦配置。撤退命令の欠如。
「私を排除するために、あの作戦配置を組んだのか。」
「証拠? あるとでも?」
「仮にあったとしても、あなたには関係ないわ」
「――あなたは、ここで終わり。次に目を覚ます場所はスラムよ」
わたしは彼女に問う。
「……貴方にとって、桐生とはどういう存在なのか」
「所有物よ。それ以外の何でもないわ」
(そうか)
(所有することが、この人の中では愛と等価なのか)
わたしは、それでも西園寺に頼むしかなかった。
「……君は私を憎んでいる。それは理解した。
だが、桐生への執着は本物だろう。
……ならば、彼を傷つけるな」
「はぁ? 何を勘違いしているの……気持ち悪い女ね。
執行代行、早く連れて行ってくださらない? 気分が悪いわ」
わたしは、連行されていく最後に桐生を見つめた。
再会確率は、限りなく低い。
桐生。
間宮。
長谷部。
すまない。
「桐生。今までありがとう」
「間宮、長谷部……どうか彼を頼む」
病室を出る瞬間、桐生の安定したバイタルが、わずかに動いた音がした。
わたしは、こうして犯罪者として登録され、
すべての資格は剥奪された。




