プールと8月32日のカレンダー
これは私が小学5年生の時に体験した不思議な話。
夏休み中だった。幼馴染の友太郎と市民プールに遊びに行った帰り。
「友太郎、プールの後のアイスって最高だね」
「だね。こんな夏休みが永遠に続けばいいのに」
そんな話をすぐるらいプールが楽しかった。アイスも美味しい。
しかし時は残酷。あっという間に8月31日なり、宿題に追われながら願った。
「神様、私、ずっと夏休みがいいです。毎日友太郎とプールで遊んでアイス食べたい」
そう願った後、壁のカレンダーに8月32日が出現した。
「え? 本当!?」
その上、9月以降のカレンダーも消えた。これは願いが叶ったのかもしれない。
その日からずーっと友太郎とプールで遊んでいた。毎朝、目覚めると8月32日だ。9月1日はやってこない。楽しい。永遠に夏休み。
でも。だんだん飽きてきた。確かに友太郎と遊ぶのは楽しかったが、逆に宿題、学校、先生、進学という現実もより考えてしまう。
心から楽しんで遊べなくなってきた。このまま大人になれず、ずっと友太郎とプール遊びしてるの? 泳ぎも上手になったけど、プールの水に溺れそう。
プールの後に食べたアイスも美味しくない。苦く感じる。一番高いプレミアムラインのソフトクリームなのに。
「やっぱり宿題終わらせて学校行くべき?」
私はあのカレンダーを破くと、9月1日が現れ、時も進んだ。ほっとした。宿題や学校もあるのに、現実世界に帰れたと思った。
もっとも友太郎はあの後難病に罹り、12月31日に亡くなってしまったけれど。もしかしたら、神様が友太郎との最期の夏休みをくれたのかもしれない。
また今年も夏がくる。
高校生になった私は、さっさと宿題を終わせ、プールで遊んだ。その後に食べるアイスクリームは最高に美味しい。100円のジャリジャリのシャーベットアイスなのに。
宿題は早めに終わらせるのに限る。