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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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息子に悪かったと思ってること

 生まれてから幼稚園の年中さんまで、息子は日本語があまり話せませんでした。主人の両親と主人と私と息子の5人家族。自分だけが家族の中で日本人の気がしてそれがとても嫌でした。一生懸命日本語で話しかける。私が言っていることはわかるのに、返事はほとんど中国語。


 いつだったろう?


「なんであんたは中国語しか話せないの?」


と怒ってしまったことがあるのです。その後その時言える数少ない日本語の中から、


「くるま、くるま、くるま」


と言いながら泣いてしまった。あの顔を息子が大きくなった今でも忘れることができません。


 男の子だから車が好きで、だから車は日本語で言えた。


 このままだとこの子、中国語しか話せない子になるな。そのことが本当に辛くてたまりませんでした。


「日本語と中国語、どっちも話せた方が有利だから」


 そんな理由で日本人学校へ行かせたいと主人に言った。主人は同意してくれました。日本人学校に入るには日本語が話せなければならない。実家にお願いして、5歳の息子を3ヶ月預かってもらった。初めてこんなに長い間、離れ離れになりました。行き来してたとはいえ、息子にとっては家族ではない私の実家、日本語がほとんどわからない子を一人置いて中国に戻ってきた。


 幼稚園では周りの子達も初めて中国という外国を身近に感じて面白かったようで、人気者だったよう。3ヶ月経って迎えに行くと、別人でした。日本語がペラペラになっていた。息子と日本語で話せるようになったあの喜び。心と心が近くなった気がした。


「なんか、やだだよねー」

「やだだよね」


 ペラペラになっても不思議と外国人みたいな間違いをする。直せばいいのに可愛くて真似してた時期もありました。


 小学校に上がってからは、他の子に追いつかない。文を書かせると、長音や濁音が聞き取れず、表記できないのです。そして、一年生の時は先生の言っていることが一部聞き取れなかった。授業中に自分だけ日本語がわからないで泣き出してしまったことが何度かあったと聞きました。


 私は、子供の頃からバイリンガルに憧れてました。外国語や外国の文化にも興味があった。そんなバックグラウンドもあって国際結婚した。子供は簡単にバイリンガルになるんだと思ってました。でも、実際は、自分にはなかったような語学上の混乱を生まれてからすぐに与えた。日本語が話せないと言って泣かせた。まだ小さい子を日本に置き去りにした。そして、小学校では最初、日本語ができないために落ちこぼれになった。


 そんな簡単にバイリンガルになんてならない。自分がしなかった苦労を息子にさせてしまいました。


 一昨日家族で近所の海鮮料理屋にご飯を食べに行った。壁に上からつらつらと中国語が書いてある。


「あれ、なんて書いてある?」


 漢字は学校で習ってる。でも、それは日本の漢字。中国のとはちょっと違う。それにもちろん読み方が違う。

 ところが、息子は上からすらすらと全部読みました。


「え?なんで読めんの?」

快手クアイショウだよ」


 毎日のように見てる中国版ユーチューブのようなもの。


 小学校1年生の時、授業中に泣いたりすることのあった息子も今は4年生。クラスで1番中国語ができる。何か中国語で困ったことがあればみんな息子に頼んで通訳してもらう。高校生の姪っ子は息子を尊敬すると言っている。その姿を見ながら、私はまた思い出しているのです。くるまと言いながら泣き出してしまった息子のことを。きっと一生忘れない。かわいそうなことをしてしまったというあの瞬間の想いは、きっと一生忘れないと思います。

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