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グッと掴んでできた髪の毛の束の毛先幾千 その3

神、好み


数である。結局のところ。


ヒトトリシダはか弱く、個体を厳選して、我が力を降ろした所で草魔法を得るのみである。

大変愛らしいか弱さだが、人間に相対するとなると、いささか心許ない。このか弱さをどのようにカバーするのかというと、数。数を増やす。この一点である。


ヒトトリシダを厳選している時に気づいたことがある。シダは皆一様にか弱いのだ。

逆に言うと、ほとんど個体差が存在しない。ほぼ全ての個体が我が髪の毛先をようやく受け入れ、草魔法のみを得る。

か弱いにはか弱いが、量産が可能である。


この際どんどん量産して、人間を食べてもらう。その過程で、もしヒトトリシダが死んでしまったら、我が力が他のヒトトリシダに移るようにしておこう。とにかく、数で押すのだ。


本当はペルティーダの森にヒトトリシダよりもずっと強く、人間をどんどん追い詰めることができそうな生物がいることや人間をたくさん減らせるような他の方法を思いついていたのだけど。


我はこのビオトープを趣味でやっているのだ。


たとえか弱くとも、ヒトトリシダに頑張ってもらいたかった。なぜなら、ヒトトリシダは可愛いから。

どうせなら、力を与えたり、意識を降ろしたりするのは可愛いものがよかった。


次こそはこの愛らしいヒトトリシダに人間をたくさん食べてもらいたい。

その一心で神は自身の髪をひと束グッと掴み、慎重にその毛先をヒトトリシダに向かって切り落とした。


こうして、ビオトープには神の力を得たヒトトリシダが幾千と誕生することとなった。


*****************


幾千のうちの一株に神はその意識を降ろしていた。

今回意識を降ろした個体の周囲にはたくさんのヒトトリシダが生い茂っていた。

周囲に生い茂る中の数株、そして森全体にはたくさん、神の力を降ろしたヒトトリシダたちがいるのを感じる。

どの個体も力が定着し、草魔法が使えるようになっている。上手く量産できているようだ。


せっかく量産できたので、まずやることは1つ。森にいる冒険者を食べるのだ。


既に冒険者が近づいている個体もある。早急に対応しなければならない。

かといって一体一体に意識を移し替えていくことも面倒なので、取り急ぎ力を降ろした個体に訓示を出すことにした。


・必ず冒険者の倍以上の数で襲うこと。

・積極的に人間を食べること。

・安全なところにいる個体は繁殖すること。


ヒトトリシダはか弱く、降ろした力も小さいためあまり複雑であったり、たくさんの訓示は実行できない。この辺りが妥当な範囲である。


****************


周りのヒトトリシダたちを従えて、人間を探す。

前回出会い頭に人間に遭遇してしまったため、今回は十分周囲に気を払い、隠れながら進んでいく。


このペルティーダの森にはそれなりに冒険者達が潜んでいたらしく、元々街に近い所にいた個体の中には、既に何人か人間を食べている個体も出始めている。

人間を減らしている反面、300近いヒトトリシダたちが討伐されてしまっているが、特に問題はない。

ヒトトリシダは胞子が地面に落ちた後、この森の湿度であれば数時間で発芽する。まぁ、動いたり、食べたりができるまで成熟するにはもう幾ばくかかかるが、人間が繁殖するよりは遥かに早いだろう。

森の奥地にいた個体たちは人間に出会うことなく、順調に繁殖しており、すでに討伐数以上にヒトトリシダたちが増えている。


「ねぇ、なんか今日は全然他の冒険者と森で会わなくない?」


人間だ。こちらにはまだ気付いてないようだ。


「そう言われれば、そうだな。でも森は広いし、そう言う日もあるだろ。」

「えー、そうかな。なんだか不安になってきちゃった。」

「大丈夫だって。それに、なんかあっても俺が守ってやるよ…。」

「もぉ、やだぁ♡」


そうか。なら、しっかり守ってやることだな。


「それにしても、なんだか静かすぎる気が…きゃぁぁぁああっああッ!」

「なんだこれ?!植物系の魔物か?離せッ!」


ふむふむ。この人間たちは魔法が使えないから、ブンブンと剣を振り回し、ヒトトリシダの拘束を解こうとしているのか。

対するヒトトリシダは草魔法を覚えたとはいえ、さして強力なものではないから、自身の葉っぱや茎、根っこをどうにか動かして対抗している。尖っている部位がなく瞬発力もないため、刺したり殴ることもできず、巻きついたり暴れたりでどうにか冒険者を食べようとしている。

凄まじい泥試合だ。全く華がない。


「ハァ、はぁ、クソッ!オラァ、離せッ!」


おぉっと、ここで男冒険者の一太刀が茎に大きな切り込みを入れたぞ!女冒険者の拘束が解けるか?!

あぁー!粘る!ここにきてヒトトリシダ、更に粘りを見せ拘束を解かず!


剣を振り回す男冒険者は女冒険者を助けようとするのに必死で次第に周囲への注意が散漫になっていく。

まぁ早く助けて拘束を解かないと消化しちゃうもんね。


「待ってろ、はぁはァ、ゼェはッ、必ず助けるから、あ、あ、うわぁぁ、アアぁあ!」


お、徒党を組んだヒトトリシダたちが男冒険者を背後から襲ってフィニッシュ。ヒトトリシダたち、か弱いながらよく頑張ってたね。

残念ながら、1番深手を負った個体は助からなかったけど、最小限の被害で人間を食べることができた。あのか弱いヒトトリシダの捕食を目の前で見ることができて、なんだか感慨深い。

一戦終えたヒトトリシダたちを見ると、心なしかツヤツヤしてるというか、ムキムキしてるというか。一皮剥けて、逞しくなったように見える。

むんっと背を伸ばして誇らしげにしている様がなんとも愛らしい。いい調子だぞ。そのまま頑張れ。


しかし、この泥試合を見るに、我が最初に出会った冒険者たちは実に厄介な相手であったのだな。

不運ではあったが、さっさと実力者を追い出せてより効率的に人間を食べることができてきるのだから結果オーライである。

成長してると感動しますね。

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