第十二話 宴
【ホプキンス視点】
まさかあのねぇちゃんが魔王とやらの側近を追い返しちまうなんてな。
でも、突然手を握られて坊ちゃんのことを話し出したのは、流石の俺も恐怖を覚えたぜ。
だってなぁ。
「あのビスマルク家の使用人さんですよね?ビスマルク家の使用人さんですよね?」
何故、俺がビスマルク家の使用人であることを知っているんだ?
いや、それよりもいきなり強く手を握るのはやめて貰いたい。
もしも、指が折れたらどうしてくれるんだ?
「あ、あぁ。その、手を強く握るのはやめて貰えると助かるのだが」
「ラルク君は!ラルク君は無事ですか!」
いや、全く話を聞いてくれないのだが。
それよりも坊ちゃんが無事というのはどういう意味だ?
そりゃ、学校にいてあの魔法陣に巻き込まれていない坊ちゃんは無事だろ?
いや、まさかな。
「なぁ、ねぇちゃん?アンタ、名前は?」
「あっ!すみません。私、ラルク君の担任をしてます黛比呂と言います!」
な、なんだって!?
それって、もしかして坊ちゃんの学校も巻き込まれてるってのか!?
この異世界に?
まずい!まずいぞ!
近くに堅物眼鏡や拗らせメイドがいるならまだしも坊ちゃんが1人だった場合、こんな殺伐とした世界で優しい坊ちゃんが生き残れるわけがねぇ!
一刻も早く、坊ちゃんを探さねぇと!
アイツらにも言って、直ぐにでも旅に!
というかこのねぇちゃん力強すぎだろ!
「そろそろ、手を離してもらえないか?」
「ラルク君は無事なんですよね?」
「その質問の答えは、俺が知りたいぐらいだ!とにかく、その手を離してくれ!坊ちゃんを探さねぇと!」
「そ、そんな。ラルク君は近くにいないんですか!?貴方、使用人の癖に何してるんですか!」
「それはこっちのセリフだ!学校の先生の癖に、坊ちゃんから目を離したのか!」
と、こんな意味のないやり取りを繰り広げて今、俺たちはフランク王国の国民たちと魔物を追い返した喜びを分かち合う宴とやらに参加している。
ハァ。
俺は直ぐにでも坊ちゃんを探しに行きたいのだが、それはクローヴィス陛下に止められた。
「ふむ。こちらからも人を出して探すゆえ、暫くは情勢が分かるまで、動くのは危険だと言える。しかし、旅に出るのを止めることもできん。そうだな。料理人として、余の国民たちに一先ずの平穏を手にしたささやかな宴のために料理を振る舞ってくれぬか?」
こんなことを一国の王から言われて、無碍にできるわけもない。
今は坊ちゃんのことは一旦忘れて、フランク王国の国民たちに料理を振る舞っている。
それが終わって俺たちも食事をとっているところだ。
そこで、俺は坊ちゃんがこの異世界に巻き込まれてる可能性を話している。
「あ!あぁ!」
叫んだのはミネルヴァだ。
「ど、どうした?」
「そうですよ料理長の言う通りなんです!実は、今日私たちに協力してくれていたユイなんだけど。彼女、坊ちゃんの学校の先生なんですよ!」
ミネルヴァの言うユイとは、棚瀬結衣と言って坊ちゃんの学校で理科を教えている先生だそうだ。
そして、料理人の俺たちと相性のいい『食器生成』というギフトを持ち、宴のための皿やコップ、スプーンにフォークにナイフなどを出して手伝ってくれたのだ。
「待ってくだせぇ!料理長やミネルヴァの話が真実としたらでさ。坊ちゃんは相当危険な状態ってことはありやせんか?」
「だったら、こんなことしてる場合じゃないっすよ!直ぐに坊ちゃんを探しに行かないとっす!」
ソルトの言葉に舟盛が続く。
あぁ、2人とも俺と同じ気持ちでよかった。
でも、みんなに確認はしないといけないよな。
「あぁ。俺は皆んなが良ければ、疲れた身体を癒して直ぐにでも坊ちゃんを探す旅に出たいと思っている。付いてきてくれるか?」
「料理長、もしかして1人で坊ちゃんのヒーローにでもなるつもりでやすか?そんなことはさせないでやすよ!」
「そうっすよ!1人で行こうとしてたなんて水臭いっす!」
「あまりの忙しさで料理長が話してくれるまで大事なことを忘れてた私に資格がないかもしれませんけど坊ちゃんが困ってるなら直ぐにでもお助けしたいです」
「おいどんは、優しい坊ちゃんが好きでごわす。その坊ちゃんが寂しい思いをしてるのは可哀想でごわすよ」
俺の言葉にソルトと舟盛だけでなくミネルヴァやヌードゥルも続いてくれた。
俺は目に涙を浮かべ、一言。
「感謝する!」
こうして、俺たちは数日間フランク王国で準備して坊ちゃんを探しに行くことを決めたのだが………結果としてそれは必要無くなった。
まさか、旅を始めようとした俺たちがいきなりダンジョンに食われるとはなぁ。
それよりもダンジョンって動いてるんだなぁ。
こんなことならもっとフランク王国の人たちにこの世界のことを詳しく聞いておくんだったぜ。
坊ちゃん、すいません。
どうやら、俺はここまでのようです。
だって、俺たちの目の前には、沢山の魔物が。
いや!
絶望するなんて俺らしくねえ!
「ハハッ。お前ら!ここを切り抜けるぞ!」
おぅ!と俺の言葉に反応してくれる部下たちと共に魔物に対峙した時、何処からか懐かしい声が聞こえた。
「ホプキンスさん!それにみんなも無事でよかったよ!」
何で、坊ちゃんの声が目の前の魔物にしてはやけに可愛らしい見た目の立っても俺たちの身長の4分の一もいかない二足歩行の兎から発されているのかは謎だが。
俺たちは、罠を警戒して尚も身構えるがその後に現れた堅物眼鏡と拗らせメイドを見て、一先ず安心するのだった。
ここまで、お読みくださりありがとうございます。
少しでも続きが気になると思っていただけましたら評価・良いねしてくださいますと執筆活動の励みとなりますので、宜しくお願いします。
それでは、次回もお楽しみに〜




