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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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タワー・オブ・テラー












   タワー・オブ・テラー

   2022.10.15











何十年もかけてやっと……

就職活動のスタートラインにたてた気がします。


大学卒業の時、学歴も悪くないし、特に問題もなく就活すればそれなりにいけただろうに、

心理的に問題を抱えていてどうしても面接が怖くて就活からボイコットしてしまった自分。


ものすごい紆余曲折を得て何十年もかけて、やっと自分を面接の場で売ることができたなと。

昨日、4対1の面接を受けた後、ヘロヘロになりながら感慨ひとしおでした。


むっちゃ緊張していただけに、非常に嬉しかった。


面接を受ける前に、人材紹介の担当の方から圧迫面接かもしれませんと聞いていたのです。


圧迫面接


もともと就活をボイコットし、その後は所謂推薦やコネやそんなので仕事が決まったことが多かった自分。

圧迫面接、受けたことねー!


ま、こうなったら、あれだ。ディズニーシーのあれ、なんだっけ?ストーンと落ちるあれ。

そうそう、タワー オブ テラー

あれに乗るんだと思って受けてみよう!

(実はそこそこ絶叫マシン好き。宇宙飛行士になる試練だと思ってる)


人生におけるイベントだ、イベントだ。と思っていそいそとゆく。


「お履き物をお履き替えください」


受付で言われて、普段は滅多に履かないパンプスを脱ぐ。

やべ……

気づいた。

そこで、サンダルを貸してもらってはく。

やべ……

スタスタ歩く。

やべえぞ。


何がやべえってさ。

ペディキュアです……。


ぬかった!


素足で、パンプス履いてたの。つま先はきちんと隠れるけど、踵は隠れないタイプの靴でした。

深圳いまだに暑いので。


マニキュアは大人しい色。でも、ペディキュアは……、真っ赤でした。


あ……、落ちた。


タワーオブテラーに頭のてっぺんから足の指の付け根までは真面目な優等生で、爪だけふざけた状態で挑むのかー!


くそ、もともとは、優等生タイプでチャラチャラとは程遠い人なのに、自分を励ませと思ってここ最近楽しんでいたペディキュアで落ちるのかー!本当にアホだな、俺!


地味に無難にまとめたのに、なにしとんねーん!

昨日面接受けた先が特にこう、地味で真面目を必要とする先だったのですよ。


ええい、やけくそだ。もうなるようになれ。

開き直った。


「それではお願いいたします」


呼ばれて飛び出てじゃジャジャジャーン!


って、古いし、ついでに言うと、私が呼ばれたのはお笑い芸人のオーディションではありません。


「よろしくお願いいたします」


地味な優等生チックだが足の爪が真っ赤な状態でペコリとおじぎ。

そして、頭を上げてひょっと思う。


面接官の前にはちゃんと机があるの、折りたたみ式の。

しかし、その前に応募者の椅子がある。

椅子だけある。


つまり……

爪が丸見えなわけだ。

おー、のー、


史上最強に間抜けだぜ、俺……

くそ、スリッパ……


(人生でこの時ほどスリッパを所望したことはない。スリッパぁ)


今回、いくつか面接受けた。

一社目、おらの前にも机あっただ。普通の会議室だ。会議始めよっかって雰囲気だったべ。

二社目、同上

三社目、オーディション形式やな。


「さ、そこでちょっと歌って踊って見せて」

「はーい♡」


的な?私の周り空間があってよ。

面接官まで遠いのよ。

こう、私の全てが観察できるわけ。動物園のパンダみたいに!


パンダ、ちょっと離れたところから全身と一挙手一投足を眺められるちみが、いかに疲れるかが今、わかった。

同情するぜ。


ぬをっ!


そうか、これが所謂正式な面接というやつなんだな。と思ふ。我。


この微妙な距離感と、こっちは向こうの全身が見えないのに、(机があるからな)あっちは私の全身が見える。

銃を持って撃たれたら、同時撃ちでもあちらの方が有利。いくら私が早撃ちのハイメイちゃんだったとしてもだな!


いやっ、これが、圧迫面接?始まる前から?


タワー・オブ・テラーに来た醍醐味を、うっかりちゃっかりな赤い爪で味わう。

動物的本能で、しんどいわ。


明日に続く


↓続き


で、一発目の質問だ。


「本職に必要な資質とはなんだと思われますか?」

「はぁ」


ホエエ?埴輪、再び。あいべっきゅぱーどん?といってもいいでしょうか。

ちゃうちゃう。


「あの、募集要項で読ませていただいたのですが、色々書いてありましたのでどれがメインのお仕事なのかまだいまいちわかっておりませんで」


事実、つらつらと書かれた募集要項があまりに膨大だったので、結局薬局どんな仕事やねん?あって話した方が早いかもねんとのこのこ面接出てきたのよ。


「予算を立ててね、経費管理をして報告するのがメインの仕事なんです」

「あっ、あー」


なんだよっ、おいっ、ドンピシャじゃん。そうならもっとわかりやすく書きなよー。と思ったが、口には出さない。


「ご自身の持ってらっしゃるどのような経験が本職に活かせるとお思いですか?」


さっきのさっきまでその本職がどんなものかわかっておりませんでしたけど。財務やってて資金管理してました。もともと予算を組むのは好きです。収入をどう予測するか、それに対して経費をどう組んでいくか。覗いたことのない帳簿を想像しながら話をする。


次は、財務の仕事で大切にしなければならないことは何か。


自分が今まで仕事で大切にしてきたことを説明しました。


それは、下の人をチェックするのはもちろん、自分自身はもちろん自分で不正などしないとわかっているけれど、それを、第三者に示すような証憑を残し、帳簿をつけなければならない。帳簿は自分が不正をしていないということを第三者に示す記録でなければならない。自分が言葉で説明しなくとも、変な話、60年後とか100年後、私がいない場面でも私の潔白を証明するような記録を残すこと。

それが会計です。私が思うにね。


そして、私が信頼できる人間だからとかそういうことに関わらず第三者が定期的に会計帳簿を確認すべき。

お金というのはそういうふうに管理されるべきです。


自分が10年間真面目にやってきた仕事を説明する機会でした。

よく考えればこんなふうに思ってやってきたことを発表する機会なんて今まであんまりなかったよね。


「上司として必要な資質とはなんだと思いますか?」


また難しい質問が飛ぶ。はて?しばし考える。そして、頭の中を巡る過去のさまざまなこと。

管理職として苦労してきた記憶が蘇る。


「その規模によって違いますが、私は人は一人一人によって違うので、その一人一人をよく知ることから始めます。向こうも私を知らなければならないし、私も向こうを知らなければならない。信頼関係を結ぶのがまず第一に最も重要です」


わざわざ人に語ってきていないこと、でも、自分としては考えてきたことを説明した。思えばそんなことをわざわざ人に説明したことなんてなかったな。


すると、黙っていた面接官から質問が飛ぶ。


「10年間1人もやめない定着率に貢献とありますが、具体的にどんな方法で行ったんですか?」


私が履歴書に書いたこと。今の会社ではきっとすごいともなんとも思われていないことをわざわざ聞いてくれた。

10年、部下が辞めていない。

これは2階でうちの課だけだった。離職率ゼロ。厳密にいうと日本人は辞めてます。でもローカルは全員続いた。他の課は皆やめている。

普通ではないと誰にも気づかれなかった。私の能力だと認めた人なんて1人もいなかった。

それに初めて興味を持ってもらえた。


給料は上が決めることで私にはどうにもできない。それで、給料以外のことで皆が求めているものを与えるようにしたのだと説明した。

それは部下たち相互の人間関係を良くし、下の人間の間のコミュニケーションを向上させ、チームとしてのまとまりを与えたことです。それによって休みをとりやすい、何かあったらお互いに仕事を頼みやすい関係性を作り上げた。それに、お互いに教え合うことで経験とスキルを取得できる環境づくりです。給与はふんだんに与えられなくても、経験が手に入る。


「女の人同士って喧嘩し合うイメージが強いんだけど、そんなことできたの?」


うちの課も最初はぶつかり合っていた。そのぶつかり合う2人の間に一旦割って入り、一方的に不満を相手にぶつける子の話を延々と何度も聞き、だけど、あなた間違っているよねと言い聞かせた。言い聞かせるたびに逆上して突っかかってくるのをまた聞いた。何度も聞いて、でも聞いた後に通常の生活へ戻るよう突き放した。大切だったのは、時間を割いてまず一旦は主張を聞くことです。口を挟まず最初から否定せず聞きました。その後、少し本人が落ち着いた時に冷静に客観的な意見を伝える。


時間をかけて聞いてあげること。これが大切です。

結果はやっぱりNOなのだけど、聞いてもらったということが相手の心に残るんです。


最初は私が間に入って、だけど、私の背中を見ている部下が変わりました。私のやっていることを見ながら、その中で自分も使える方法を使ってコミュニケーションを取るようになった。最後には私が抜けても2人で直接交流ができるようになりました。


「さっきからお話を聞いていると間に立って仲介をする役割が多いようですね」

「もし、トップに立って下をまとめなければならない場合は、自分のできる限りで頑張りますが、私の本領はぶつかり合う人と人の間に立って調整弁になれるところだと思います」


会社には色々なタイプの人が必要。少し強引にパワーで引っ張っていくNo.1の心強い味方は、パワーで引っ張る、引っ張られるその間に立って無理が出ないように調節する私のような二番手の人間です。


争いごとが苦手で人とぶつかるのが苦手。相手がどんなにメチャクチャなことを主張してきても、怒らず聞いてしまう。

自分の弱さと思って生きてきた。だけれど、仕事の場面で逆上している人に同じように逆上して主観的なことを言うのが果たして解決か?

火に油を注ぐだけです。

私は主観を抑えて、感情的になっている相手の立場になって話を聞くことができる。

そこから冷静に相手と話すことができる。落とし所はずらしません。落とし所のジャッジは、個人の主観的な結論ではなく、会社のために何が正解か。主観にとらわれず一つの事象に対して多角的視点から熟考できるのも自分の強みです。


自分を売る言葉、それがやっと何十年もかけて自分の中から出てきた。

長かったです。自分には人に語れる長所なんてないと、面接というものが怖くてたまらなかった過去。

それこそ、それは、タワー・オブ・テラーのようなものでした。


最後に聞かれた。


「権限の強いポジションにつく覚悟はありますか?」

「……」


一旦なんと言おうかと黙って考えました。


「このまま同じ仕事を続けていれば楽をできる。でも、もっと頑張ろうと思って転職をしようと長い時間きちんと考えて決めました。新しい仕事を始めれば今よりも苦労をするのはわかっています。覚悟はできています」


楽をしながら生きていきたくない。頭を使わずに生きれば、ぼーっとした顔の人になる。生き方は顔に現れる。エステに行ったって、美しさは得られない。ブスになる。いい顔で私らしく生きていきたい。だから、できると信じて新しいことに挑戦するのです。


楽、という単語を面接で使ったからでしょう。あけっぴろげというかなんというか、飾らない答えですね。

面接官の人がぷっと笑っていた。それは好意的な笑いでした。


この面接に合格するかどうかはどうでもいいのです。

私よりも適任者がいたら合格しないでしょう。調節弁の二番手ではなくて、厳し目に管理する人がいたらそちらが適任。でも、この応募にそういう人が申し込んでくるかどうかは別の話で、そういう意味では私も悪くなかったと思います。

雇える人の中でできるだけ適任に近い人を雇ってなんとかやってくしかないですね。仕事というものは。


でも、合格するかどうかはどうでもいいのです。

私の価値をちゃんと自分の口で説明できた。


何度も言います。長かった。きちんと面と向かって自分を売り込むことができた。

文字の世界ではなく、現実の世界で。


そのことは私にとってとても大きなことでした。

それが、中にあるものを外に出して形にすることなのだと思う。

死ぬまでにちゃんと形にしたい。もっと考えていることを少しでも、外に出して成果を得たい。


この歳までただ考えるだけでそれをなかなか形にできずに年をとってきた。

一つでも多く形にして、そして、柩の中で、足をうんと伸ばしながら、いや、結構それなりに自分頑張ったよなと。

自分に満足しながら死にたいんです。それだけ。


自分の頭の中で考えていることを外に出して形にして、それによる成果を得る。

成果とは給与が上がるとかそういう単純なことではなくて、自分が世の中の役に立ったという実感です。

実感を得る。それこそが個人が世界と繋がるということなのではないでしょうか?


本の世界とではなく、現実の世界ときちんと繋がりたい。

それが、やはり人間の望みなのではないかな?私はそうです。


人生なんて流れ星が流れて消えるような、本当はそのくらい刹那な出来事なのではないですかね。

でも、来し方を振り返るときに感慨がある。ああ、色々あったなと。

それが人生の味わい。自分の人生にはまた他の人とは違う味わいがある。

味付けをするのは自分なのだと思います。


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― 新着の感想 ―
[一言] 汪海妹様 おはようございます! 「私の価値をちゃんと自分の口で説明できた。」 すごいですね<(_ _)>(*^-^*) 本当に、おめでとうございます! いつも たのしみにしておりま…
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