約束のラリアット
神、兄
そういえば以前姉上にビオトープを作ったら見せに行くと約束していた。
我がビオトープはまだ人間がうじゃうじゃで完成には程遠いけれど、約束してしまっているのでしょうがない。
という訳で、
「姉上ぇ〜、来ました〜。」
「げっ。」
「やぁ、久しぶりだね。」
「あ、兄上ではないですか〜。…そぉおらッ、チェストォっ!!」
「あっぶっ、、あっぶないよ!今首を狙ったね!相変わらずやんちゃだなぁ。」
ちっ。躱されてしまったか。
「まさか、本当にやるとは…」
「我は嘘はつきませんから。それに元はと言えば兄上が悪いのです。」
「私?私何かしたかな?」
眩しい。この兄は存在自体が眩しいのだ。
そこにいるだけで周囲に泡が湧いて光を反射しているし、喋れば空からキラキラと薔薇が降る。今だって、ふぅと吐いたため息から輝かんばかりの美しい白鳥が生まれて飛び立っていった。
「我を除け者にして、兄弟で楽しそうなことしてましたね。我を除け者にして。」
「何、なに?なんのこと?」
「はぁ。貴様はちゃんと説明をしろ。兄上が困っているだろう。」
「姉上、ため息をつくと幸せが逃げますよ。」
「やかましいわ。」
「え、なに?教えてよ。なんのこと?」
「兄上、うるさいですよ。」
「理不尽だなぁ。」
兄上は間が悪くて困る。
「兄上、こいつはですね、兄弟達が皆ビオトープを作っていたのに自分だけしていなかったから、除け者にされたと言って騒いでいたのですよ。」
「あぁ、そういうこと?でもわざとじゃないよ。会わなかっただけだよ。」
「それでもです。除け者にした事実は変わりませんから。それに他の兄弟達にも次会ったらするので大丈夫ですよ。我は兄上らと違って、誰かを除け者にしたりはしませんよ。これで寂しくないですね、兄上。」
そうだ。我は他の兄弟達と違って優しいから、全員区別せずにラリアットするつもりだ。
これが平等である。
「もう、やめとけばいいものを…。」
「そっか、みんなにやるんだね。頑張ってね。」
「はい。頑張ります。」
「というか、貴様何しに来たんだ。まさかラリアットだけ喰らわしに来たのか。この暇人が。」
「やだなぁ、違いますよ〜。それに我暇してないですし。」
「暇じゃないんだ。君、ずっと暇してるもんかと思ってたよ。」
「兄上うるさいですよ。」
「えぇ。」
我が暇してる訳がない。何せ今ビオトープ作りで忙しい。
「姉上が言ったんじゃないですか。ビオトープを見せつけにこいと。ちゃんと約束を守りにきました。」
「見せつけろとは言ってないがな。まぁ見てやるから出せ。」
ここまで持ってきたビオトープを懐から取り出す。
薄く光っているそれを姉上と兄上が覗き込む。
「なかなかいい感じじゃないか。発展してきているな。」
「いいね、生き物が混沌としててビオトープって感じだね。」
「いえ、まだまだです。我はこのビオトープの中から人間がいなくなって欲しいので、今はそれを頑張っています。」
「えぇ?そうなの?多分大変だけど頑張ってね。」
もちろん頑張る。人間は嫌いなのだ。人間さえいなければ我がビオトープはより良いものになる。
「兄上もビオトープ作ってるんですよね?」
「うん。見るかい?」
そう言って兄はビオトープを取り出した。
なんだか全体的に薄桃色をしていて、柔らかそうに感じた。
「?なんだか騒がしいんですが、これ何してるんですか?」
「これはね、美女を決めてるんだよ。」
「はぁ、美女ですか。」
「神のお告げとしてね、『このリンゴの所有者がこの世界一の美女ですよ』って伝えて金色のリンゴを落としてみたんだよ。そしたらね、みんなすごい争い始めたんだ。」
「兄上、気持ち悪いですね。」
「え、それ私のこと?ビオトープの中のこと?」
「兄上です。」
「えぇ、でも面白いよ。どうせ趣味でやってるんだから面白いことしたくない?」
「2人とも悪趣味だな。」
姉上が全く喋らないと思ったらすでに仕事に戻っていた。また、仕事を貯めているらしい。
この暇そうで気持ちの悪い兄上はともかく、仕事まみれの姉上を邪魔するのは申し訳ない。
「我はそろそろ戻ります。またビオトープづくりを頑張ります。」
「そうか。早く帰れ。」
「また見せにきてよ。頑張ってね。」
「やです。姉上〜、また来ます。兄上、さようなら〜。」
「素直じゃないなぁ。」
よーし帰ったら頑張るぞ〜。