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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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愛国心












   愛国心

   2022.05.18












 昨日、夢という題で、この深圳在住の海外で暮らす日本人のエッセイ集を作りたいと語っていたのですが、それを書いてそして夜になり、書きかけの小説を書こうとノートやIPADを開いたまま寝てしまいぐっすりと寝て起きたら、心の奥の方にあったそのエッセイ集のテーマが浮かびました。これは忘れられないうちに書かなければと鳥は鳴くけれどまだ暗い未明の時間に起き出した。


 海外を暮らす日本人を筆頭に私たちが向き合わなければならない感情、それはまず間違えなく愛国心だろうと思う。


 こう書いた途端にこれを読まれている方で眉を顰める方がたくさんいると思うんです。

 この言葉を目にしたときに、世界の上にあるさまざまな国のさまざまな人たちがすべて眉を顰めるわけではない。日本人がこの言葉に眉を顰めるには訳がある。もう少し踏み込んで言えば歴史があるんです。


 私の手の上には海外線という手相があって、海外に縁があった。日本に落ち着いていてはいけないという強迫観念がなぜかあって、落ち着いた就職もせずに若い頃から苦労して長い時間を日本ではない外国で過ごしてきました。長い長い間、外から日本を眺めるという立場に自分を置いて、だからこそ見えてきたものがあります。


 その中の一つがこの、愛国心。


 愛国心という言葉に複雑な感情を覚えてしまうようになったこの歴史について、それは、加害者としての歴史なのですが、向き合って意見を言うことができる人は、おそらくほとんどいないと思うんです。私もそのうちの1人です。


 日本人が日本ではなくて海外に出て暮らす時、面と向かって問われることがある。

 あなたは日本の戦争責任についてどう考えるのかと。

 私は日本語教師として授業をしているときに、生徒に面と向かって問われた。中国人の女性にです。


「先生、どうして日本人は戦争が好きなのですか?」


その時クラスには30人弱の学生がいて、その1人の子の発言に残りの人は困ってしまいました。誤解しないでほしいのですが、中国人の中で反日感情を持っている人というのは一部のみなのです。私は生徒に人気のある教師でしたし、みんなは日系企業で働いていて、日本語を勉強する親日的な中国人でした。1人だけ変わった子が混じってた。


「日本人は戦争が好きではありません」


それしか答えられなかった。


この場面以外でも、主人のごくごく仲の良い大学時代の友人に日本はなぜあんな戦争をしたのかと問われたこともあった。これは、私に対する反感では全くなく、ただ、知識人としての意見を求められたのです。直接日本人があの歴史をどう捉えているのか聞きたかった。

その時は、戦争をするしないというのは国の上の方の人が決めていることで、日本人の下の方の人というのも被害者だったのだと答えたと記憶しています。


そして、現代に至り、今、ウクライナとロシアの戦争のニュースを見ながら思うのです。

私たちはかつて、ロシアだったのではないですかと。


こんなことを言えば、たくさんの人の反論を浴びるでしょう。別に私の結論がそこにあるわけではないのです。

私のこんな発言をする目的というのはですね、もし、こんな問いかけをすれば皆必死になって日本の戦争責任について反論のために考えるだろうと思うからです。問われなければ考えないでしょう。今更。


だけど、世界は忘れていないのです。例えば中国は。

私は聞かれてきちんと答えられなかった。


今の日本にもしかしたら日本とロシアは同じだったのかもしれないという視点で考えられる日本人が何人いるだろう。

もちろん違うと思うのです。では、どこがどう違うというのか。

答えられない。それは、生まれてから今まで日本の戦争についてきちんと学んでいないから、そして、自らの愛国心について真剣に考えたことがないからです。


被害者である国の、韓国や中国の人たちは、学校で戦争について学ぶ。

加害者である国の我々は学校では本当に簡単なことしか学んでいません。


戦争責任をめぐって国と国が争うとき、その見解には大きなずれがあり、そのニュースを見ても私はどっちが悪いのかさっぱりわからない。

そして、個人として海外に出ると、個人として問われる。

なぜ戦争をしたのかと。


海外旅行をする日本人が増えて、若い日本人の中には上記のようなことをきっかけに自国に対する自尊心を傷つけてしまう子もいるのですね。簡単に言えば日本は悪い国だと。


そんなことではないのです。これは。

自分の国を憎むことはできない。


例えばね、某国のように日の丸の旗をパタパタと両手に持って、自衛隊の戦車や飛行機が飛び回るところを見ながら皆がニコニコするなんてことを今の日本人はしません。だけど、そんな表し方をしなくても、愛国心というような漢字を使った言葉を我々ができるだけ避けていても、でも、国を愛する心というのは、自然に心の中にあると思います。


それは、自分の親、親のまた親、祖先を愛する先にある我々人間の自然な感情ではないですか。

それが本来の愛国心。傷つけられても、失ってもならないとても大切な感情だと思うんです。


私はむしろ戦争というきな臭いものの横で自らの正当性を主張するためにこれと向き合いたいのではないのです。

平和な未来のためには脆弱な思考ではならないと。正々堂々と加害者として非難された時に対する回答を日本人として持っていなくてはならないと思うからです。なぜならばこの戦争という出来事が、大切な愛国心という感情を傷つけてしまったから。

日本は悪い国なのかもしれないなどという疑念を若くて純粋な子が覚える必要もない。


出る杭を打つ文化である自国に反感を覚えて、まるでお母さんに背いて家出をするような状態で海外をほっつき歩いていた若い頃の自分。


あれは確かローマだった。

ソニーの看板と出会ったんです。


こんなところでソニー


あの時湧きあがった感情。それは日本に対する誇りだった。プライド。

それからも何度もさまざまな国で、さまざまな場面で、日本人として誇りを覚える場面があった。

時代は難しい側面を迎えていて、日本にもかつての勢いがありません。そこで男性を中心としたみなさまは苛々とされている方が多いように見受けられるのですが、私は女性なのでそういうわけでもなくて、ただ物質的なものに偏って日本をああだこうだと語る時でもないのだろうと。

国の価値をただただGDPで語るには無理があるのだと思うのです。ナンバーワンになれるのは一か国だけで、その発想が、ラブアンドピースに向かっているのかと問いたい。物質的なものだけで国なんて大きな物の価値を測り、競争に拍車をかけるのですかと。


私たちが子供に託すのはそんな薄っぺらいものではなくて、これからを生き抜く価値観でなくてはならない。

そこで避けて通れないのが上記のようなことについて考えることではないかと。


そして、再び、この愛国心という言葉について思います。

この言葉は、この感情はそもそもそれ自体は自然なものだと思うのです。

だけど、政治に利用されやすい言葉でもあるのかもしれませんね。

だから、日本人だけではなくてあるいは他のいろいろな国のさまざまな人の中にこの言葉に違和感を覚える人もいるかもしれない。


私の思う愛国心とはGDPとはむしろ遠いところにあるのです。


私の書く作品はどちらかといえば金銭的な価値に否定的ですし、政治的な匂いはありません。それでもここに自分が国に対する思いを込めているとしたら、それは、私が日本人として生まれて育ち、日本文化の一部を否定しながらも、美しいと感じてきた日本人の在り方です。日本人としての感じ方、考え方、生き方。

現代ではとるにたらない忘れられがちなそういう目には見えないものを、言葉で書き留めることができないかと。

愛する日本に対する批判を少しこめながらも、大部分は、母なる自分の国への愛を込めて書いています。


それは、私の場合、お金ではないのです。

お金がなくては生きていけないから、お金を否定しているわけではない。

だけど、あまりにその価値観に一辺倒になるあまり見過ごしてしまう何かたち。

その何かたちに自分はフォーカスしたいときっと思っているのだと思います。


大切なのは、現代を生き抜くために必要な価値観の構築なのだと思います。


コロナにより帰ることのできない中国から

汪海妹


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