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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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いらないのはむしろお前なんだよ?













   いらないのはむしろお前なんだよ?

   2023.11.29












 数年滞在して離れようと思ってた中国で、なぜか中国人と結婚してしまい、超予定外のロングステイ中の私。製造業がどんどこ押し寄せ、ウハウハいっていて、一方、日本人男性は当時こちらでは中国人女性からみてマハラジャのように金持ちで、(当時、念のため再度記述)日本にいたら踏み外さなかったであろう道を数々の日本人男性があれよあれよと踏み外すのを、バードウォッチャーがバードを眺めるような気持ちで眺めていた過去。中国の高度経済発展を目の当たりにし、ちっともジェンジェン冴えなかった深圳という街が、大都会になり中国のシリコンバレーだぞと。


 そんな中、中国に進出する企業というのも種類が変わってきた。中国で安く物を作りたい企業から中国に物やサービスを売りたい企業へとです。今までは製造業に勤務してたから触れることのなかった中国でサービスをしたり物を売ったりしている企業に触れる。ふむふむと財務諸表や利潤表の流れ方を眺めてました。


 大企業というのはきっとこちらにも進出している電通さんとかに頼んでマーケティングもするし、広告も販売戦略も立てさせるんだろうな。ただ、そこまで大きくない企業さんはそこを外注しないのですよね。で、身近にいる便利番の銀行さんにザクっとした情報を尋ねたりするわけ。


 ただ、日本でやっている販売方法でうまくいったから、そのままスライドで中国で売ろうと思っても、そんなうまくはいってないのだろうな。


 マーケティングって重要だねぇ。


 そんな感慨を持ちながら日々を過ごしてました。そんなある日、こちらの会社を閉じたいのですと相談が入った。結構長くこの深圳で日本で生産した製品を小売りしてた会社さん。コロナで売り上げが下がったのと全世界的に業績が落ちてきているので、コスト削減の対象に中国の営業所がなってしまったそうなのです。


 所長さんは日本に留学し、日本本社に就職した中国人女性で、非常に優秀な方でした。


「うちの会社のものは品質はいいんですが」

「はい」

「中国の市場の変化に、商品の開発がついていけないんです」

「ああ〜」


わかる。


「新しいことに対する投資を提案すると、それでいくら儲かるのかと。やったことのないことだからはっきり言えないと、やるかどうか結論を出すまでに話し合いが延々と続いて」

「その間に競争メーカーはもう新商品出してますよね?」

「はい」


他の場面でも、日系メーカーが進歩がないとか開発が遅いとか言われているのをここ最近目の当たりにしている。


「中国は競争が激しいからみんな必死に生き残るためにできることはなんでもしますから」

「はい」

「日本はのんびりしているから、そこで、もう勝負になりませんよね」


同席している別の人がそう言って、そうだよねぇと皆同意する。


「うちは最近アプリの開発もしてたんです」

「はい」

「だけど、正直な話、最近の日本のアプリより中国のアプリの方が使いやすい気がして」

「うんうん」

「これ、使いにくいですってはっきり言ったら、日本は最初使いにくくても、慣れるまで使ってくれるからって上の人に言われて……」


なんっじゃそりゃー!(お客様と話しているので、心の中だけで叫ぶ)


「いや、使いやすいアプリと使いにくいアプリがあったら、使いやすい方を選びますよね」

「そうですね」


しみじみと思う。昔、中国でマハラジャのように女にモテたジャパニーズマンが、今では会社の定年前くらいになってる。昔確かに日本は品質の面でも、技術の面でも上でした。ただ、ここ5年ほど深圳の変化がすごい。シリコンバレーだぜっと。深圳はITが強い。携帯アプリの進化もそうだけど、中国はそれだけじゃなくて、政府関連のデジタル化もすごいんです。ありとあらゆる政府へあげる申告がどんどんデジタル化され、個人所得税の管理もアプリで管理されてる。日本がインボイス制度がどうのと言っていますが、そんなものはとうの昔にされていて、中国は税務署が管理するシステムを使用して発票と言われるいわゆるインボイスがデータ管理されてるのですよ。システムを通じて紙に印刷して発行する仕組みだったのが、紙をやめて完全電子化が目指されてます。


おじさんたちは日本が上だった頃を忘れられないのかもしれないけど、ものすごい速度で追い上げ追い越してきているんですよ。あぐらをかく余裕なんてどこにもないんです。昔は品質の良いものなんて中国で買えなかった。でも、それがどんどん増えてきている。


中国が強いのは物を安く作ることだけじゃなくて、販売網を作る部分です。販売網だけじゃない、革命的に販売手段を改革してきている。


この販売手段の改革に深圳のIT技術が関わってくるわけです。爆発的に伸びてきているEコマース。購買をするサイトと決済の仕組みだけにITが生きているわけではなく、注文を集め整理し発送する部分にもAIが使われている。そして、写真を見て買うだけでなく、実演販売をスマホ上で眺めながら買う形式。これもまたどんどん伸びている。


次に来るのがきっと仮想現実の中での購買でしょう。この品物の周辺にある新しい買い物環境と販売の仕組みを怒涛の勢いで構築しているのが、深圳発のユニコーン企業が抱える若手の中国人優秀人材。


日本で売れてるから中国で売るなんて時代じゃないんですよ。

新しいEコマースという媒体でどんな品物なら売れるのか。皆、次から次へと指でクリックしながらたくさんの品物を比較しながら選ぶ時代です。バナナを叩き売るように、どういう売り口で売るかを考えもしないで、メイドインジャパンだから売れるだろうなんて、いつの時代に生きているのでしょうか。


ぼうっと生きてんじゃねえよ。このかつてのマハラジャめっ!


ここまでけちょんけちょんに言いながらも、それでも母国日本を愛しているし、全てのものがダメだと言いたいわけじゃないんですが、ものづくりだけじゃなくて、他に足りないものをきちんと取り入れて頑張らないと、生き残れないと思うんです。


長年勤めてきた会社とその会社のものを愛してきて、どうにかして中国で売りたいと健闘してきたその所長さん。非常に寂しそうな様子を見て、胸がザワザワしました。


いつも思うことですが、この方だけじゃなくて日本人の若い方達の中にも自分たちの未来を憂い、また、自分の会社の可能性を思い、安全牌ばかりに逃げチャレンジをしない上の人たちに物申したい人はいると思うんです。日本をよくしたいとか、会社をよくしたいとか、だって、経済が上向かないと我々に先はないわけですから。


能力がある人材が生かされず、品質も高く少し切り口を変えたらおそらくもっと売れるであろう可能性も生かせず、そして、今ならまだある余裕資金も生かされない。こういうことを見ていると、自分の立場上言っちゃいけないことを言ってしまいたくなる。


「你注册公司吧」


同席していた中国人の女の子がポロッという。


チーン


その後、日本とのテレビ会議が切れた後で、また別の人がいう。


「会社作っちゃえば」


本社は事務所を閉じちゃいますが、所長さんが自分で会社を作ってしまえばどうでしょう?


ははははは


みんなで笑った。結局ね、その場にいた皆が思ってた。この方、勿体無いなと。だからついぽろっとそんなこと言っちゃうわけで。


所長さんが帰られた後、またポツポツ社内のメンバーで話してました。


「私、M&Aってありかなと思います」

「なんで?」

「人材ももったいない。その会社の製品も勿体無い。可能性はあるのに会社が儲からない」

「うん」

「実はここらへんに問題があったりして」


ジェスチャーで、エアーの三角を作る。会社ね。そして、会社の三角の上部を示す。


「だけど、会社の構造を破壊するのは下の人たちには無理です。だから、上からパクッと!」

「中国の会社に買われちゃうわけか」

「……いや、そこ、中国じゃなくても良いんですけどね」


この会社もったいないなと思った資金力のある会社が会社を買う。これは敵対的買収ではないかもよ。


「最近は投資ファンドが資金と口を出すというのもあるみたいだしね」

「そうそう。資金を注入しつつ、君いらないと。そして、効果的な投資計画を提示させるわけです。新経営陣に命じて」


ぽいっと上部三角を取ってしまう。


「本来であればこれは悲劇ですよ。昭和であれば」

「うんうん」

「でも、令和であれば……」


そこで、妄想劇場立ち上がる。


「どうしよう!僕、辞めさせられる!君たちも反対するでしょう?下の人たちを振り返る、その時ー」

「どうなるの?」

「拍手喝采!フィーバー!お祭り!」

「はははははは」


半分冗談、半分結構本気でこうなると思うわ。


いらないのはむしろお前なんだよ?


きっとこういう文句を押し殺して日々働いている方は多いに違いない。


汪海妹


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