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第三十二話 会いたかった ◆sideフィーナ

「終わったかしら?」



 リューク殿下の室内がシン、と静かになるまで上空に待機していたけれど、どうやら落ち着いたようなのでゆっくりとベランダに近づいていく。

 衛兵だったとしたら、リューク殿下の無事を伝えないといけないしね。


 様子を窺っていると、室内のランプが灯された。窓から暖かな光が漏れている。

 部屋の中には、縄でぐるぐる巻きになった侵入者の男二人と、その男たちを片足で踏みつける二人の壮年の大男がいた。五十代半ばといったところだろうか。筋骨隆々でガチムチのおじ様だわ。ジュル……おっと、いけない。


 二人が持つ剣の装飾に見覚えがあったため、味方と判断してベランダに静かに降り立った。



「やれやれ、手応えのねえ奴らだぜ」


「肩慣らしにもならなかったな。さて、とっととこいつらを締め上げて殿下の所在を――ん?」



 肩をゴキゴキ鳴らしていたおじ様のうちの一人が、窓際に佇む私たちに気づいた。



「グランにウルドではないか。どうしてここに?」



 二人のおじ様とは面識があるらしく、リューク殿下が驚いた様子で一歩前に歩み出た。



「んんん? おおっ! 殿下ではありませんか! ご無事で何より……なのですが、ええっと、どういう状況でしょう?」


「その狼は……随分と珍しい精霊をお連れのようで……そのお嬢ちゃんはどなたかな?」



 二人の素敵なおじ様の視線が、リューク殿下からこちらに向く。


 私は両手を胸の前で組んで、目をキラキラと輝かせた。

 だって、ずっと会いたかった人たちが今! 目の前にいるのよ!



「わたちはフィーナ・アンソンです! 会いたかったです! おおおじいちゃま!」


「おおおじいちゃまぁ!? 待てよ。アンソンってことは、もしかして、アネットが迎えたっていうお嬢ちゃんか?」


「はいっ!」



 そう。今目の前にいる二人は、お父様とお母様のお祖父様。

 この二人がいたからこそ、お父様とお母様の婚姻が成立した。つまり私の推しカプの生みの親にも等しき存在!

 ずっとずっと、直接会ってお礼を言いたかったの!!



「お父様とお母様の縁を結んでくださりありがとうございました! おかげで私は日々推し活に精を出すことができております! 私の人生が輝いているのも、元はと言えばお二人のおかげ。感謝してもしきれませんわ!」



 興奮のあまり五歳児の皮が剥がれてしまったけれど、仕方がないわ。この溢れんばかりの情熱と感謝の気持ちを伝えずにはいられないもの!



「んおお? よく分からねえが、あの二人はうまくやっているようだな」


「そのようだ。こんなに可愛いひ孫ができて、俺たちも幸せ者だな」



 大お祖父様たちは、顔を見合わせて豪胆に笑った。二人は現役時代は強力な戦士として国を守るために戦い、騎士団を鍛え上げる指導者としては現役である。衰えを知らない筋肉が全てを物語っている。後で高い高いをしてもらおう。幼児の特権だものね。


 さて、さっきウォルが吹き飛ばした男二人が目を回しているところを見ると、大お祖父様たちがあっけなく倒してしまったようね。汗ひとつかいていないし着衣の乱れもない。

 侵入者たちは不運だったわね。まさかこの国最強のおじ様たちが控えているとは思いもしなかっただろう。



「フィーナ! って、お祖父様!?」



 ほうほう、と感心していると、次第に廊下が慌ただしくなり、血相を変えたお父様とお母様が部屋に飛び込んできた。


 二人の目に映るのは、窓際にウォルと第二王子と佇む私。涼しい顔をした祖父ら。そして床に伸びている怪しげな男たち。


 目をパチパチ瞬いて、どうにか状況を理解した様子のお母様は、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。



「おかあたまっ!」



 慌てて駆け寄ると、お母様は私をぎゅうっと抱きしめてくれた。



「ああ、フィーナ。無事で良かったわ。もう一人で無茶はしないと約束してちょうだい」


「はいっ、ごしんぱいをおかけちました。わたしにはウォルがいるので、大丈夫ですよ?」


『ウォルッ!』


「ウォルのことは信頼しているけれど、自分から危険に飛び込む必要はないでしょう? あなたはまだ子供なのだから、私たち大人をもっと頼って」


「おかあたま……」



 確かに、あの時すぐに動けるのは私だと判断して飛び出したけれど、少し考えなしな行動だったかもしれない。

 私は今、幼気(いたいけ)な五歳児で、二人の愛娘なのだから。

 私は両親をここまで心配させてしまったことを深く反省した。



「フィーナ、心配したぞ。リューク殿下につきましても、ご無事で何よりです」


「いや……フィ、フィーナのおかげだ。感謝する」



 リューク殿下が気まずげにチラリと私を見た。

 分かっていますよ。生きる事を諦めて、刺客に捕まろうとしていたことは二人だけの内緒にしておいてあげます。


 目が合ったので人差し指を口元に当ててニッコリ微笑んで見せると、殿下はパッと顔を背けてしまった。なぜ。



「――それで、これはどういうことですか?」



 大お祖父様二人が揃っていることにあまり驚いた様子ではないお父様が、大お祖父様たちに詰め寄っている。



「クロヴィス、お前も話は耳に入っているだろう? 第一王子のルーカス殿下がまもなく留学先での課程を修了され、帰国される。そして殿下が戻られたら、立太子の運びとなる。それを防ぎたい第二王子派閥が焦って事を起こすのではと、先王陛下と警戒していたのだよ」


「ああ、ここ数日は城に泊まり込んでなあ。まったく、こちとら腰痛持ちだというのにジジイ扱いの酷い陛下だ」



 悪態をついているものの、そこには確かな信頼関係が垣間見える。

 よほど先王と大お祖父様たちは良好な関係を築いているのだろう。



「では、今日の警備が随分と疎かだったのも、あえて――ということでしょうか」



 クロヴィス様の問いかけに、大お祖父様たちは首肯した。



「ああ。今日の警備の配置図を起こしたのは軍部の上層部でな。本来ならば城内に満遍なく兵士を配置する必要があるのだが、国王陛下は敵対勢力を誘き寄せるためにあえて軍部の提案を取り入れた。警備の配置図を見れば、奴らの狙いがリューク殿下ということは容易に予測ができた。第二王子を擁立しようと画策しているということは、殿下を無碍には扱わんと考えてはいたが、どこまで息がかかっているか分からない軍部の人間を配置するより、信頼できる俺たちに御鉢が回って来たってわけさ」


 なんだか随分と杜撰な企てだったようね。よっぽど焦っていたのかしら。

 私たちが関わらなくてもリューク殿下はしっかりと大お祖父様たちが守ってくれたということね。やれやれだわ。



「とにかく、これで今までのらりくらりとしてきた第二王子派閥も言い逃れはできんさ。今日まで辛抱してきた分、徹底的に叩きのめしてやる」


「俺にも手伝わせてください。大切な家族を危険に陥れたものたちを許すわけにはいかない」


「おお、もちろんだ」



 はわわ……! こんな時だけど、瞳に怒りを滲ませたお父様も素敵だわ……!


 領地では仕事で疲れた顔をすることはあるけれど、こんなに怒りの感情を表に出すことはしない。

 まあ、私とお母様がお父様を癒しているから、心穏やかに過ごせているからなんだけど!



「さて、そろそろ俺たちは報告に行かなきゃならねえ。アネット、お前が王都にいる間に必ず訪ねる。フィーナもまたゆっくりとおしゃべりしようなあ」



 お母様の祖父であるグラン大お祖父様が、孫に甘い祖父の顔になって私に微笑みかけた。



「はいっ! ぜひおさないころのおかあたまのおはなしをしてください!」


「フィーナ!?」



 こうして、激動の夜会が幕を下ろし、私たちは衛兵に保護されていたクロエと共にタウンハウスへと帰宅した。

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୨୧┈┈┈┈┈┈ 6月10日頃発売┈┈┈┈┈┈୨୧

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