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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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善意と悪意












   善意と悪意

   2022.10.22













 ここのところ自分を励ます意味もあって軽いコミカルなものを中心に書いていましたが、本日はちょっと真面目な話を書こうと思ってます。私のように昔学校とかでいじめられた経験があって、人間関係が怖くなってしまった私より若い人たちが読んで、少しでも役に立たないかなとそんな気持ちで書いていました。


 一昨年だったかな、仕事の関係のことであらぬ疑いをかけられて信用を失墜してしまったことがあります。それは自分自身が何かをしていたわけじゃなく、ただ、下が持ってきた案件を忙しくてよくわからず承認してしまった。私の上もあまり気にせずに承認してしまった。トップが変わって今になってそれを使ってとある人に落とし穴に嵌められたんですね。まるでさも何かあって、それに下だけでなく私まで加担していたかのような作り話を流された。


 社会に生きていると、そんなゴタゴタに巻き込まれることもある。


 それが一昨年で、それと似たようなまた作り話を先週流された。ここ数年何度か巻き込まれてきた騒動にまた巻き込まれるな……。


 転職が決まらず、1番やりたい仕事に就けるかどうかわからない。ふわふわと落ち着かない日々の中で、それでもなんとか書くことを続けたいと今週は頑張ってエッセイを書いてました。その矢先にまた、胃の奥をぎゅっと絞られるような嫌な出来事が起こった。不安と怒りで沈鬱な気分でいました。


 雨が降ってきて、傘を持っていない。だけど、深圳は毎日PCR検査を受けなければならない。家に入れなくなる。

 小雨の中で会社の車を降りてPCR検査場に向かって列に並びました。

 また、会社で私の真偽のほどを問いただされたらどうしよう?なんて答えよう?


 空からは雨が少しずつ多く降ってくる。家に帰ったらすぐにシャワー浴びなきゃ。

 すると不意に、雨が消えた。


 あれ?っと思って上を見上げると、そこには平凡な緑色のチェックの傘がかかってる。

 後ろを振り向くと、白髪の混じったおじいさんとお婆さん。


「あなたが傘を持ってないから……」


 傘を差し掛けてくれたおじいさんは恥ずかしそうにしていて、お婆さんがニコニコと私に笑いかけてくれた。

 

「主人の傘は大きいからあなたも入れるわ。よかったわ」


 泣きそうになりました。


「ありがとう。仕事で疲れてるから、家に帰ってからもう一度出るのが面倒で」

「そうねぇ」


 そして、その後も列が前へ進んで仮設テントの屋根が現れるまで、おじいさんはそっと私が濡れないように気を遣ってくれたのです。


 根も葉もない作り話で私を陥れようとする人も中国人。でも、赤の他人の私が濡れないように傘を差し掛けてくれる人も中国人。

 中国人だから悪いとか日本人だからいいとかいうのはなく、どこの国にも善意を持っている人と悪意を持っている人がいます。


 私は子供の頃にいじめを受けて、一度自分や家族、一部の人を覗いて全ての人が悪意を持っている人に思えたことがあるんですね。それから、生きてゆく中で、この人はどっちかと。いじめっ子か?いじめっ子を容認する人か?あるいは私の味方かと、人に出会うたびにその相手を探りながら生きてきた。簡単に人を信用しませんでした。


 そんな自分を時間をかけて癒して、人を信用できるようになってきた。

 人の悪意を悪意とはちょっと違う形に脚色して、自分の認識している世界をもう少し優しい世界に作り替えて生きてきたんです。

 それでも、私は今でも、そんなに簡単に人を寄せる人ではない。


 そんな折にまた、真っ黒な悪意のようなものを受け取ってしまった。

 それで落ち込んでいた時だったから尚更、このおじいさんとおばあさんのささやかな善意に心が震えました。


 人の悪意を一身に受けるような経験をしてしまうと、もう人を信じられなくなると思うんです。

 ただね、現実をきちんと見れば、やはり世の中には悪意に満ちた人と同時に善意に満ちた人もいる。

 そして、自分の味方もいるのです。


 小説を書き始めた時、自分が書いたものを読んで、優しい人しか出てこないどこか現実離れしたものだと感じてならなかった。

 私の大好きな温かい世界です。人の心の優しさと美しさを中心に書いた。でも、何かが違う。こんなんじゃないと葛藤する自分がいました。これはただ逃げているだけだと思ったのだと思うのです。


 私は自分が周りの人という人を信じられなかった時期、本や漫画、アニメ、そういう創作物の中に癒しを求めて、そこに住んでいましたから。

 私はまた、自分の筆を使って、逃げ込むための世界を作り上げているのだなと。

 自分で書いておいて、そんなことを考えていた。


 でも、それではいけないと思っていて、ここから、この優しいだけの何かから私は立ち上がらないといけないと思ったのです。

 だから、現実で強くなろうと再び誓った。


 何のために?


 それは、かつてどんなに弱かった人でも、強くなれるということを証明するためです。

 私は弱い自分が大嫌いでした。自分で自分が嫌いでたまらない人間だったんです。

 きっと最初から強かった人にはわからない。

 自分が弱くて、そんな自分が嫌いでたまらなかった人間が、どうにかこうにか少し強くなってそしてそんな自分を認められるとき、

 生きていてよかったと思えるくらい嬉しいのです。


 自分で自分を誇りに思う、それはとても大切な感情です。


 人の善意について、作品を書き始めた頃とはまた別の感想を抱くようになりました。


 優しさだけで出来上がっている世界に住みたいものです。

 ですが、そんな世界はありません。

 だからといって、現実の世界で傷つけられるような経験をして、それで、悪意のない善意しかない狭い世界に閉じこもることなんてない。

 なぜなら、悪意を受けて窮地に立たされた時、自分の側に立ってくれる人もいる。

 また、もし、立ってくれる人がいなかったとしても、それならその場を放棄して別の場所でまた、戦うのみです。


 大事なのは、どこへ行っても敵はいる。だけど、味方もいるということで、重要なことは自分に味方をしてくれる人がいると、自分が信じられることなのだと思う。この人は味方をしてくれると信じることができなければ、相手もまた私の味方はしてくれないでしょう。


 必要以上に自分の棘を尖らせて、周りに殻を閉ざすのはやめようと思います。

 それが、私がこの数年の悪意に巻き込まれた経験から得た教訓です。


 私は、何か困ったことが起こった時に大声を上げて相手を威嚇し、自分を守るようなそんな強さは持ち合わせていません。

 ただ、踏まれても折れない強さなら負けない。


 あと少しの我慢です。

 時期が来たら言いたいこと言ってやめてやろうじゃないですか。


 会社を辞めるときに、追い出されてはいけません。

 今の仕事よりもっといい仕事が見つかるまで、歯を食いしばって頑張ってください。


 追い出されたと思ってやめては、自分が前に進めませんから。


 でもね、本当に辛い時はさっさと逃げていい。


 逃げるは恥だが役に立つです。


 初めて中に入った咖啡店にて、ダーティーコーヒーなるものを飲みながら


汪海妹

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