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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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新婚さんいらっしゃーい












   新婚さんいらっしゃーい

   2023.06.06













「さぁ、みなさん本日もこの時が参りました。新婚さん、いらっしゃーい」


ワタクシの元気一杯の声を受けて、安いセットの奥から白い煙と共に出てきたのは。


「あ、あの……」


この人、トシ君。


「あれ、トシ君、芽衣ちゃんは?」

「え?」


新婚さんいらっしゃいなのにまさかのシングルで登場。


「芽衣も一緒に来ないとだったんですか?」

「あ……」


マイクを持ったままで、詰まる司会者。


「ま、まー、いいや、お座りよ。トシ君」

「どうも」


ちょこんとスツールに座る。


「景気悪い顔してんな。酒でも飲むか?」

「未成年です」


そうだった……。


「じゃあ、お酒っぽい見た目のオレンジジュースを入れてやろう」


なぜか急にセットが夜のバーのようなところに早変わりだ。しかし、お客様は高校生で、スニーカーにパーカー的な服装でお願いします。

未成年にはお酒は出さないよ。どうぞ。小洒落たグラスに入れられたオレンジジュースを。

そして自分用に……


シャカシャカシャカシャカ


「先生、すげ、シェーカー振れるの?」

「妄想の中ではね」


そして、縁に塩のついたグラスに中身をとろりとあける。


「ソルティドッグだ。飲んでみっか?」

「だから、未成年ですって」

「一口ぐらい飲んだって平気じゃね?」

「結構です」

「なんじゃ、おみゃー、結構硬いな」


美津子さんの躾が厳しいのかね?やれやれ。


クイッ


「おー」


ついいい顔で微笑んでしまった。久しぶりのソルティドッグでした。


「ところで、トシ君」

「はい」

「わしゃ、実は、今度コンサル見習いなるものになることになりまして」

「はい」

「もしかしたら、永遠に見習いの文字が取れないかもしれないのだけど」

「はぁ」

「まぁ、そんなことはほっといてさ」

「なんのコンサルなんですか?」

「そこなのよ!」


ビシッとトシを指差す。それから、クイッ


「あ、空になっちゃった」

「……」


からの、次は何作ろうかな?やっぱこれっしょ。


「モスコミュール」

「先生、ペース早すぎる」

「ん?」

「カクテルって結構くるんだよ」

「なんだ、お前、酒飲まないくせに詳しいな」

「父親が酒飲みなもので」

「お、そうか、そうか」


お父さんの松ちゃん。なんか、親近感湧いたぜ。シャカシャカ。トロトロ。


クイッ


「おー、いいねぇ」

「……」


引いてます。帰りたがってる。高校生。そりゃ、ホストでもないのに中年女子の酒の相手させられたらな。まずい。


「ちゃうちゃう、私が何のコンサルかだったね」


よっこらしょっと。イケメン高校生の隣に座らせてもらったぜ。現実ではイケメン小学生の横に座ってるけどな。


「恋愛兼結婚コンサルだ」

「へ?」


トシ君、目を見開いたぜ。


「そんなんないっしょ」

「うん、ない」

「な……」


さきイカか、ピスタッチオナッツが食いたいなと思いながら、我慢しつつ酒を啜る。


「いや、でも、これ、マジな話なんだけど、わたしゃアマチュアの恋愛兼結婚コンサルと言っても過言ではない」


結婚コンサルと言っても、所謂、婚活されてる方にアドバイスするのではない。結婚していて、悩んでるご夫婦、特に男性の相談に乗ることがなんと20代の頃から多々あったのである。酒を飲んでいて、ハッと気づくと自分より一回りも二回りも上のおじさんの結婚の悩みを聞いているのである。


不思議だ……。


「ほんっとにそんな仕事するの?」

「いや、仕事じゃねんだよ。仕事は別。だけど、アフター5でハッと気づくとわしゃ悩み聞いてるし、むっちゃありがたがられるんだって」

「なんで?」

「なんかねぇ」


首を捻る。


「私、人の心読むのが、なんでか知らんけど昔っから得意で、その延長線上で、多分きっと相手はこう思ってるんじゃないのとかいうと、あたっちまうことが多くてさ」

「うわ……」

「占いの勉強した方が良かったかもだよ」


私をふざけて深圳の母と呼ぶ人がいるくらいだぜ。


「さ、ですから、先生が見てしんぜよう。トシ君の恋愛の悩みは何かなー」


ふっと自嘲的に笑って下をみるトシ君。


「つうか、ごめん。ぶっちゃけ、君の悩みをゼロから構築したのは私だったりして」

「ですよね」


ひつじの斎藤君以来、ありえない男主人公的な、マニアックなキャラ創造にハマっております。


「元々は客寄せパンダ的な、王道イケメンを創造していたのだけど、PV数稼ぐためにさ」

「うん」

「とある時から、これ、ありかなしかのぎりぎりをゆくキャラの創造にハマってしまった」

「はぁ」

「女性はレア度の高いS女子に」

「……」

「で、男性はこれまたかなりのレア度のM男子に」


チーン


「あ、すみません。私の趣味の話に走ってしまいまして」


SとMの探求は、ワタクシの趣味でございます。


「で、トシ君、君の芽衣ちゃんに対するダメっぷりがむっちゃツボにハマってんだけどさ」


と言いつつ、思わず、クックックと思い出し笑いをしてしまった。すげ、冷めた顔で睨まれた。


「あ、すみません」


一体、何回謝ってんだ。年下相手に。やれやれ。


「え、こっから本気入ります。恋愛コンサル」

「はい」

「最初が肝心です」

「もう、最初は終わっちゃってます」


ゴホゴホゴホ、咳き込んでみた。


「うんと、まぁ、君たちの場合はもう終わっちゃってるんだけど、これからの皆様のために言っておくと、人間関係というのはその人と出会ってから、最初の時間でこれからの大部分を決めてしまう」

「はい」

「だから、最初っから簡単に屈服してはいけなかったんだよ」


万歳の仕草をして見せる。


「でも、もうしちゃったし」

「イケメンなんだから、もっと堂々としてろよ」

「でも、芽衣には全然そういうの、効かないし」


そうなんだよねぇ。


「でも、芽衣ちゃんは、トシ君のこと必要としてるよ」

「どこが?」

「えっと、ほら、芽衣ちゃんは人一倍、表現力のない人というか、抜けた人だから」

「うん」

「芽衣ちゃんがトシ君を必要としている事実があるので」

「はい」

「それを別に言葉や態度や形にして表さなくても、伝わっていると思っている」


チーン


「というか、そういうものを伝えることが必要なんだと知らないのだよ」

「そんなん、全然、感じませんが?」

「いや、私に食ってかかるなよ」


はぁ


ため息をついた後にぐびぐびとオレンジジュースを飲む、トシ君。


「ま、だけどさ、トシ君」

「なんですか?」

「あの芽衣が突然、あなたに向かって真っ正面から、トシ君、だーいすきとか言ってみろよ」

「……」

「想像してみろ?したか?」


なぜか、つまらなさそうな暗い顔をしているトシ。ふっと笑う私。


「気持ちわるって思っただろ?」

「いや、そんなことは……」

「いや、思っただろ?認めろ」

「……」

「君が欲しいのはそんなストレートな愛情表現なんかじゃない」

「そうなの?」

「そんなストレートな愛情表現で満足するなら、わざわざ中村芽衣にハマるか?」


すごく無表情になりましたよね、トシ君。


「これは私もいまだにわからないのだけれど、あの芽衣が」

「芽衣が?」

「どんな捻くれた愛情表現をするのかっ!」

「先生もわかんないんすか?」

「今はまだ、わかんない。芽衣は未知の生物なんだよ。私にとって」


地球外から舞い降りた知的生命体的な?


「な、ワクワクしてきただろ?」

「いやぁ?」

「いや、してきたはずだ。認めろ」

「しません!」

「でも、いつかはきっとあの芽衣も君に対して愛を囁くから」

「あの芽衣がですか?」

「気持ち悪いって思っただろ、今」

「思ってませんって」

「大丈夫、大丈夫」


どっかからか出してきた扇子を開いてバサバサと仰ぐ。


「捻くれた君が気持ち悪って思わないような、むっちゃマニアックな愛情表現捻り出すから」

「俺、捻くれてんですか?」

「今更、何をいう。芽衣みたいなマニアックな人、好きになっておいて」

「ええっ……」

「君も相当マニアックな人間なんだよ」


あ、酒が空になったな。次は何を……


「先生、本当にそんなんで、恋愛結婚コンサルの異名を取ってるんですかっ?」

「ちょっと今日は滑った気がしないでもない。つうか、酔ってる?」

「真面目にやってくださいよ」

「ばか、揺らすな。酔っ払っている中年をシェークするな。実はそんなにお酒強くないんだって。うげ」

「もうちょっと報われたいのに」

「だから、心配しなくてもちゃんとうまくいくって君たちは」


夜が更けてゆく。明日も仕事だし、もうそろそろ寝るかな。






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