38話 試験対策②
試験対策として、朝練と放課後の練習をやり始めて、すでに、4週間が経過した。その間に、リーナさんは、初級魔法と中級魔法を完璧に使えるようになり、上級魔法も火と水ならば使えるようになっていた。残りの3人の方は、上級魔法までは、難なく使いこなせていたので、特に心配することはないと思い、個人の自主練に任せることにした。一応、3人とも男爵家の長男で、白髪赤眼のビル・アストール、青髪碧眼のライ・ルーレント、黒髪黒目のデイン・クロムウェルという名前だということが分かった。これから、3年間同じクラスなわけだし、名前も知らないのも正直気まずいから、知れて良かった。
「いよいよ、試験まで、後2日、だな」
「ええ、そうね、最初に比べれば、皆んな、随分と強くなってるわ」
「ねえ、ガイア、私、大丈夫、かな? もしも、また、魔力が暴走しちゃったりしたら・・・・・・」
「これまで、魔力制御の特訓を何度もやってきたんだから、大丈夫! だから、自信を持って、ヘレン!」
「・・・・・・うん・・・・・・ガイア、いつも、ありがとね・・・・・・」
この4週間、ヘレン達は、見違えるほどに強くなった。それは、俺が認めている。そして、俺も、この4週間でAからEのクラスを調査して、それぞれのクラスの主力の生徒は、大体把握することができた。基本的にBからEの生徒は、大したことはなかったが、Aクラスの主力であるヴァルガド・ドルマゲスという生徒は、特にやばい。彼をこの目で見る前は、身体能力は高いが魔法の適性が低いという噂もあり、然程、警戒してはいなかったが、実際にこの目で見てみて一眼で分かった。その時に、これまでの噂が出鱈目であると初めて気付いた。確かに、魔法適性は高くはないが、決して低いというわけでもない。上級魔法までなら難なく使いこなしていたからだ。特に、なぜか、彼からは、闇の力を強く感じた。また、魔法に対する耐性が異常に高い。正直に言って、なぜ、彼がAクラスなのか理解できない程だ。実力的には、Sクラスでも申し分ないだろう。もしかして、エレーナさんなら、ヴァルガドって人のこと、知ってるかな。貴族のことは、このクラスの中で1番詳しいみたいだしね。
「・・・・・・エレーナさん、ちょっと、いいかな?」
「? 何よ、ガイア?」
「単刀直入に聞くけど、ヴァルガド・ドルマゲスって人について、何か知ってるかな?」
「何だ、そんなこと、当然よ! 私を誰だと思っているの? ブラッド家の次期当主として、全ての貴族の顔と名前、個人情報は、頭に入っているわ!」
「流石、エレーナさん! それじゃあ、俺にヴァルガドさんのこと、教えてくれないかな?」
「・・・・・・分かったわ。でも、一つだけ条件がある」
「条件?」
「そのエレーナさんって呼び方、やめてくれない? ・・・・・・私も、ヘレンやジークみたいに、普通に、呼び捨てで、呼んで、ほしいの」
「・・・・・・う、うん、分かったよ、エレーナさ・・・・・・!? エレーナ!」
「もう一回、いいかしら?」
「エ、エレーナ、早く、教えて、くれない、かな?」
というか、今まで、さん付けで呼んでたから、呼び捨てにするのは、結構気恥ずかしいな。まあ、慣れるまで、辛抱するしかないな。
「・・・・・・そ、それで、ヴァルガドのことについて聞きたいんだったわよね。良いわよ、あなたも約束を守ってくれたわけだし、私も守るわ」
「う、うん、お願い」
「・・・・・・ヴァルガドは、ドルマゲス公爵家の長男で、私の幼馴染、でもあるわ、いえ、だったと言った方が正しいかしら」
「それって、どういう意味?」
「そのままの意味よ。もう、彼とは、顔も合わせてないし、口も聞いてないわ」
「そ、そうか、何か、悪いこと聞いちゃったね」
「別に良いわよ。もう気にしてないから」
そうはっきりエレーナは言ったけど、その表情はどこか寂しそうだった。
「あ、その、良ければ、だけど、何で、ヴァルガド君と疎遠になったのか聞いても良いかな?」
「ええ、あれは、9年前のこと、まだ、私とヴァルガドが仲良く一緒に遊んでいた時、あの2人が現れた」
「あの2人?」
「・・・・・・鬼神と全身黒装束の女のこと、そして、彼らは、ヴァルガドを連れ去って行った」
その言葉を聞いた時、全身に鳥肌がたった。なぜなら、今、エレーナが言った女の特徴が、9年前に俺たちの村に現れた女に似ていたからだ。
「!? それで、ヴァルガド君は、大丈夫だったのか!?」
「え、ええ、一応、無事に帰ってきたわ」
「それなら、良かった・・・・・・? 一応?」
「無事に戻ってきてくれて、私は本当に嬉しかった。でも、その日から、ヴァルガドは変わっていった。彼は、屋敷に引き篭もるようになり、強さに執着するようになったの」
道理で、あんなに強いわけか。それにしても、突然人格が変わることなんて、ほとんどないよな。ということは、その女に、洗脳魔法の類をかけられたのか?
「えーっと、連れ去られる前は、どんな人だったの? ヴァルガド君って・・・・・・」
「・・・・・・温厚で、どこか頼りなかったけど、優しい性格だったわ」
そう、どこか儚げにエレーナは彼のことを語った。俺も気持ちは分からなくもない。仲の良かった友人が突然、変貌してしまったら、誰だって戸惑う。というより、エレーナみたいに普通は割り切れることじゃない。いや、我慢と言った方が良いのか。
「今日は、ありがとう、エレーナ。・・・・・・それと、ごめんね」
「別に、もう気にしてないって言ったでしょ」
「う、うん、じゃあ、また・・・・・・」
「ええ・・・・・・」
やはり、表情は普段と変わらないが、どこか寂しげだ。仕方がない、ヴァルガドって奴が、なぜ、急に変貌したのか、その原因を探ってみるか。子孫が困っているのに、放っておく訳にもいかないしな。しかし、今は、試験に集中しないとな。ヴァルガドのことを調べるのは、それからでも遅くないだろう。




