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第百三十五話 厳寒釣行

作者: 山中幸盛

 地球温暖化で暖冬を当てにしていたのに、今季はトンガ沖海底火山大噴火の粉塵が太陽光を遮っているせいか寒い日々が続いている。そんな中、二月も中旬になり、「北斗」五月号の原稿を書こうにも、毎度のコトながらこれぞというネタに思い当たらない。

 そこでまた、困った時の魚釣り頼みで、まず間違いなくボーズだろうに、防寒具をたっぷり着込んで使い捨てカイロを三個身にまとってT漁港まで釣りに行くことにした。

 天気予報と自分の用事日程を考慮して、比較的風が弱い予報の二月十八日金曜日中潮の日に行くと決め、家で釣り針の仕掛けを作っているうちに期待がふくらんでいく。

 その日、いつもの夜釣りの場所でサオを出すつもりで、家を午後三時頃に出発した。エサはわが家の冷凍庫に残っていた小イワシを使って大物も狙うが、釣れる確率を上げるために虫エサも使うことにしてT漁港近くのエサ屋に立ち寄る。加えて、釣り仲間の一人が「ケチっとらんで、たっぷり撒き餌をバラまかな、魚は寄って来んで」と語っていたのを思い出したので、虫エサの他に大きなアミエビの冷凍ブロックも気前よく買い込んだ。

 お金を財布から取り出しながら、期待せずに店のオバサンに声を掛けてみた。

「最近釣れていますか?」

 予想に反し、オバサンは明るい表情で応えた。

「なんだか知らんけど、一昨日辺りから、T漁港やM漁港にアジの大群が入って来とるらしいよ。それも、尺アジとまではいかんけど、けっこう型が良いらしいよ」

「本当スか、それは楽しみや」

 幸盛の胸が高鳴った。これまで、アジングではアジはなかなか釣れなかったが、アジの大群が入ってきているとなると話は違う。定番のアミエビを使ったサビキ釣りでなくとも、ワームで釣れるかもしれない。

 T漁港の駐車場に到着したのは四時半頃で、明るいうちに仕掛けをセットしておこうと、キャリーにクーラーボックスなどを乗せてガラガラ引きずっていつもの場所に行くと、まだ人が残って仕事をしている。

 邪魔にならない場所で仕掛けをサオ四本分作り終わる頃には、人はいなくなっていたので、小イワシと虫エサを針に刺して投げ、およそ五~七メートル間隔でいつもの場所に置いてサオ先に鈴をつけておく。

 次にアジング用のサオにリールをセットし、今夜もアジの大群がこの港内に入って来ていることを期待しながら置きザオと置きザオのスペースにワームを投げてみる。

 最初は海底に近いタナを責めてみるが反応がない。次にワームを中層で泳がせて来ると、コツッときてからリールのドラグをジージー鳴らしながらどこまでも引っぱって行くのでかなりの大物に違いない。アジは口が弱く、強引に引っぱると口が切れて逃がしてしまうので、ドラグをゆるく設定してあるのだ。

 やがて疲れたのか引きが止まったので、サオをポンピングしてドラグをジージー鳴らしながら足元まで引き寄せ慎重に釣り上げてみると、今まで釣ったことのないサイズの大きなアジだ。二十センチ以上はあって、丸々と太っている。

 夕まずめの時合いを逃してならないので釣ったアジを急いでクーラーボックスにしまい、同じ場所にワームを投げこんで引いてくると、またすぐに食いついてきたので笑いが止まらない。ドラグをジージー鳴らす音が最高に気持ち良い。二匹目も同じサイズの良型アジだった。

 そして胸を高鳴らせて三投目を投げ、ワームを中層まで沈めて泳がせ始めた時、足元の置きザオの鈴がリンリンと鳴って、リールのドラグをジージーと鳴らしながら猛烈な勢いで重いオモリを沖に引っぱって行く。

 とりあえずアジングのリールのドラグを目一杯ゆるめてからサオを下に置き、魚がかかった置きザオを手に持ってドラグを締めてサオを大きく煽って合わせると、サオ先がググッと曲がって何者かがグイグイ引っぱる。この引きはエイに似ているが、エイはこの時期港内にいないはずなので、もしかしたら大きなヒラメかもしれない。

 心臓をバクバクさせながらその獲物を足元まで引き寄せるとバシャバシャと波しぶきを立ててあばれる。海面まで距離があるし常夜灯が照らす岸壁の陰の部分に入ってよく分からないが、やはりヒラメのようだ。 

 と、その時になんと、足元のアジング用のリールのドラグがジージーと鳴って、何者かがワームをくわえて猛烈な勢いで沖に引っぱって行く。このままだとリールのラインが全部出て、サオごと海の中に引きずり込まれかねない。

 やむを得ずヒラメがかかっているサオを股間にはさみ、アジングのサオを拾い上げてドラグを締めて抵抗を加えると魚の動きが止まった。幸盛は慎重に魚を引き寄せながら、至福の笑顔でつぶやいた。

「こんなことってある?」


 *(注)今回の「第百三十五話 厳寒釣行」は、いつもの『エッセイ風小説』ではなく、全くのフィクションです。家から一歩も出ずに書きました、あしからず。



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