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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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置き土産のようなもの













   置き土産のようなもの

   2022.08.27













 昨年の夏に10年近く一緒に働いてきた部下の中国人の子が辞めてしまいました。何度も書いてきた話です。その後、新しい課長さんが入って、もちろんこの方も中国人なのですが、それから税務処理上に問題があると言われ、すったもんだしております。輸出入企業で、保税の加工貿易が主体の会社、財務と通関は密接に関わりがあり、その通関が長年取ってきた貿易上の処理方法が税務上に問題のある方法だったとわかった。


 金額スケールの大きい問題で、まだ税務署に発覚はしていないのだけれど、調整処理をして金額を縮めリスクを回避しなければならない。


 瓢箪から駒!


 ってどっちかっていうとワクワクした時に使う?


 もちろん全然ワクワクしておりませーん!


 やべと思って上司に報告する、もちろん……


 今まで何やっ取ったんじゃー!


 怒られる。


 すみません。私の目は節穴でした。


 堂々と開き直ってももちろん許されないのがサラリーマンの世界じゃ。


 いや、つくづく思ったよね。貿易を絡めた財税務はね、複雑じゃー。わしゃ専門やないねん。やっちゃあかんかったよね?気分としてはさ、泥棒さんがよく使う緑に渦巻き柄の風呂敷にせっせと自分のもの詰めて


 長い間大変お世話になりました。


 土下座っ、からの、ダッシュで逃走。ぴゅっ


 やりてー、やりてー、(実際転職活動してるわけだし)


 しかし、まだその時ではないので、本社の取締役に説明する経過資料なるものを今月中に作れだってさ。


 チッ


 で、今まで課長さんたちに任せきりにしてたし、わしゃ財務だし、通関なんか知るかーと心の中心で叫びつつ


「過去資料を見せてください」


その問題となった貿易処理が始まった頃の会議資料をもらう。今から6年くらい前の資料だ。その資料に、私の名前が会議参加者として堂々と載ってるではないか。


 ふっ


知らぬ存ぜぬで通せねえ。背中がヒヤッとなったぜ。保身を思ふ。ま、そのうちいなくなるからいいけどさ。ああ、でも、こんなことあったから逃げてやめたと思われると嫌んなるぜ。


事実はこうだ。

わしゃ、財務経理だが、こんな具体的な通関や税務処理はぜーんぶ下の人たちがやっててさ、問題があれば下から上へ相談してくるけど、なければスルーだ。スルー。


あ、飾りだ。飾りだと思われる。(財務なんてやるんじゃなかったなと後悔。或いは死ぬ気で勉強すればよかった)

人間のサラリーマンとしての保身の心理の嵐にしばし浸る。

ちなみに飾りというのは飾りの管理職って意味ね。


そして、開き直る。

そう、私は結構開いた人間だ。あの、生きた魚の内臓を綺麗に取ってパカッと開かれた挙句海辺に干される干物の魚のように美しく開いた人間なんだっ!(ある意味もうやけくそ)


コーヒーを淹れにたって、カフェインを吸収しつつぼんやり思ふ。

それにしても何であの優秀な部下、去年辞めた部下ね。彼女は税務上問題が起きてますと訴えてこなかったのかなと。

私は自分の保身も大事だけど、上で言うようにサンマの開きのように開いた人間だから、会社にとって必要なことならちゃんと上に上げたのに。


長年通関がとっていた貿易処理は、輸出入税務処理の裏技のような方法。

日本的感覚から言えば、正しい方法ではない。

でもね、日本の感覚と中国の感覚は違う。


気づかないなんてことはもちろんなかった。部下がね。でも、この長い間、うちの会社は税務上のランクは常にAで、頻繁に賞を受けているくらいなんです。税務上は優秀企業でした。全く問題になっていない。


そして、何となくわかりました。


日本の感覚と中国の感覚が違う。

日本人はね、真面目すぎるんです。中国では真っ白である必要はない。原則があっていわば建前。でも裏技がある。

通関も財務も相談しながら裏技を使っていたのだなと。

でも、それを具体的にこれこれこうと日本人である私や更に上の人に説明してしまったら、日本人のこと馬鹿正直に原則に則ってやろうと言い出す。


本当はね、通関の子も財務の部下も、会社がコストをのむのなら、真面目すぎる方法をとったってよかったと思います。

問題なのは、日本人は必ず言う。なぜ最初から真面目な方法を取らなかったのかと。


中国をよく知る私から言います。


中国で馬鹿正直に真面目な方法をとる人は、馬鹿です。

臨機応変に時代の流れを見て動きを変える中国人にとって、日本人のそういう動き方は……


馬鹿なんです。


チーン


でも、上のようなことをわかってくれる日本人は少ない。


ところが、ここでまた重要なのは、臨機応変に時代の流れを見て というところで、中国、深圳、この十年の間に劇的に変化しています。平たく言えば、昔はできた裏技がだんだん危なくなってきているんですね。


そこで困っちゃったんだろうな。

部下のことを思う。


中国人の老板(社長)だったら簡単です。


老板、もうこの方法は使えないや。

仕方ないな


これで終わりだ。でも、日本人はそうはいかない。


ダメだってわかっててどうしてその方法でやったの?


必ずここに行く。


新しく入った財務課長の子は中国人ではありますが、前職は日系会社でしかもかなりきっちりと真面目に財税務をしていた会社。いわば馬鹿真面目な会社だった。ただね、これは馬鹿ではない。なぜかというと、うちより大きい会社なんです。


税務問題は、大きい会社ほど深刻。税務署の監査もうちなんかよりもっと厳しい。以前から厳しい。経営状況が違う。

だから、この新人課長さんは仕事の仕方は日本人なんだよ。


ここまで考えたところで、通関の課長さんを呼んだ。


「ちょっといい?」


コソコソと密室へ


「あのね、昔っからこの方法とっててさ、もちろん○○さん(以前の部下)は知ってたよね。だけど問題にならなかったのは、処理できる方法があったからだよね」


そこで、通関の課長さんの警戒が解けました。他の会社だってみんなやってる方法です。別に大騒ぎするようなことじゃない。


「ずっとやってきた方法です。正しい方法です。なんで財務が急にそれを正しくないと言うのですか?」


うんうんと聞きながら、考える。


でもね、正しい方法ではありません。


そして、以前の部下のことを考える。

彼女は頭のいい子です。そして、うちの会社は新人課長さんが所属していたような大きな規模の会社ではない。でも小さな規模の会社でもない。中国は時代と共に変化している。昔であれば税務の原則はあっても管理はそこまで厳格ではなくわたしたちクラスの会社は徹底しなくても大丈夫だった。今はダメです。


だけど、通関の子は視野が狭く、彼女の判断は通関上のリスクがなければ税務上はどうでもいい。協力の姿勢に欠ける人。部下もどうしようもなく、だから彼女の裁量で税務上の問題が発覚しない裏技を駆使してたのだなと。


時代と共に方法を変えれなかったのは、方法を変えようとするときに立ちはだかる今まで大丈夫だったのにどうして?と立ちはだかる勢力ですね。方法を変えようとするときに何で最初っから正しい方法を使わなかったんだと問題になることを恐れる保身の気持ちも強い。


みんな、サンマの開きになれるわけじゃないからな。

でも、それで、会社の安全のために舵を切り直すのが遅れてはならない。


そして、ピンときた。

あの子、きっと、もうやめるから、この機会に悪習をやめさせろとしたな。


彼女がやめるのと同時期に突然会計顧問の会計士の先生が、レポートにこの通関上の問題があると書いた。


彼女は通関の子が頑固で財務のために協力してくれなくても、裏技を駆使することができる人でした。通関の子はね、協力してました、彼女ならできた的なことを言ってました。でも、私は知ってる。


二人はね、仲が悪かったんです。以前の部下が何度も彼女について悪くいうのを聞いている。それは、自分の都合を優先してその結果の大変な部分を私たちに押し付けていたからなんだなと。自分が辞めたら新人の子には彼女がやってたような裏技は駆使できない。


こんな形の問題が起こることを彼女はきっと予測してたと思います。

だからね、会計士の先生と相談してレポートに書いたのだと思うよ。いわばあのレポートを始まりにしたあの子の私への置き土産。


昔はね、昔の方法があったって私はわかってるから。だからできるだけ過去が問題にならないように報告して、今後どうするかを決めていきましょう、そう言って終わらす。


通関の子もね、普通の子です。悪い子ではないよ。だけど、大きな判断を任せてはならなかったんだよね。

会社は通関の子の話も財務のこの話もきちんと聞いた上で、会社としての判断をしなければならなかった。

任せっぱなしにして、通関は通関で単独で動き、財務は財務で単独で動きどうにかしてた。

最初は管理がそこまで厳しくなかったからどうにかなっていたが、ここ数年はニッチもサッチもいかなくなってたんだな。


やれやれ


置き土産はちゃんと大切に処理しなければね。

報告書の筋道を掴んだ。やるしかありませんね。最後の仕事です。


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