18話 修行の終わり
9年後、俺とヘレンは、無事に15歳の誕生日を迎え、入学試験を受けられる年齢に達することができた。そして、いよいよ、明日が入学試験本番だ。また、今日は、この9年間、ティオさんの元で受けた修行の成果を試す卒業試験の日でもある。
「ガイアー! 早く起きてー!」
朝一番に、そんな声が聞こえてくる。ああ、そういえば、まだ、ヘレンは家にいたんだっけ、俺としたことが忘れてた。
「んん・・・・・・もう少し・・・・・・」
「だーめ! もうすぐ、卒業試験始まっちゃうよ! 早く、準備して〜!」
ヘレンが無理矢理、布団を捲りあげてくる。いきなり、捲られると寒いんだけど、というか、ヘレン、綺麗になったな。まあ、9年経てば、育つのは当たり前だけど、なんというか、すっかり大人の女性って感じだ。
「・・・・・・お、おはよう、ございます・・・・・・」
「うん、おはよう! じゃあ、もう時間もないし、森に行こう!」
時間がないって今何時なのかな。確か、卒業試験の開始時間は9時だったよな。それで、今は・・・・・・え? 8時45分!? やばい! 完全に寝過ごした! とにかく、全速力で急がないと!
「ヘレン! 早く行かないと間に合わない! 飛ばすぞ!!」
「えええぇ!? ちょっと、ガイア!? そんな引っ張らなくても、ついて行くから〜!!」
ヘレンが何か言っている気がするが、今は、そんなことに構っている場合じゃない! 遅刻なんてしたら、ティオさんからどれだけネチネチ言われるか分かったものじゃない! だから、今だけは、堪えてくれ、ヘレン!
「はぁ、はぁ、はぁ、何とか、間に合った・・・・・・」
1分前とはいえ、遅刻せずに着いた訳だが、なぜか、ずっと、ティオさんが複雑そうな顔をしている。1分前じゃ、やっぱり遅すぎたのかな。
「・・・・・・本来なら10分前行動が理想的だが、まあ、今回は遅刻しなかったということで、大目に見よう」
また、何かしつこく言われると思ったが、大目に見てくれて助かった。あ! そうだ、ヘレンは大丈夫かな。そう思って、ヘレンの方を見てみると、何だか、生気が抜けたみたいに青白い顔をしていた。
「ヘレン!? だ、大丈夫!?」
「・・・・・・全然、大丈夫じゃ、ないわよ・・・・・・」
「とにかく、今すぐ、回復魔法を! パーフェクトヒール!」
俺は、最上級の回復魔法を使った。すると、ヘレンの顔色もみるみるうちに良くなり、だんだん、声にも明るさが出てきたような気がした。
「はぁ、まったく、もう! 私だって、高速魔法ぐらい使えるんだから、無理矢理引っ張らないで! むしろ、そっちの方が、きついから!」
「ほ、本当に、ごめんなさい!」
俺は、ヘレンに対して最大の謝罪を示すために、土下座した。前世で教わったずっと東にある国の文化だそうだ。これをすれば、大抵の人は許してくれると聞いていたのだが、ヘレンだけではなく、ティオさんも、何をしているんだ、こいつ、と言わんばかりの目を向けてくる。
「・・・・・・ガ、ガイア、何、してる、の?」
「ど、土下座、だよ? もしかして、知らない?」
「はぁ、もういいから、顔を上げて・・・・・・じゃあ、お父さん、そろそろ・・・・・・」
そして、俺は顔を上げて、ヘレンとティオさんの方に向き直った。
「ああ、そろそろ始めようか。最初はどっちからする?」
そうか、まだ、順番を決めてなかったな。俺は、どっちからでも良いんだけど、ヘレンはどうなのかな。
「ねえ、ガイア、私が先でも良い?」
「あ、ああ、もちろん、いいよ」
「・・・・・・っ! ありがとう!」
まずは、ヘレンのお手並み拝見かな。あれから9年間で上級魔法は難なく使えるようになったし、身体能力も高くなっているから、まあ、卒業試験は合格できるだろう。
「よし、ヘレン、遠慮はいらん、今あるありったけの力を私にぶつけなさい!」
これは、あくまでも魔法の試験、自分の得意な魔法でティオさんの魔法を相殺するかもしくは、ティオさんに当ててもいい。まあ、当てたら、流石に死んじゃうかもしれないから、それはしないけど。
「じゃあ、お父さん、いくよ! ・・・・・・魔法式、構築・・・・・・っ! ファイナルカタストロフ!!」
「!? クッ! これは、まずい!? マジックウォール!!」
ヘレンの魔法は、ティオさんの立っていたところを中心に大きなクレーターができていた。というより、まさか、あの魔法を使うとはな。ファイナルカタストロフは、本来破壊神のみが使える魔法、前世の俺が破壊神に無理を言って教えてもらい、それをヘレンにも教えたのだが、やっぱり、まだ魔力操作が甘いな。この魔法を完全に自分のものにしていたなら、こんなクレーターなんかじゃ済まない。軽く世界二つ分ぐらいは余裕で破壊することが可能だ。ただ、この魔法の最大の欠点は、魔力消費量が魔力保有量よりも多すぎて、生命力まで削られることだな。だから、俺は、本当に絶体絶命の時にしか、使わないと決めている。
「・・・・・・へ、ヘレン、その魔法は、一体どこで・・・・・・!?」
まあ、そうなるよな。魔法使いなら破壊神の魔法を知らないものは、ほとんどいない。それにしても、不完全だったとはいえ、ファイナルカタストロフを受けても、魔力障壁にヒビが入る程度で済むとは、やはり、ティオさんもかなりの実力だな。
「・・・・・・気付いたら、できるようになってた」
「・・・・・・ま、まあ、いいか。合格は合格だしな。ヘレン、よく頑張ったな」
「うん、ありがとう、お父さん!」
美しい親子愛、ずっと眺めていたいが、俺も試験を受けないといけないしな。
「じゃあ、次、ガイア君。遠慮せずに全力で来て良いからね」
「わ、分かりました!」
とは言ったものの、何の魔法を使おうか。ヘレンのファイナルカタストロフを耐えたから、どんな魔法を撃っても大丈夫だとは思うが、加減を間違えたら、死ぬ可能性も否定できないしな。ギガファイアあたりにしとくか。
「・・・・・・魔法式構築完了! いきます! ギガファイア!!」
「・・・・・・ギガウォーター!!」
水の最上級魔法か。本当に見事だな。
「やっぱり、ガイア君は凄いな。鬼神を倒したのにも納得がいく」
「そ、それで、試験の方は・・・・・・?」
「もちろん、合格だ!」
俺たちは、無事にティオさんの卒業試験に合格することができた。いよいよ、入学試験の日だ。少し緊張するが全力で受けよう。
そして、気がつけば、太陽がもう沈みかけていた。
「今日はもう遅いし、明日に備えて、ゆっくり休もう。あ! そうだ! せっかくだし、夕飯は、カツでも良いか?」
どうして、カツなんだ? ま、まさか、明日にテストに勝つぞーとか、そんな下らない理由じゃないよな。
「どうして、カツなの?」
ヘレンも疑問に思ったらしく、質問している。本当、何でカツなのかな。
「だって、明日は入学試験だろ? だから、カツを食べてテストに勝つぞってな」
やばい、凄くしょうもない理由だった。というか、完全にダジャレじゃん! これは、流石にヘレンも引いているんじゃ・・・・・・!?
「あ、なるほど!」
納得しちゃったよ、この子! さすが、親子だな。でも、まあ、カツは好きだし、別にいいか。
そして、俺たちは帰る前に肉屋で豚肉を買い、家に帰って母さんに揚げてもらった。それにしても、あのカツは本当に絶品だったな。さすがは、元宮廷魔法士のティオさん。まさか、一番高い豚肉を買うとは思わなかったよ。嬉しい誤算だ。ここまで、してもらったんだし、ティオさんのためにも絶対に魔法学院に合格しないとな。
そうして、夕飯を食べた後は、いつものように、ヘレンと一緒に寝た。寝相の悪さは、9年経った今でも変わらない、というより、前よりも悪くなっていた。




