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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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故郷は遠くにありて思うもの













故郷は遠くにありて思うもの










息子の高校見学があり、その日程に合わせて帰国することになった際、主人や息子がいったことのない関西へ行くことにした。大阪万博へ行ったことはもう書いた。翌日は京都へ行った。


私は東北で育ったが、両親は関西の出身で、親戚も皆関西にいる。だから、関西には親しみがありました。ところが、本当に久しぶりに関西空港から大阪に入った時に、これは違和感というのかな。


あれ、大阪ってこんなところだったっけ?と思ったのです。


がっかりしたわけではない。ただ、快も不快もない違和感です。その違和感をもう少し詳しく書いてみると、大阪の人って、関西の人ってもっと賑やかに話す気がしていた。子供の頃から東北を出て東京を通り過ぎ、関西に着くとみんながとても賑やかに話してる。その、関西弁に切り替わる、あの音のチャンネルのようなものを、不思議だなと思いながら耳に楽しんでた。


ところがその大阪の人たちが、すごくおとなしく感じたのです。それこそ、東京の人と同じぐらいおとなしく感じた。


私のイメージの中の賑やかな関西人に会うために、自分はどこか目指さなければならなかったのかもしれませんが、別に旅の目的に賑やかな関西人に会う、というものはありませんのでほっておきました。


それから、ちょっと考えたのですが、子供の頃の自分は東北に住んでいて、とても物静かな毎日を送ってたと思うんです。東京は通り過ぎるところで、それから大阪や奈良や京都を訪れてた。日本国内で比べていたら、間違いなく大阪は賑やかだったんだと思う。


しかし、現在、中国人に囲まれて生活をしていると、中国はとにかく人も物もうるさいので、静かな時間なんて基本ないんです。結論から言うと、中国人と比べると関西人は全然静かです。


(ここで、普段お世話になっている中国の皆様のために弁護をしよう。もちろんおとなしい人もいます。しかし、賑やかな人の割合は多いと思うし、人ではなくて街がうるさい)


賑やかなのと物静かなのとどっちがいいと言うつもりはないのだけど、私の中では賑やかだと思っていた関西人の人たちをおとなしいなと感じてしまった時に、自分がすごく日本人じゃなくなっちゃったなとしみじみ思った。


外国人が日本人を見るような感覚で、日本人って物静かだなと思ってしまった。


そんなことがあった上で、京都へゆく。


田舎者である自分は、東京が怖かった。東京が怖かった気持ちは、東京に住み、緩和された。ところが、京都も怖い。京都に対する怖さと憧れというのは、家康が江戸に幕府を開いてからの年数と、平安京ができてからの年数でいえば、後者が長いのであるからして、恐怖の闇は京都に対しての方が深い。


我が親戚は関西出身だが、京都ではない。中途半端に関西の知識や経験もある物だから、敷居が高いのだ。そんな中、中国人である主人を連れて歩くと、見事に3人とも中国人に間違えられた。


「英語メニュー、どうぞ」

「日本語で大丈夫です」

「あっ!」


怒るのではなく、悲しいとか寂しいとかではなく、でも、ひしひしと、自分日本人じゃなくなっちゃったなと思う。京都の人が妙に怖い。嫌われそうな気がする。


そんな中、修学旅行コースの大定番である清水寺へゆきました。しゃりしゃりと玉砂利を踏み締めゆく。清水寺にあと少しで着くところに何店舗か屋台が出ていた。美味しそうな牛串があった。いい匂いだなと思いながら横を通っていた。


「いかがですか〜」


おじさんが道ゆく人に声をかけていた。目の前を歩いていた中国人一家の就学前ぐらいだろうか?その子供は、返事の代わりになんと玉砂利を蹴ってその屋台に当てたのである。


どんどんと屋台に石が当たる。石を当てられたおじさんは文句も言わず、黙々と牛肉を焼いている。暑い中牛肉を焼いて、売り声をあげて、クソガキに石当てられる。しかも、親はそんな子供を見ていても、注意をしない。清水寺の前でですよ。


地獄に落ちろ!


と例によって例のごとく心の中で叫んだ。その時に、中国にいながらニュースで何度も見ていたオーバーツーリズムについて、実感したのです。私は中国人を家族にもち、ネット上やテレビの中で語られる、中国人はで始まる批判の波に、どちらかといえば中国人よりで感じてたんです。毛嫌いしているから、大袈裟に言われているのではと思ってたのかもしれない。


しかし、目の前のクソガキを見て、目が覚めました。本当に大変ですね。


流石に石を蹴って当てるほどの馬鹿者は限られていると思うけど、中国人は日本人ほど周囲に気を配って行動するようには教えられてきていない。


でもね、それでは、自分の国を出て旅をする意味ってなんでしょう?


中国の国内では許されるからといって、海外に出てもその国の当たり前に従わないというのでは、本当に得るべき体験をせずに帰るような物ではないですか。親はお金を持っているのでしょうが、そのお金を使って子供を連れて海外に来て、子供に何を見せたいのでしょう?


郷にいっては郷に従え、という言葉の浮かぶ出来事でした。


ただ、日本人と中国人の間に立ってものを言いたいのですが、一部の人がマナーが悪いと、全員マナーが悪いというレッテルを貼られてしまう。これは日本人だって中国人だって、他の国の人だって同じなので、そういうステレオタイプに基づいて攻撃的な発言はしないでほしいなぁと思う。どの国にもいい人もいれば、悪い人がいるので。


そして、自分はニュースやネット上の書き込みを見て、なんとなく日本人はみんな中国人が嫌いなんだと思ってました。つまりは、久しぶりの関西で、以前にまして京都の人が怖いと思ってしまったのは、京都の人はきっと中国人を嫌いだろうという被害妄想にかかっていたのもあるかもしれない。


ただ、実際は、嫌なことをされても我慢して、そして、片言の英語で親切に頑張ってる方々が目立った。


あたしも、ニュースやネットの情報に踊らされていたのかもなと、しみじみ思う。


ゴミを捨てられて困って、列に並ばないのに困って、人が多く来すぎて困って、でも、わかってほしいとか、また来てほしいと思ってる人ばかりでした。


情報はいつも、一番ひどいところばかりピックアップするものだから、言葉や取り上げる部分を間違えると、本来そこまでなかった 敵対心 のようなものを生み出してしまうのかもしれませんね。


清水寺で青い空を背景にたっぷりと、男子2人(旦那と息子)が写真を撮る。たいして写真の上手くない私は2人の写真に期待しつつ、あまりの暑さに茶屋に入ってかき氷を食べる。


「お母さん、何にするの?」「当店一番人気のこれだ」


宇治抹茶に小豆と練乳がかかってる。小豆嫌いの息子はいちごミルクを食べる。実を言うと自分は、あまり期待せずに宇治抹茶を注文した。抹茶があまり好きでないのだ。理由は、抹茶ブームで様々なお菓子を食べることが増えたが、不味いものが多いからだ。自分からは抹茶を買わなくなった。


だから、久々の抹茶だった。


ところがである!!


「おーーーー!」

「何?蚊に刺されたの?」


小豆の甘さと練乳の甘さを抹茶の爽やかな苦味が引き締めていて、暑い夏に疲れをとる。そうか、抹茶ブームにあやかって有象無象が商品を作りやがったが、彼奴等は、甘さと苦味のバランスをめちゃくちゃにしやがってよ、全く抹茶の良さを引き出してなかったよ。抹茶で作れば、売れると思いやがって。


「さすが、京都!」

「ね、ムヒない?」


食レポを書かずに、食べ物の写真は食べてから撮らなかったと気づく自分。しかし、感動を収めようと一口食った後の写真を撮る。本当にすみません。


「ね、ムヒないの?」

「スーツケースに入れっぱなしだ」

「ハァ?」


珍しく私より先に蚊に刺された我が子。


「それ、持ってきた意味あるの?」

「うるせー、あ、あたしも刺されたゾッ」


仲良く蚊に刺される母子の横で主人が得意げに言う。


「僕は刺されてない」

「お前の血はまずいんだよ」


抹茶と仲直りした。清水寺だった。憧れつつもどこか怖い京都。少しだけ近寄れたろうか。故郷は、遠くにありて思うもの。祖国からこんなに長い間離れて暮らして、これからもまだ海外暮らしは続く予定だが……。正直、こんなに遠く感じるようになるとは思ってなかった。


いつも日本を恋しく思いながら生きてきたけど、私は日本に帰ったら、中国を思い出すと思う。後少しで、日本で過ごした年数と中国で過ごした年数が並ぶのだ。


時の流れというのは本当に速いものである。瞬きをする合間に季節が巡ってく。


2025.08.26

汪海妹






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