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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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人は波の中で何度も洗われて角の取れる石のようなもの













   人は波の中で何度も洗われて角の取れる石のようなもの

   2023.06.07













 このセリフは、静香さんの弟という短編の中で、春樹君が静香さんのお父さんに向かって話している言葉なのですが、まんま私の気持ちがこもっています。子供の頃から水戸黄門が好きで、弱虫なくせに妙に正義感の強いところがあった。私はかなりの理想家だと思います。それと、なんでなのかな?父が自営で常に上に人のいない形で働いており、男の子の代わりに私を可愛がり、そして、私が言いたいことを言いたいままに言わせきちんと聞いてくれたからでしょうか。私は相手が偉い人だろうが、上の人だろうが、結構言いたいことをズバズバと言ってしまう人なのです。


 そんな自分は日本で正社員を目指すという安定した道を蹴り、海外を転々としようと日本を飛び出してしまった。


 当時の中国はブラックかどうかというよりも前に、インフラすら整っていない状況で、停電停水当たり前。自分の正義とか理想なんてもうつぶやく暇もなく、そりゃ、もみくちゃにされました。一度全ての基本というものを根底から叩き潰され、それこそサバイバルのような毎日を送って、何もないところからもう一度自分を構築したのです。


 一般的尺度から見てもともと癖のある人だったのに、更に海外体験が加わって更に食えない人になったなと。

 私は全くもって、普通の日本人ではないのだと思います。


 ただ、これは暗に自分が求めてきた姿だったのだろうなと思っています。


 会社に入って他の人と同じように働くというのが、自分という石の角をとってしまう。私はもともと会社員になりたい人ではなくて、芸術家でいたかった。個性のない芸術家なんて……。しかし、若い時、自分の中に何か書くに値する経験があるなんて思えなかったんです。自分の作品を書くのを先延ばしにして、いわばネタを得るために不安定な道に飛び込んだようなところもありました。


 そして、結局はこの中国で、日本語教師の仕事をした後で、会社に入って働きました。


 普通の日本人ではないなんてことを宣う反面、自分は非常にコミュニケーション能力の高い人間ですので、会社が求める自分の役割というのは察することができた。だから、それをある程度演じたわけです。会社から見てそんなにダメな社員だったわけではない。


 そして、自分の石の角を取られるような出来事に何度か遭遇したわけです。

 私にとって会社はしがみつくところではありません。普段はキャンキャン言わずとも、ここぞというところでは騒いだ。


 で、結局、その騒ぎは実を結ばず、自分はここをさることになりました。


 騒いで後悔していますか、というと、そうではないんですね。


 その過程で非常に色々な思いをしました。どんな問題が起こっていたかということはここでは書きませんが、水戸黄門が好きな私です。私は、中国語が話せるし、もともとコミュニケーションに強い人間ですね、ローカルスタッフのいろいろな子と関係が非常に良かったんです。だから、日本人に見えていない裏の出来事というのにもある程度精通していました。その中で、やはり理想というか正義がなされていないというか、真面目に働いている人が損をして傷つき、悪いことをしている人が私服を肥していると言ったようなことが目についたんですね。


 自分は弱虫なくせに正義のヒーローのようなものになりたかったのだと思います。

 普通だったら、お金が欲しいとか、会社を辞めることなんてできないとか、だから、義憤なんてものに駆られて騒ぐ人間なんて実は社会にはあまりいませんよ。悪いことしたい人から見たら、肉に釣れない無駄に真っ直ぐな人なのかな?私は。


 私だけではないと思うんです。正しいと思うことを社会でやろうと思っていて、壁にぶつかってしまう人は。理想は理想で美しく、表では会社だって理想を掲げているわけです。でも、現実という裏がある。本当に若い頃は、自分は間違っていないという自信があった。だから、会社が間違っているのだから、ここから別のところへゆこうという行動も取れたわけです。


 だけど、何度かそういうことをして、それでも、思うようにいかない現実に向き合っている人はきっと、私だけではない。


 本当は水戸黄門のようなものに憧れて、まっすぐ生きたいと思ってる人は結構いると思うのです。男性、女性、関係なくね。だけど、きっと一体何が正しくて、何が正しくないのかわからなくなってしまう時が来る。


 あんなに信じていた自分の信念が、机上の空論のように思えて、折れてしまう日というのが、きっとたくさんの大人の人の心の中で起こっているのだと思います。


 春樹君が海を見ながら、自分は波にさらわれながら角のとれていく石だと言った背景には、私のこんな思いが詰まってました。そして、あの時、春樹君が道隆さんの話を聞きながらそれでも、自分の未来というか次が見えないという状態。それがまさしく書いている私の状態だった。折れてしまいたくはないけれど、でも、どうやって生きていけばいいのかわからない。


 角を持ったままで生きていくというのは、社会に所属している以上、非常に厳しい生き方です。何度も絶望しそうになる。


 それから、真っ赤な薬缶のように怒った日々を今見返してみて、思うことがある。

 自分の正義というのは……ってことです。


 自分の能力を過信していました。真面目で真っ直ぐで、いざとなると自分の身も顧みず上に楯突く。そういう私の資質を利用されていたのだなと気づくことになる。私と対立する側にいる日本人も同じなんですよ。本人は正義のためにやっていると思い込んでいる。その姿が鏡に映っている自分と同じだということに気がついた。


 日本人は、真面目な人が多いですね。時にそれを利用されることがある。

 日系の企業では、日本人はある程度の権限を持っている。私自身にもある程度の発言権はありました。それを利用されていたのだなと。そして、他の日本人の方もまた別の方向に利用されている。そして、日本人同士て対立する場面もある。実は、両方が操り人形のようになってしまっていることがある。


 自分を過信していました。私のまっすぐさと純真さに糸をかけられてしまった。

 自分自身では気づかなかった。私を利用する中国人もいたけど、それとはまた別に心配して、こっそりと教えてくれる中国人の子もいた。


 もしも私が、生まれたまんまの自分で、それが角の取れていない自分だとしてね、その自分はよく言えば純粋なんですけど、悪く言えば騙されちゃう私な訳。


 波、ジョートーです。


 元々の自分にこだわる必要なんて、ない。荒波に揉まれて、丸くなるどころか真っ二つに割れることだってあるわ。現実の社会とは厳しいところだ。だけど、割れたぐらいで死んだりしない。


 私は今回、自分が頭が良くて、騙されないような人間だと信じて、まんまと利用されて、これでもかと転びましたが、人間転んでもタダでは起きない。最初っから完成している宝石なんてないですよ。本当の意味で大人になることを拒む必要なんてない。


 生まれたままの純粋な自分でい続ける必要なんて本当は、なかったんだ。

 経験を得て強くなるからこそ、人は何かを変える、変えられる能力を得るのだ。

 ここで諦めちゃいけないと。嫌な目に散々あったんだから、意地でもこれから、やり返してやるぞと。


 なにに?よくわかんないけど、なにかに。


 本当の意味で、自分はきっと大人になったんだなと最近ちょっと思いました。

 あそこで悩んでいた春樹くんのもっと先は、きっと5年後、10年後の自分なら書ける。


 どんな人にだってきっといいことも悪いことも起こってる。起こった後にどう行動するかが違うのだとこの歳になって思う。


「神様、成功のチャンスをくださいよ」

「あげてるよ」

「え……」


 こういうことだと思うんだよ。


「もらってなんかないよ。全部大変なことばっかだったんだけど」

「だから、それが……」

「それが、なに?」

「ああ、もう良いぞよ」


 きんとんかなんかにのって、神、去る。


「あ、こら待て!逃げるな、コラー!」


 こういうことだと思うんだよ。笑い話にしちゃったな。


 今日は帰りにオレンジジュースを買って帰ろう。スクリュードライバーを飲みながら、息子と鬼滅の刃を一緒に見たいのです。

 

 汪海妹




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