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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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清水寺、瑞求堂、胎内めぐり













清水寺、瑞求堂、胎内めぐり













京都に行った時、息子と一緒に清水寺の瑞求堂で胎内めぐりをした。大瑞求菩薩の安置されているお堂の地下一階におりてぐるっとめぐって地上に戻ってくるコースだ。お堂の地下を菩薩の胎内とみなして、菩薩様の胎内をめぐり生まれ変わるショートトリップ。


これが、一言で言えば、とにかく暗い。真っ暗な中を手すりだけを頼りに前へ進むのだ。


怖かった!


こんなに暗い中を進んだことがなかったので、とにかく怖かった。それが、まだこの世界を知らない母の胎内にいた時の、あるようなないような記憶とどっかで繋がったような気がする。


大事な息子が後ろからついてきているのだが、それももちろん全然見えず、視覚を奪われた状態で、ジリジリと前へ進む。まさに、産道を進む胎児の気分である。これはもう幼い子は無理だろうなと思う。上の注意書きでは、小さい子供は親と一緒にと書かれていたが、親がいたってこの暗闇に落とされたら、子供はパニックになって泣き叫ぶだろう。


そのくらい右も左も前も後ろも全く見えない闇だった。この道がどう続くのかもわからない。


中に入る前に担当のお坊様に 間違っても手すりを離すな と言われた。手すりを離せばどこへ行ってしまうかわからない妄想が浮かんだ。手すりにつかまっているかどうかが、正気と狂気の境目のような気がしてくる。確かに、正気と狂気というのは、そういう紙一重のところにある気がする。


道は時々曲がる。曲がった先がどこまでまっすぐあるのかもわからない。手すりだけが頼りでそろそろと進む。何度か曲がって前へ進んだところで、石が見える。そこだけほんのりと明るいのだ。


手すりから手は離さず、片手でその石を撫でてお願い事をしなさいと言われてた。お坊さんの言葉の通りにお願い事をした。


後ろには息子がいて、私には家族がいて、でも、お願い事は息子や家族のことではなくて、自分のことにした。


子供が産まれると、第二の人生に入ったような気がしたものだ。いつも子供優先で、自分の欲しいものやしたいことは後回しになる。でも、子供は大きくなってきたら親から離れる。


子供が離れた後に、自分に何が残る?


子供が生まれたばかりの頃は、自分が脇役になったような気がして、それにいくばくかの反発があるものだが、親はある時を境に変わることがある。


子供の小さな背に、自分の夢を載せてしまう。


自分自身として頑張らなくて良くなれば楽である。そのくらい自分自身とか、自分の夢と真正面から向き合うのはしんどい。


子供は、使用前、大人は、使用後。使用後の大人からみて、子供はキラキラしているし、頑張れば何にでもなれるように見えるものだ。でも、自分がかつて子供の時、未来がわからなくて怖くてたまらなくて、そして、頑張ったけど何かになれただろうか?自分が頑張ってもできなかったことを、どうして大人は時々、子供に期待してしまうのか。


だから、子供が大きくなってきたらもう一度、畳んでしまっていた自分の翼を広げて、自分で飛ぼうとするべきだ。その飛ぶ姿はみっともないかもしれないが、飛べずに落ちるかもしれないが、それでもいいじゃないかと思う。


我が子を愛しているのなら、親がするべきなのはその小さな肩に自分の夢までのっけることではなくて、飛ぼうとする背中を見せてあげることだと思う。


だから、自分のお願いをした。


おっかなかったなぁと思いながら、地上の光と再開し、明るいところで我が子を待つ。出てこないぞ、我が子!


また暗闇に戻って探すべきだろうかとドギマギしながら待ってると、やれやれと若者が出てきた。ちなみに主人は、怖かったのか、或は、時間と金の無駄だと思ったのか、胎内めぐりはしなかった。


「怖かったねぇ」

「なんか頭をぶっけないか心配で速く歩けなかった」

「ハァ」


私より背が高くなった。その顔を見上げる。これはどこまで伸びるだろうか。


「面白かったよー。やればよかったのに」


主人を見つけて走り寄る。さっき泣いたカラスがもう笑う。ただいま、明るくて美しい光り輝く世界よ。その美しさは闇を知ればなお輝くものである。


2025.08.28

汪海妹



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