指の爪 その2
神、感動
数いるメガネウラのうち、1体のみにしか力を与えられないため、目を皿のようにして観察し、ようやく我が力を与える個体を決めた。
指の爪をぶちっと千切り、ゆっくりとメガネウラに与えた後、我が意識も降ろした。
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メガネウラとても強い。
手始めに、生息地の森にいる冒険者を狩り尽くした。
こうして自身で冒険者に狩っていると改めてその狩猟能力の高さに感動する。
まず、冒険者を見つけるのが早い。そして接近も早いため、気付かれずに食べてしまうこともあった。
たとえ冒険者が気付いたところで、我が敵ではない。奴らは「おい、メガネウラだぞ、弓!魔法!」だなんて言って弓矢や魔法を使ってくるが、複眼とこの飛行能力があれば、見切ることも回避することも容易い。
なんなら、冒険者の数が少なくて物足りないくらいであった。ヒトトリシダには申し訳ないけれどスペックが違う。
なんだか森での狩りはウォーミングアップというか、我まだまだ行けますけど?といった感じだったので、森を飛び出して近場の空から付近を見回ってみることにした。
この辺りはあまり大きな街はなく、村というか集落が点在する程度の人口密集率だ。まぁ、ようは田舎ということである。
大きな街を襲うようには一度に多くの人間を狩ることはできないが、今回こちらはソロである。ヒトトリシダたちのような動きとはまた違った方法を取るべきであろう。
一つひとつ地道に村を襲って行こうと思う。
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4つ。
我が襲った4つの村々はあっけなく落ちた。
どの村も、農業、林業、漁業に携わる人間が多く、野生動物相手には多少戦えたり、体力があろうとも、魔法を使えたり本格的な戦闘をできるものはどこにもいなかった。
これでは経験の足しにもならないなぁ、なんて考えていると遠くの空から魔族が飛んでくるのを感じた。この感じは鳥の獣人であろうか?
「やぁ、こんにちは。」
良い風魔法の使い手だった。
かなりのスピードで飛んで来たにも関わらず、着地の際減速が少なく、周囲の空気のゆらぎも僅かであった。
風魔法の制御、その精密性は目を見張るものがある。そしてよほど風魔法に自信があるのか、この獣人は背中に羽があるというのに、羽ばたくことはせずに風魔法で飛行していた。
「この辺りの村がいくつか潰れていたね。君がやったのかな?強いんだね。」
そうだとも。メガネウラは強いぞ。
「人間を食べるのが好きなのかな。君、立派な顎をしてるもんね。素敵だよ。羽もとても綺麗だ。魔力を上手に操ってるからキラキラしてるね。」
ふむ。良い目の付け所だな。だがしかし、メガネウラの愛らしいところはそれだけではないぞ!
「これだけ羽と魔力が綺麗なら、君はきっととても上手に飛べる子だね。飛んでところが見てみたいなぁ。ちょっと飛んでくれない?」
今飛ぶのは普通に嫌だな。この獣人に従ったかのようになるのは嫌だし、何より今人間を食べている真っ最中なのだ。食事中に空を飛ぶのはお行儀が悪い。
「それっ。」
ぎゃっ。危なっ。
この獣人、我の食事中に風魔法で攻撃してきおった。我であったから食べていた人間を捨てて華麗に避けれることができたものの、我でなければ死んでいたところである。
「わぁ。避けるの、上手だね。もっと見せてほしいな。」
誰が見せるか。なんなんだ、こいつは。面倒くさいというか変なやつだ。
こういうやつは相手にしないに限る。さっさと逃げてしまおう。
メガネウラはその羽による飛行で、馬よりも速く飛ぶことができる。昆虫種としては最速である。
更に、風魔法によるブーストをかけると、並の生き物では追いかけるどころか、もはや目で追うこともできない。
そんなトップスピードを持ってしてその場から離脱したのだが。
「すごく速いね。思ってた通り、飛んでいる姿、とても綺麗だよ。」
なんなんだ、この獣人は。
たかだか、鳥の獣人にこのスピードで飛行できる訳がない!
しかもこの後に及んで未だ羽は使わず、風魔法のみで追い縋っている。
「ふふっ。やっぱりメガネウラって素敵な生き物だよね。僕は君たちが世界で一番素晴らしい生き物だと思ってるんだよ。」
まぁメガネウラが素晴らしい生き物であることは間違いない。シダたちの次にな。
というか、いつまで追ってくるんだ。
「だからね、君たちはもっと素晴らしくなくちゃいけないんだよ。」
は?
「メガネウラはもっと素晴らしい生き物なんだよ。君みたい弱いメガネウラはいてはいけないんだ。この世に存在していいのは素晴らしいメガネウラだけなんだよ。だからね。」
あ。
避ける間もなく風魔法が発動され、羽を引きちぎられる。
この獣人、この、飛行速度で、、攻撃も、だ、と……
「さようなら。次生まれてくる時はもっとずっと強くて素敵なメガネウラに生まれてきてね。」
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びっくりした。
なんだかすごく変な獣人がいた。
こんなのがいるから、人間というか獣人も含めて早く滅ぼしてしまうに限る。
今回は運が悪かった。生まれた近くにこんな変な獣人がいるなんて。
次は今回生まれた場所から遠いところのメガネウラを選べばよいのだ。面倒なことは避けて地道に人間を死滅させるのだ。
過激派解釈違い断固拒否強火担