第四十六話 森の中 ◆sideフィーナ
村を囲むように森が広がっている。
夏に来れば青々とした葉が美しいだろうが、すでにかなりの葉を落とした木々は少し寂しげだ。
「雪が降っていてもおかしくない時期だけど、不思議と暖かい気がするわ」
「僕も同じことを考えていた」
「確かに、あまり寒く感じないわね」
幸い天候には恵まれているけれど、それにしても暖かい。森に入ってから精霊たちが戯れながら飛んでいる姿をよく見かけるから、精霊が何か関係しているのかもしれない。
「さて、とにかくソナスの実を見つけないとね。ウォル、どうかしら?」
『ウォル……』
どうかしらと言われても、実物を見せたわけでも、匂いを覚えさせたわけでもない。
描画は見せたけど、それだけで果たして見つけられるのかしら……
様子を見守っていると、ウォルは森で遊ぶ妖精たちの元に駆けていった。もしかして、情報収集しているのかしら? うう、健気で可愛いわ。
そのまま息を潜めていると、ウォルと精霊たちは楽しそうに追いかけっこを始めてしまった。
「えっ、ちょっと……遊びに来たわけじゃないんだけど……」
ウォルは精霊と追いかけっこをするのが好きだったわ。あの様子だと本来の目的を忘れている。
「ねえ、どうするのよ」
「どうしようねえ」
「何を呑気に構えているのだ」
『何してるのお?』
木陰でコソコソ話す私たちの元に、ポンッと軽快な音を立てて精霊が姿を現した。
その精霊を皮切りに、次々と精霊たちが集まってくる。ついさっきまでウォルと遊んでいた子達だわ。ウォルもいつの間にか私のそばに戻ってきて尻尾をブンブン左右に激しく振っている。
『なになに〜?』
『かくれんぼ? いいねえ! やろうやろう』
『じゃあ、君が鬼だよ』
『それ〜! 隠れろ〜!』
「えっ⁉︎」
あれよあれよと鬼にされたリュークが戸惑いがちに私を見た。精霊たちはすでに四方へ霧散している。
うーん、これは……
「諦めて全力で遊ぶしかないわ! リュークは十数えてね。ミランダ、クロエ、あなたたちも隠れるわよ」
「なんで私まで……絶対見つからないんだから!」
「本気じゃん」
「負ける気がしません」
「見つけられる気もしないわ」
精霊たちに気に入られたら、ソナスの実が生る場所に案内してくれるかもしれない。まずは一緒に遊んで親交を深めるって寸法よ!
ウォルが褒めて欲しそうに私の周りを回っているから、きっとそういうことなのだわ。
「リューク、本気で遊ぶわよ!」
「なっ、おい……! はあ……ええい、数えるぞ! いーち、にー、さーん……」
リュークが目を覆うように腕を上げて木に向かったことを確認し、私は辺りを見渡す。すでにミランダとクロエは手頃な木陰に身を潜めたり、岩陰に隠れたりしている。
さて、木の後ろに隠れるか、大きな洞があるからその中に入るか……
「なーな、はーち……」
隠れ場所に悩んでいるうちに、リュークが数を数え終えようとしている。やるからには本気で勝ちにいきたいわよね。
「そうだわ! ウォル、ちょっと手伝ってくれる?」
『ウォルッ!』
私は素早くウォルの背に跨り、リュークが「とお!」と数え終えるのと同時に高く飛び上がった。
「よいしょ……うん、ここに隠れましょう」
『ウォルル』
大きな木の太い枝を選び、飛び移る。木の幹にギュッと抱きつくように腕を回して枝に腰掛けた。ウォルも私の隣に器用に座っている。
半分ほど木の葉が落ちているけれど、じっとしていれば身を隠すには十分だわ。内心でほくそ笑みながら、私は静かに息を潜めた。




