商家令嬢の地雷断罪劇
2023.3.4
小説情報変更しました。
皇妃→王太后
「ルミナル・ターケット!お前は俺の可愛いキディラの教科書を破り、挙句階段に突き落としたな?!お前は俺の婚約者内定筆頭というだけで正式な婚約者でないくせに、俺の婚約者と周りに吹聴していたな!恥をしれ!!」
「私の可愛い婚約者も貴方のせいで心を痛めたのですよ!」
「私の親友も貴方にいじめられてたのよ!!」
いーち、にーい、さーん、…うん、ざっと二十数名。
楽しいくらいほいほい釣れるな、と思いながら私は悪女スマイルを浮かべる。
「殿下、皆様。一言だけ言葉をお許しください」
私は、無実ですわ。
私はにっこり微笑んで、彼らから背を背けた。
脳内で彼らの賠償金はいくらにするか。
誰が首を吊ることになるのか、想像するだけで。
ゾクゾクが止まらなかった。
*
私、フェイティアはしがない商家の娘だった。
父は孤児から這い上がり、ターケット公爵家のご令嬢付き添い執事に。副業で商売を進めていたら基盤が出来、長年の恋を成就させた。母はもちろん仕えていたご令嬢。
母の父、つまり私のお祖父様とは関係良好であったが、母兄がいたため爵位を継ぐことなく、お祖父様の支援を断り父母は夫婦で公爵家領の一角に本店を構えることに。
傘下貴族の子爵家が治める土地で、商売も上々。私も産まれ、幼馴染達に囲まれながら幸せに暮らしていた。
父と母が馬車事故で亡くなるまでは。
悲しかった。当たり前の感情だと思う。
そんな時、お祖父様、ターケット公爵が私を引き取り王都に連れてきた。
そこそこの淑女教育を行い、高位貴族の集まりで王太后様の目に留まったらしい。
らしい、というのは伯父嫁が教えてくれた話だった。
なんでも王太后様は私の亡き祖母の昔劇場女優時代の重度のファンだったらしい。
私の容姿は祖母の若い頃そっくりで、お茶会から翌日には王家からお祖父様宛に国で唯一の王太子の婚約を急かす手紙が届いたと。
自分で言うのもなんだけど、物覚えはいい方だと思った。
実親亡き後も祖父、伯父夫婦は私を可愛がってくれている。公爵家という後ろ盾もある。
しかし、まだ早いと祖父が王家の婚約話を断ったのは。
私が11歳、王太子13歳の時だった。
そもそも婚約する気はないと、後日教えてもらった時に祖父に直談判をした。
もちろん私の意思を尊重する祖父は何度も頷いて、手紙を見せながら微笑んだ。
祖父はそもそも私を王族と婚約させる気すら無く、名前も生まれた日も誤魔化していた。
フェイティアではなく、ルミナル。
夏生まれではなく、この邸に来た日に偽造していた。
成人したら好きな道を歩んでくれ。
祖父はそう言いながら微笑んだ。
学園は14歳から18歳。
王太子は来年学園に通い始める。
特に気にしてないのに、噂は一人歩きする。
週3回、王命…ほぼ、王太后による命により国王、王妃、…まぁ、王太子以外の王族とのお茶会という名の妃教育。
断ったら王太子から心配だという手紙と馬車二台にも及ぶ豪華なドレスや宝石のお見舞いの数々。
毎日赤い薔薇が届き、甘い言葉で綴られた手紙。
何度か王太子と話す機会があった時は、彼は黙ったままため息をついていた。
やってられるか、と、気持ちを抑えながら王太子が学園に入学するも呼ばれる登城命令。
祖父達邸の者達は私に日々同情的な視線を向け、何度も送られてくる婚約推進の話に痺れを切らした祖父が王太后様にはっきり告げたと。
結果、王太子の婚約内定候補という立場。
他の王太子と年の近い高位貴族令嬢も婚約内定候補扱いにする様に仕組んだらしい。
最低でも王太子の意思を尊重すると王太后様ではなく、国王に直談判をし、勝ち取った可能性だった。
それでも止まない呼び出し。
「ルミナル嬢は凄いわ!先日の絵画は入賞していましたよね?才能あって、孫ととってもお似合いだわ」
「ルミナル嬢は公爵家運営の商会の王都運営を行っているのね。他の令嬢と違い貴方は賢いわ。孫の支えになってあげてね」
「ルミナル嬢は私が憧れていた貴方のお婆様そっくりだわ!孫と貴方の子供がとても賢く美しいでしょうね」
だって、貴方以上に孫に相応しい存在はいないのだから。
王太后様はそう言って持ち上げて。
気が付けば国王も王妃も彼女にそそのかされる様に。
「ルミナル嬢が王太子に相応しい存在」
と心酔していった。
商会運営は元々の家業を受け継ぐためだった。
資金運転の使い道は決まっていた。
実親亡き後も私を支えてくれた子爵家の家族に使うためなのに。
「貴方が息子のために資金運営してるのは理解してるわ。愛してる息子に、国の為に使ってくれるのですよね?」
ね、王太后様と言いながら王妃が言う。
王太后様もその通りという顔で満足げに頷いて。
絵を描くのは自分の趣味であり別に貴方達のためじゃない。見た目の装いだってそう。
現に貴方達が王太子と偽り贈ってくるドレスや宝石は一切身に着けてないでしょ?
「ルミナル嬢は孫のために相応しくなろうと努力を怠らないとても美しく努力家な方だわ。孫に相応しいのは貴方しかいないの」
マゴニフサワシイソンザイ。
何度聞けば良いのだろう。
私はいつしか王族を、様付けするのをやめた。
もちろん、心の中でだけど。
*
学園入学前日までお茶会はあった。
当日は解放された様に入学式を楽しんだ。
そう、楽しみだったのだ。
これから起こる喜劇が。
お茶会は学業に打ち込むという理由でなくなり、入学から早二週間。
公爵家傘下貴族や商会に勤める商人の子供達と交流を裏で行いながら突き止めた事実。
王太子は男爵家令嬢を懇意にしていると。
学園では婚約内定候補が数名いた。
もちろん私が王家公認お墨付き婚約内定筆頭なのは間違いないし、生徒達は公爵家関係者以外は疑ってなかった。教師もそうだ。
だからそれを逆に利用した。
王太子婚約内定筆頭というのは都合の良い存在だ。
武術訓練している生徒が集まり、懇意にしている…まぁ、気弱そうな令嬢に見学を近づいてするのは危ないという言葉を少し強めに言えば、周りの友人令嬢らが泣き始めた令嬢を庇う様に私を悪役に仕立て上げる。
礼儀を知らない令嬢に指摘をすれば逆上され、この悪評を他の婚約内定候補達が見逃すはずがなかった。
王太子の愛しい男爵令嬢を、私の名前を勝手に使い戒める。
もちろん本人達ではなく、取り巻き令嬢達が。本人達には私のせいだとバレた際の保証をしているのだろう。
面白いほど事が進み、気が付けばターケット公爵令嬢は王太子婚約内定筆頭を自称している悪女に成り代わっていた。
そして、わざと王太子と廊下ですれ違い、熱っぽい視線を送る。
時には涙目で。
商会の部下達と作った目薬を手に振りかけ目を軽く叩けば完成。簡易涙目偽造。
*
「お前、それで良いのかよ?」
ある日。
幼馴染の一人から言われた言葉。
人気の無い、全くもって人が来ない温室で彼らの一人はそう言った。
「王太子と婚約してるのに放蕩癖もあるって噂流れてるぜ?」
「勝手に言わせておけば?面白いわよね。図書館にある恋愛小説の相手役の男性の名前を言ってね、図書館の本の「彼に会いに行かなきゃ」って言うとあっという間に広がるの。みんなヒロインがいて「叶わない恋だけど」って独り言いうと誰かしら聞いてるのよ?」
それだけしたら男好きの噂は広まるだろう。
幼馴染達を通して本当に信頼できる貴族達を囲い込み、私の計画はきちんと伝えた。
「この計画が成功したら、豪遊出来るわね」
みんなに食事を奢るから、もう少し黙っててね。
私は意地悪く舌を出して笑った。
*
断罪の日は王太子の卒業前に行われるパーティーだった。
壇上に王太子、高位貴族に見覚えのある気の強そうな令嬢ら。
あらっ、宰相の孫や大臣の子供まで。
子息らは各々気の弱そうな令嬢を庇う様にしていて。
王太子が私を呼んだ。
壇上に上がる前の階段で騎士見習い内定の騎士数名が私の前に出て邪魔をした。
ポケットから目薬スプレーのキャップを外して立ちすくみ。
王太子達が憎々しげに私を睨んでいた。
*
無実を伝えたのに、話が終わっていないと声を荒げ王太子が騎士見習いに私を捕縛する様指示を出した。
一人の騎士見習いは私に近づき、ゆっくりと手を繋ぐ。
騎士見習いはキザったらしく「最後はせめて令嬢として扱いますね」と笑って。
私は彼に支えられながら王太子達の方を振り返り、話を聞く。
私の指示で下位貴族令嬢達が男爵令嬢をいじめていた事。みな、声を揃えて私の指示だと訴えて、逆らえなかったということ。
他の子息達は自分達の応援で来ていた恋人に辛く当たった事。気の強い令嬢らはその恋人令嬢の大親友達。
「そして仮にも俺の婚約内定であるにも関わらず数多の男をはべらしてるらしいな?!自ら婚約内定筆頭を掲げていながら。この性悪女め!」
自分の隣にいる女はなんだよ、と口悪く内心思いながら片手ポケットに突っ込みスプレーを手にかけ顔を覆う。
特に反論する余地もなく、計画を知らない貴族生徒達から罵声を浴びせられながら、強く手を握り返し、声を荒げる。
「…だって…、殿下が…」
変なババア持ちだから、と脳内で言いながら図ったかの様に会場のドアが開き、お祖父様や国王、王太后や騎士達が会場に入ってきた。
知らせが届いた、と。
多分こっち陣営!とお祖父様とアイコンタクトしながら、王太后…もうクソババアって呼んで良いかな?クソババアが悲鳴に近い声を出しながら私のそばまで走ってきた。
*
「どうして?!貴方が一番孫の相手に相応しいのよ?!何かの間違いよね?そもそも王子、貴方の事をルミナルは愛してるのよ?ちょっとした可愛い嫉妬じゃない!!なんで貴方はルミナルじゃない令嬢といるの?!」
マジかい、ってほど肩ガタガタされて私の名前呼び続けて、貴方じゃ無いといけないの。と連呼する。
「貴方じゃ無いと孫はダメになるの。貴方じゃ無いといけないの?ルミナル、貴方はいつも孫のために努力して国母にふさわしい存在なのよ?孫を支え、孫のために貴方はいるのよ?孫を愛しているから故の行動よね?!」
貴方が孫に相応しい、と、他の生徒の前で言うたびに扇で険しい顔を隠し出す婚約内定令嬢ら。
お祖父様が止めてくれて、まさかの国王も私の味方。
何かの間違いだと主張しながら、王太子に相応しい婚約者がいながら不貞を!と叫び出す始末。
こりゃ、あかん!なんで、国王まで私の味方なんだよ?!と、焦り出した私。
「ターケット公爵令嬢は国母に相応しくありません。彼女は想い人がいらっしゃるそうなので」
隣の騎士見習いがそう言うと、優しく私の顔を見つめ。
「そ、そうなのです。実は私…ロマーノ様、ナッシュベルト様、ムース様、バニラ様、シキ様、ミル様、…とりあえず他にもたくさんのお方と懇意してますの!!」
その言葉に呆気に取られていた王太子が驚く国王や王太后に我が正義と言わんばかりに、そもそも婚約者ではなく内定候補の一人だったと説明しながら、人のことを指差し。
「俺はこの女を絶対妻に迎える気はないっ!!」
はっきり告げた。
お祖父様が約束した破談への一歩であった。
*
それから公爵家に謹慎。王太子が卒業するまで軟謹慎。その後国王によって決断を下されるらしい。
「あぁ、快適っ!!」
届かなくなったプレゼント。匂いのきつい好みでない薔薇。花には罪はないけれど、正直好みではない!
そして、あっという間に王太子の卒業後。
公爵家に一枚の招待状が届いた。
王族からのお茶会の招待状だった。
私は嬉々と返事を書いて、送り返した。
「パーティの時に参加した人達を呼んであの学園の会場でパーティを行うなら参加します、と」
だって、断罪の仕返しは。
同じやり方でないと気が済まないじゃない?
*
お祖父様にエスコートされながら数週間前まで通っていた学園の門をくぐり、当時断罪された式の会場まで足を進ませると、やっぱりと言うべきか。
謝罪をするべきはずの立場の王太子始め王族は壇長の上に席を設け、一席開けて会場全体にあの時の学生達や教師が今か今かと待ち構えていた。
「ルミナル、君は無罪だった…」
罰の悪そうに話す王太子。
私の謹慎中に他の婚約内定令嬢達が男爵令嬢を虐めて自滅。仮にも私という通称筆頭がいたものね、私のせいにすれば全て丸く収まると思っていたのか、シラを切り私のせいにする令嬢らを怪しんだ王太子が王家の密偵を使い今までのことを調べ尽くしたと。
もちろん私は無罪でしょ?
計画を知っていた仲間達は調べ始めた密偵に対して今まで私の行いを洗いざらい話し、逆に王家が介入してきたことにより自身の置かれてる立場に怯えた自称私の取り巻き…まぁ、脅されて男爵令嬢を虐めるしかなかった令嬢達がついに観念したと。
「ルミナル、貴方は無実だという事を私達は信じていたの。王子も納得して貴方を婚約者として迎え入れるわ」
都合の良い、と、冷たい顔を隠さず王太后を見、何故か頬を赤く染める王太子。
愛しの男爵令嬢は側室にすると言いながら、王太子は壇上から降りてきて。
王族の彼らは、自分達が正しい行いをしたかの様に微笑んでいた。
「今更虫が良すぎるのではありませんか?」
王太子から庇う様にお祖父様が私の前に立ち、周りを見渡しながらゆっくり話し出した。
「そもそも最初の約束は、こちらは乗り気ではない。婚約も辞退の上で何度もあなた方に私どもは説明してましたよね?毎月送られてくる求婚を何度も断り、嫌がる孫娘を何度も王命でお茶に誘い、呆れた私はあなた方に話しましたよね?孫娘を王太子と婚約させる気はない、と。それでも希望を捨てきれない、機会をくれと、婚約内定者として決めて、王太子に恋人ができた場合は即婚約内定解除を約束しましたよね?」
お祖父様、カンカンに怒ってらっしゃるわぁ。
挙句、王太子の掌を払いのけ、ここぞとばかりに私も告げる。
*
「殿下。私はそもそも殿下に好意を抱いておりません。好意がないのにどうしてあなた様の愛しのご令嬢を虐めるのか?そもそも先日の件から都合の良すぎる展開では?」
まるで劇を演じる様に、私はお祖父様から離れ、会場全体にゆっくり問いかけて行く。
「私は被害者だと思うのです。だって、何もしていないのに勝手に悪女に仕立て上げられ、今度は誤解が解けたから正式な婚約を?―――まず、あなた方をすることは私への謝罪ではありませんか?ほら、殿下。貴方様のご友人方も私に対してキツイ言葉を浴びせてましたよね?」
「彼らに対して私が行ったことを話しましょうか?騎士を目指す恋人を見るため訓練所に入ったご令嬢。ほら、あの方ですわ。あの方は訓練所の真剣が飛び交う中、観戦席から前のめりに見ていましたの。一歩間違えれば刃物が令嬢に当たるかもしれない。だから私は伝えたのですわ。「ここがどこかおわかりで?もう少しよく考えて行動してみては?」と。そこで、ご令嬢が泣き始めご友人の彼女が…私にいじめたと声を出しました。訓練を行う殿下は刃物を扱う際の危険性を熟知してると存じますわ。…私、悪かったのですかね?」
少しキツめに話しただけ。そう目で訴えると、周りの子息学生の顔がみるみる青ざめる。彼らも知っているのだ、危険性を。
それに加えて断罪の際庇われていた令嬢も泣き出し、威勢よく人を罵っていた親友令嬢も泣きそうな顔を始めた。
泣きたいのはこっちだ、と思いながらも、まぁ、私が仕掛けたけどねと内心舌を出して、ざまぁみれとほくそ笑む。
「あのご令嬢には「あの婚約者は貴方に不釣り合いだ」と忠告しましたの。だって、彼女を庇っていた友人の彼女と密会していましたから」
婚約者が人に苦言を言われたと喧嘩を売ってきた子息…まぁ、宰相の孫ね。見事に浮気を暴露して、優雅に微笑む。
「殿下。…私は被害者だと思うのです。あんなに大人数から罪を着せられて今更貴方に情が湧くとでも?何故私は加害者である貴方様に寄り添わなければいけないのか?そもそも殿下は私の出生を調べたことありますか?それでいてあなた様に相応しいと自信を持って言えますか?」
そう王太子に話したはずなのにクソババア参戦である。
壇上から貴方は正しかったと声を張り上げながら私がずっと見てきたと叫ぶ。
「ルミナル、貴方は偉い子よ。孫に相応しいのは貴方しかいないの。私はわかってるわ、貴方の努力。絵画の才能も素晴らしく、孫のためにいつも努力する姿勢。王都にある商会の運営を行い、孫のために政務の練習として立派に国母の勤めを果たそうとしていること、私はずっと見てきました。孫のために美しくあろうとする姿勢。貴方において孫に相応しい存在はいないわ!!」
あのクソババア、早く引退しねーかなと、思いながらも王妃や国王も長年のお茶時間を過ごして来ていかに良い子ちゃんか語り出す。
まず、謝れと先に話したはずなのにね。
少し舌打ちをしたら、察したのか。冷静になればまともな王太子が私と一歩距離を置き、頭を下げる。そして家族に黙ってくれ!と叫び静まり返る会場。
「すまない。私が悪かった。君を沢山傷付けて都合の良い話だった。謝罪と慰謝料は私が払う。彼らの分まで私が払うから、どうか未熟な彼らを許してほしい」
とうとう土下座まで始めた王太子に、まだ居たのか、婚約内定令嬢達が身を乗り出して王太子のそばまで来て、私を睨み付ける。
「放蕩癖がある貴方が王太子様を傷付けないでくださいまし!!」
要約するとこんな感じ。
*
「孫や、本当に遊んでたのか?」
「えぇ。図書館で遊んでましたわ。とっても刺激的なのです。叶わない横恋慕ばかりで相手方には素敵なご令嬢ばかりいましたが」
わざとらしく、人工涙スプレーを出し、目の前で手にかけわざと顔を覆う。
途端に流れ出す涙。
「この試作品は後日ドッキリアイテムで商会で販売しますの。まぁ、ともかく…叶わなかったのですわ。だって住む世界も違いましたし」
誤解をわざと招きながら話し、みるみる般若の顔になる令嬢達。
やれ、やっぱり悪女やら罵り始めた時に王太子が顔を上げ、元々の頭は賢い方なのか?でもあの王族だしなぁ。クソババアの遺伝子どうにもならないだろうから未来の配偶者頑張れとしか言いようがない。
王太子は冷静に私を見ていた。
*
とりあえず罵声を飛ばした外野の息切れを確認した後に嬉々として数点の小説を使いに頼み王太子に提出する。
扉絵や押し絵が載っていて恋人達が仲睦まじく微笑みあったり抱きしめあったりする表紙もある。
「殿下、紹介します。このお方がシキ様です」
「このお方はムース様。こちらのご令嬢に抱きついてるお方がバニラ様ですわ。…学園の図書館でしかお会いできませんの。今回特別に参考として呼んでいただけましたが。…ほら、皆様恋愛小説のお相手ですから。叶わないと思いながらも恋しくなりついつい足を運んでましたの」
「だいたい百冊ぐらい読みましたので、お相手は約百人ですわね」
私は愉快そうに。
「先ほど私に顰蹙の言葉を投げかけたご令嬢方も私をいじめたことになりますよね?…え?殿下、慰謝料上乗せ出来るんですね!太っ腹ですわぁ」
手を叩いて微笑んだ。
「国民の罪を全て背負うなんて…ご立派ですことっ!!」
*
気がつけば私一人だけ笑ってあたりは静まり返っていた。
段々顔が真っ白になっていく王太子がそもそも何故私がそんなに婚約を嫌うのかと声を細々と出し、次の一手に。
「殿下。二つお願いがあります。一つ目は慰謝料。もちろん私を目の敵にした生徒達全員分ですわ。…二つ目のお願いを聞いてくださるなら減料しますわ」
彼は頷くしかない。だってお祖父様がカンカンだもの!
「王族への不敬を三十分、お赦し下さい」
口元は笑っていたと思う。
目は、真顔だった気がする。
*
「殿下、よく考えてみてください。特に好きでもない相手に嫁ぎ、むしろめんどくさいしがらみが多い行事に参加し、夫の身内とは毎日必ず顔を合わせる。いつも夫に相応しくあれと言われ続け、いつまで努力を続ければいいのか?そもそも前提として愛がない結婚にそこまでする義理はないですよね?本人を好きだから結婚するのであって、本人の家族の顔色を窺いながら毎日過ごしたいですか?」
「例えばの話、騎士団長の娘様が貴方と結婚したとしましょう。騎士団長から毎日「殿下は毎日訓練を怠らず娘の夫に相応しい」。殿下が何をしても結局騎士団長は自分の娘を連想させて娘に相応しいのは殿下だけと毎日言ってくるのですよ?!殿下が娘さんに好意を抱いていない政略結婚で、むしろ初対面から険悪な雰囲気の間柄だとしても!!」
そもそも騎士団長はご子息しかいないけどね。例えばの話ね。
例えばの話に理解が追いついたのか、「とりあえず王族云々、家のしがらみなしで考えてください!個人的にどうですか?」とこちらも切迫詰まりながら話すと嫌そうな顔をする。つまり嫌ってことよね?
「私はそれを貴方の家族からされているのですよ?王太后様の話にありましたよね?相応しい存在だと。…私の母はお祖父様の娘ですが父は孤児です。孤児から公爵家に拾われ母と結ばれ商家として領地の一角に家族と住んでいました。名前も違います、誕生日も違います。つまり、ルミナルという人間は最初から存在しません。父母が亡くなりお祖父様に引き取られ、すぐに王宮に出向いた際、王太后様が勝手に人のこと目をつけて求婚状を頂きましたが、名前は書いてませんでした。なのでお祖父様がわざと私を偽造してくれましたの」
「私が商会を運営しているのは家業だからです。商会が亡き父の残した唯一のものなのです。両親亡き後、領民…領地を運営している傘下貴族のとある子爵家の方々がお祖父様に引き取られる前に世話をしてくれました。…私が商会を運営して得た資金はその子爵家の方々のために残したいからであって決して殿下のためではありません。世話になった方々に使いたいと何度も王太后様に説明しても聞く耳もたずです!」
「私が絵画を描くのは純粋に好んでいるからです。自身を磨くのは己のためです。何度も何度も王太后様から同じ言葉を繰り返されるたび最初は反論して伝えてましたわ。ええ、陛下にも何度も話しました。それでも貴方の家族は聞き入れてくれなかった!!私は領地で領民と切磋琢磨しながら暮らしていきたいのです。そのために得た知識をあなた方は全て王族のためと勘違いして相応しいと言い続けた」
「正直ウンザリでした!!王太后様、貴方に相応しい孫の嫁は貴方とそっくりの聞く耳持たずのご令嬢だと何度も何度も思った!いくら努力して自分を磨いても彼女の中では貴方に相応しい存在になるための一歩だと勘違いされ、声を出しても聞き入れてくれず。苦しくなって涙が出て定例茶会を休んだ日には貴方の名前で荷馬車2台分のドレスや装飾品が届くのです。毎日貴方の名前で手紙が届き、赤い薔薇が届くのです。そもそも我が公爵家の他に政略結婚の相手に相応しい方々は沢山いるのにっ!!」
やっぱり知らなかったみたいで目を見開いた王太子。
それでも私が孫に相応しいと喚き散らす王太后に私も釣られて本物の涙を見せる。
「あんな茶番をしないと私の話を真っ向から聞いてくれなかったでしょう?!ねぇ、もういい加減あんたの家族と関わりたくないのよ!!私がお婆様にそっくりだから貴方に相応しいって何度も言うのよ?私は私なのに!!そもそもお婆様のファンなら気づきなさいよ!!ルミナルって名前はお婆様が舞台に上がった際の初めて演じた役の名前だってこと!!」
聞いてない王太后に罵声を浴びせながら私は叫ぶ。
壊れた王太后には、私の声は届かなかった。
*
公爵邸に今までの王家からの贈り物を未開封で保管してあるという手紙をお祖父様が出したらしい。
あの日の後、王太子が愛しの男爵令嬢を引き連れて回収しに来た。
ごめんなさいと謝る男爵令嬢に、私も利用してごめんなさいと謝罪しながら。
これから王太子のそばで頑張ってくれと激励を送った。
結局、私への慰謝料は鉱山三つに貨物船を五船。王太子が生きてる間は領税緩和とありがたい条件だった。あと気持ち金品も貰えた。
加えて、王太子直々に王城の備品や夜会で使用する品、日用品や食器などは私の商会の契約を行った。定期契約なので何割かは安くする予定ではあるが。
王太后はあの後精神的に病んだらしい。休養という形で王家の別邸に向かったらしい。
国王と王妃はお祖父様に謝りを入れ、王妃様はこれから男爵令嬢に妃教育を施すらしい。
男爵令嬢も愛の力で頑張る、らしい。是非とも頑張ってほしい。
私を断罪したメンバーは仲間割れを始め、令嬢は仲違いをした人達に考慮して数カ所の修道院を進め向かったそうな。男爵令嬢をいじめた影の犯罪者達は断崖絶壁の王家が所有する離島へと移動が決まった。子息達は廃嫡して辺境地にて一兵卒の見習いとして飛ばされたらしい。
*
「君の苦しみを理解せずに助けてやれなくてすまなかった!!」
また頭を下げて来た王太子。もう正直気にしてないのよね。
「殿下、顔をあげてください。謝るくらいだったら他の方々は報いを受けているのですから殿下も成長して立派な王になることが私への報いだと思います」
要約するとこれ以上関わるな、必要以外の取引で関わってくるなと暗に伝えながら。
それと、と、言葉を紡ぐ。
「学園では私の友達沢山いましたから。別に平気ですよ」
荷馬車に入れ終わったと続々と部屋に入ってくる友達一部。
彼らに見覚えがあるのか王太子は「どうして?!」と男爵令嬢と驚いた声を出す。
領民貴族と商会職員の子供らですと微笑み返し。
「覚えありますよね?彼、言いましたものね」
一人に手招きして私は彼と手を繋ぐ。
「あの日、最後はせめて令嬢と扱うと」
「…あの日で私、実は公爵家から籍を抜いたのですよ。彼は後見人家族の跡目であり、私の…」
尽くすべき愛しい人ですわ、と。
驚く王太子に告げた。
*
「騎士見習いって誰しもが王城に勤めるわけないのにね」
王太子達が帰ったあと。
友人らも役割を終えたように帰っていき。
私は彼と二人で部屋にいた。
全てが終わったと脱力感に襲われながら、そう言えばまだ学園は通うのだと脳裏をよぎり彼に甘えるように抱きついた。
大切な幼馴染であり、育ててくれた家族であり、私が運営を頑張った理由。
子爵家の跡目は彼だった。しかし、剣術に覚えはあるが領地運営の才は彼の父を超える自信はないと吐露していた。だからそばにいて支えたいと思いここまで努力してきた。
彼は私の描く絵が好きだった。私は彼の笑顔を思い出しながら絵を描いた。その時間だけはあの王族を忘れられる貴重な時間だった。
見た目も彼の好みに合わせて努力した。少しでも可愛いと言われたいから。
学園ではなかなか会えなくて。
それでも私の行動を理解してくれて。
叶わなかった恋なのは本当よ?
だって、障害が沢山あったもの。
「ねぇ、ミル。私ね、貴方とずっと一緒にいたいの」
そう囁けば。彼は私の名前を呼んでくれる。
フェイティア、と。
その言葉が何よりも嬉しくて。
本当の嬉し涙を出したのだ。
時々思いつく短編話です^^;
他のやつ完結させろとか自分でノリツッコミしながらゆるゆる思いついた掃き溜め話。
いくら努力しても報われない。
想い人のために頑張っても誤解される。
それならとことん誤解させて壊れればいい。
そんなテーマ。
きっと作中の王太后は夫から沢山愛情をもらって暮らしていたから自分が好きな人達に囲まれて思い通りの生活を送りたい頭桃色ハッピーピーな人だろうなとイメージしながら書いてました笑
あと作中に出ているタメ口領地民は未来の義弟です。
連載物の作品がどうしてああなったと自分で驚くほど長期化してて落とし所とネタがわかりまへん。多分年内冬終えたら番外編出来たらいいな。むしろ、年内季節話が番外編扱いなはずなのになと思いながら下手にCP増やし続けたらネタが尽きないね、ハハっ。
基本、ノーマルCP大好きなんです。十人十色万歳\(^^)/
で、気分転換したものがこれ。
貴族は政略結婚が当たり前!という世界観ぶち壊してます。
補足ですが、別にこの主人公の家系は王族と縁繋ぎにならなくとも困りません。