指の爪 その1
神、次の手
シダ植物も好きだが、他にも好きな生き物がいる。
トンボだ。
特に、このビオトープの中には、最強のトンボ、メガネウラが存在する。
ビオトープの中で我が1番好きなシダ植物ではかなり頑張ったので、次はメガネウラで人間を殲滅できるよう頑張りたい。
このメガネウラ、何が良いっていうとかなり尖った性能をしたロマン満載な生き物であることだ。
まず、防御を捨てている。
他の昆虫は甲羅のように硬い2枚の羽を持ち、自身の体や飛ぶための柔らかい残りの羽を守っている。
しかし、このメガネウラは天敵となるドラゴンや人間、魔族など様々な危険があるにも関わらず何も対策をしていない。
羽は4枚とも飛ぶためのもので柔らかく繊細にできており、頭部も羽も腹も柔らかい部分をそのまま無防備に晒している。
メガネウラが紙とも言えるような脆弱な防御力と引き換えに得ているものは、高い狩猟能力だ。
眼。
視野、動体視力、遠近感、位置把握、色彩認識どれをとっても一級品。獲物を見つけること、捕まえるまで見失わない能力に長けている。
顎。
強靭、これに尽きる。獲物を咥えて離さないようにする棘のようなつくり。そして、なによりそのパワー。生半可な鉱石や金属であれば容易に噛み砕く。
羽。
4枚全て飛翔のために使う。そして一枚ずつそれぞれに筋肉がついているため馬力が段違い。急停止、急発進、旋回などバリエーション豊かな飛び方もできる。
そして魔石。
命とも言える魔石を多くの生き物は守るため体の奥深くに隠すように持っているのに対して、メガネウラはなんとそれぞれの羽の先に1個ずつ、計4個体外に魔石がある。
危険は跳ね上がるが当然メリットもある。
羽の先に魔石を据えることで魔石の重みで羽の振動が減り、飛行時の精密性が上がる。また、魔石を通じて羽の周囲の風を調整し、より推進力が出るよう飛べる。
本当に尖った性能をしていて、なんでもできる我とは大違い。
だからこそ、そのロマンに憧れるというか、こう、見てるだけでウキウキとした気持ちになるのだ。そういうところが好きなのである。
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メガネウラを観察していると、困ったことに気が付いた。どうやら、我が力を受け入れるのにあまり種族柄向いていないようであった。
ヒトトリシダたちのように、とにかく数を増やしていく、というのはできそうにない。
個体をできるだけ厳選して、可能な個体に大きい力を与える方が向いていそうだ。こんなところまで性能が尖っている。
ようやく2体、受け入れられそうな個体を発見した。
どのくらいであれば問題ないか、よくよく見極めてそれぞれに指の爪を一枚ずつ与えた。
メガネウラ
スキル:飛行、風魔法、捕食、複眼、身体強化(new)、超思考(new)
状態:神の爪保有(new)
ふむふむ。順調に強くなったようだな。
我の意識も降ろしてみようかな…って、ん?
あれ?あれあれ?
なんか、メガネウラ同士で争ってない?
どっちも我が爪を与えた個体じゃん、何やってんの?縄張り争い?
ちょ、やめなって。あ、こら。両方死んじゃうって。待って待って、あ。
あ、あぁ〜。
…
…
…せっかく個体を頑張って探して、爪を与えたのに縄張り争いで2体とも死んでしまった。
うーん。2体でこうなっちゃうってことは、我が力を与えるのは1体に絞った方がいい感じかな。すごい闘争本能である。
残念ではあるがまた個体選びからやり直すことにする。
ままならないこともあります。