51話 人魚族の秘密①
「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺はガイア・アーカス。君は?」
「私は・・・・・・分からない」
「もしかして、名前も?」
「うん・・・・・・だから、お願い、つけて」
「ん? つける? 何を?」
「私の名前・・・・・・ガイアにつけてほしい・・・・・・」
彼女は、上目遣いで、うるうると俺の方を見ながら、懇願してくる。
「お、俺で良いなら・・・・・・」
「う、うん、ガイアのが良い」
しかし、名前か。前世では妻子持ちだったが、子供のことは妻に任せっきりだったからなぁ。あ、でも、一つ思いついた。
「マリー・・・・・・君の名前は、マリー、どうかな?」
「マリー・・・・・・これが、私の名前、すごく良い! ありがとう、ガイア!」
「気に入ってもらえたなら、良かったよ。ところで、鰭はどうにかならないか? 流石にそのまま陸地に出ると騒ぎになると思うんだが・・・・・・」
「あ、確かに! それなら・・・・・・チェンジ! レッグ!」
そう彼女が唱えた瞬間、尾鰭が光だし、次第に形が変形していった。そう、まるで、人間の足のようにーー。
「これで、どうかな? 一応、人間の足にしてみたんだけど・・・・・・」
「あ、あぁ、それなら、大丈夫、だと、思うぞ」
とりあえず、俺はマリーの手を離さないようしっかりと握り、遺跡を後にした。
「外の世界・・・・・・緊張する」
「そっか、記憶を失っている身としては、遺跡以外の場所は初めてみたいなものだもんね」
「は、はい、だから、楽しみな反面、怖いという気持ちもあるんです。おかしいですよね、私」
「おかしくなんかないよ。誰だって初めての場所には、期待と恐怖を抱くものさ。それに、何かあっても、必ず俺が守ってやるよ」
「ぁぅ、もしかして、そういうこと他の女の子にも言ってる?」
「ん? どういう意味?」
「!? べ、別に、何でもない・・・・・・」
というか、どことなくマリーの顔がほのかに赤くなっているようなーー気のせいかな?
「もうすぐ、海から出るよ。心の準備は良い?」
「えぇ、いつでも、大丈夫よ!」
そうして、俺たちは2人でビーチに戻ってきたのだがーー。
「・・・・・・そう言わずに、ちょっとだけ、良いだろ? 俺たちと遊ぼうぜ?」
「さっきから断ってるじゃない! 何回言えば気が済むの!」
「まあまあ、そう怒らず・・・・・・」
あれは、ヘレンか。何やら、3人の男に言い寄られているみたいだな。確かに、ヘレンは可愛いし、スタイルも良いから、ナンパする気持ちは分からなくもないが、流石にしつこすぎる。これは、制裁を加えないとな。
「おーい、待てせて、ごめん〜」
「あ、ガイア! じゃあ、私はこれで・・・・・・」
「おい、待てよ! あんな冴えないガキより、俺たちの方がもっと良い思いさせてやれるぜ?」
「い、いや! 離して!」
「やめろ!」
「な!? このガキ、さっきの・・・・・・」
「男のくせに、女の子を泣かせて、恥ずかしいとは思わないのか!」
こういう輩には、きつめに叱っておかないと効果はない。
「ちっ! 偉そうに、てめえは何様のつもりだ? どうやら、痛い思いをしねえと分かんねえみたいだな・・・・・・表でろ、クソガキ」
「あぁ、望むところだ」
「待って、ガイア! い、行かないで!」
「? 俺なら大丈夫、あんなやつ、敵じゃないから」
「・・・・・・そう、じゃない・・・・・・」
「え?」
ヘレンは、1拍おいた後、再び口を開いた。
「・・・・・・ううん・・・・・・絶対、負けないでね、ガイア!」
「あぁ、もちろん!」
先ほどの男たちは、はっきり言って、魔力が小さすぎる。ただ、身体はかなり鍛えられていたようだから、まあ、それなりの実力は兼ね備えているのだろう。俺の相手になるかは別の話だが。
「おい、てめえら、手出すなよ、これは、俺とあのガキの戦いだ」
「安心しろ、言われなくても手は出さん」
「同じく」
どうやら、思ったよりは男らしいみたいだな。俺としては3人を相手にしても別に良いが、ここはあの男の覚悟を尊重してやるとするか。
「おい、クソガキ! 冥土の土産に教えてやるよ、俺様はドエス! 地獄の鞭使いとは俺のことだ! どうだ? びびって手も足も出ねえだろ? ははははははっ!」
「それが、どうしたんだ? 喋る時間も惜しいし、早く終わらせたいんだが?」
すると、男はさらに苛ついたように口を開く。
「ちっ! 生意気な小僧め! 言われなくても、終わらせてやるさ!」
男は、剣を抜き、俺に向かってくる。
剣は、決して速いわけではない。
ただ、俺は、この一瞬の剣捌きを美しいと感じてしまった。
無駄のない、洗練された剣、地味だけど、これは、いわゆる努力の結晶だ。
気に食わない男だが、剣に関しては、本当に美しいな。
「くそっ! 何で、当たんねえんだ!」
岩陰からこっそりとマリーが見ている。
そんなところにいると危ないと思うけど。
「知りたいか? それは・・・・・・遅すぎるからだ!」
至極単純なことだ。どんなに剣を使いこなしていようとも、遅ければ意味がない。
「くっ! 認めねえぞ! 俺は、絶対に・・・・・・!?」
次の瞬間、男の足元から大量の水が吹き出して、そのまま飲み込まれていった。
これはーー水魔法? しかし、一体誰が、何のためにーー。
どうやら、他2名の男たちも一緒に飲み込まれていったようだ。水が収まった時には影も形もなかった。
少し気味が悪いが、今は考えないようにしよう。ナンパ男たちは撃退できたのだし、結果オーライだ。
「じゃあ、マリー、帰ろっか」
「・・・・・・うん、ガイア」
何かマリーの魔力がさっきよりも小さくなっている気がーー気のせいかな?
そして、俺たちは無事ヘレンの元へと戻ることができた。
「あ、ガイア、良かった、無事で・・・・・・って、えええええええええええぇ!? ちょっと、何よ、その女は!?」
「あ、あー、紹介するよ、こちらは、人魚族のマリー。決して、怪しい関係じゃないから、少し落ち着いて、ね?」
「こ、これが、落ち着いていられるわけないでしょ! エレーナ様に飽き足らず、また、どこの馬も知れない女を誑かしてきて!」
「ち、ちょっと、誤解を生むような言い方はやめて!」
俺は、一旦ヘレンを落ち着かせるために、喫茶店でティータイムとしゃれ込んでいた。
「・・・・・・ふぅ〜、ごめんなさい、ガイア。思わず、取り乱しちゃったわ」
「落ち着いてもらえて何よりだよ。それで、マリーのことなんだけど・・・・・・」
「分かってる、ガイアのことだから、きっと何か事情があるんでしょ?」
やはり、ヘレンは優しい、否優しすぎる。何も聞かずに受け入れてくれるなんて。
「あ、あぁ、まあ、そのことなんだけど、ヘレンにも話しておきたいんだ、彼女のことを」
俺はヘレンに、マリーのことを知っている限りのことを話した。
マリーが遺跡の中に閉じ込められていたこと、これまでの記憶を全て失っていることを。
それを聞いたヘレンは、暫し何かを考え込んでいるようだった。
「彼の言っていることは本当です。私、ずっと1人で・・・・・・でも、彼が連れ出してくれて・・・・・・」
「ガイアの言ったことを疑うつもりはない。ただ、気になっただけ」
「ん? 何が?」
「どうして、マリーは遺跡の中に閉じ込められていたのかなって」
「あ、あー、そう言えば、確かに・・・・・・何でだろうね?」
「わ、私に聞かれても、そ、その、覚えてなくて・・・・・・すいません」
マリーは申し訳そうに、謝罪を口にする。
「べ、別に謝る必要はないよ? 記憶がないんだもん。仕方ないよね」
ヘレンは、マリーを慰めるように、優しい笑みを浮かべて、そう口にしていた。
「そ、そう、別にマリーが悪いわけじゃないよ! それよりも、人魚族のことは調べた方が良いかもしれないな」
「う、うん、そうだね、ガイア。明日にでも書庫に行ってみる?」
「まあ、現状、それぐらいしか、できることはないな」
明日はヘレンとマリーと3人で書庫に行くことが決定した。




