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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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香港経由で大阪なう













香港経由で大阪なう














息子の志望校の見学に合わせて、主人と私と息子の3人で一時帰国中です。


そして、話は少し前に遡る。せっかく日本に帰るんだから、髪をカットしてから帰ろうと思った。暑いから久々に結構短くしようかなと思うと、


「今くらいの方がいいよ」

「そう?」


息子に言われた。旦那に言われても聞かないが、息子の言うことは素直に聞く。土曜日に髪を切り、日曜日は新しい服を買いに行く。


「おいで」

「えー」

「高校になったら自分で服買わないといけないでしょ?」


息子は渋々ついてきた。


「この三つの中から欲しいの二つ選んで」


着たくない色で消去法で決める我が子。黒と薄いカーキ色。カーキの上は淡い黄色がいいなと思ったが、そのTシャツはSがない。背の高くなった我が子には、大人ものを買うのだが、何せ細いのでSでなくてはならない。仕方ないので緑を勧める。黒の上は濃いグレイにキュートな骸骨の絵。


ソフト反抗期な彼には、モノホンのグロツキな髑髏よりも、キュートな骸骨がお似合いだ。


はっ!結局、母が決めてるやんけ!これでは、男としての価値があがらんぞ!


ま、いっか!(結局、甘やかして喜んでいるのだ)


「お父さんの選ぶ」

「え、あんたが選ぶの?」

「うん」


それから二人で主人の服を選ぶ。もともと、一緒についてこいと言ったのだが、自分の着る服は自分で選ぶと言ってついてこなかった。日本の高度経済成長期に育った自分と、安徽の田舎でまっぱで川で泳ぎながら育った主人は、美的感覚に火星人と木星人ぐらいの隔たりがある。かわい❤︎とか、カッケー♡と思って買って帰った服がお蔵に入ったことが何度あるか。


でも、伴侶には、家族なのだから、たまには自分の好みの服を着て一緒に歩いて欲しい。見ていて気分がいいというのもあるが、家族なんだなという気分があがるのだ。相手を自分色に少し染めるということなのかもしれない。


しかし、何度プレゼントしても喜んでもらえた経験がほとんどなくて、いつの間にか買うのをやめてしまった。ただ、今回、息子が見学に行く高校は私の母校で、高校時代の恩師に会う予定なのだ。主人と息子を紹介するときは、私のいいなと思う服を着ていて欲しい。ささやかな欲望である。


恋人同士の時は、わかっているようでわかってなかった。私たちがお互いとても違う人間なんだってこと。その隔たり、距離。結婚して思い知った距離。何度も段階を得ながら、思い知った距離。


分かり合えるとか、近づけると思えなかったその距離はそれなりに私にとって悲劇だったんです。


現代、買い物をしている息子と私の元へとカメラは戻る。


「これがいいと思うんだけど、お父さん嫌いかもなぁ」

「聞いてみればいいじゃん」


息子が旦那をウェイシンで呼び出す。息子の携帯が呼び出し音を鳴らすその横で、私が勝手に引いていた、旦那と私の間の川のようなもの、それを息子が軽々と越えた気がした。


「なに?」

「これとこれ、どっちが好き?」

「見ただけじゃよくわかんない」


息子が試着してその写真をくれと主人が言う。


「わかった」


素直にそういうと、息子は本当に、私が選んだ三着を持って試着室に消えた。律儀に一枚ずつ着ては写真を撮り、主人に送ったのです。


「これがかっこいい。これ着て欲しい」


結局、旦那の返事は待たずに、私と息子が旦那に着て欲しい服を選んで買った。


「ただいまぁ」


家に帰って服を見せる。


「あ!これは新疆の人みたい」


襟のないストライプのシャツを見て、また主人が苦言を言う。また、ダメか、また喜んで着てもらえないか。がっかりしながら見ていたら、旦那は買ってきたばかりの服を着て機嫌良さそうにしている。


「日本に行く時、着るように買ったんだよ」

「わかってるよ」


結局は、こうなんですよ。息子から勧められたことが、嬉しかった。それに素直に喜んでたんです。妻は夫が何を言っても自分の好きな髪型にしかしないが、息子の言うことなら聞いて髪を伸ばし、夫は妻が何を買っても喜ばないのに、息子が選んでくれたものなら喜んで着る。


夫婦って変なもんだな。憎み合ってるわけじゃないのだけど、妙な対抗意識があって、相手に屈してなるものかと思ってる。でも、子供の言うことなら素直に聞くんだ。


子はかすがい。これにつきる。


恋愛と結婚のギャップに大いに落ち込んでいた時、まだ小さかった息子は『かすがい』という彼の役割を本能的に演じ始めた。幼い頃から始めたそれはあまりに板についていて、本人は多分気づいていない。無意識にやってるのだと思う。


中学の男の子は、お母さんと一緒に買い物に行くのすら嫌がることもあるだろう。一緒に買い物するだけじゃなくて、父親の服を選ぶのを手伝うのは、結構優しい方だと思う。うちの子はきっとそれに気づいていない。


つまりは、自分が優しいと気づいていない。


うちの主人と息子は、こういう関係なんです。愛し合ってるけど、気が合ってるわけじゃない。射手座の主人の得意なこととか、目標にすることとか、いろんなこと、牡牛座の息子の大切にすることとか、苦手なことや嫌うこととか、いろんなことがずれてる。だから、気は合わない。でも親子。


それに対して蟹座の私と牡牛座の息子は気質が合う。愛し合ってるし、気も合うのだ。


こういうことは実は、親子の間では起こりがちなことだと思う。愛してるからわかり合いたいけど、気質の違う主人の言うことは息子にうまく届かないことがある。橋渡しはいつも私。


思春期になれば、息子が何を考えているのか掴みにくくなるし、そういう有象無象が主人の中でモヤモヤと積まれていたかもしれない。そんな何かが、息子から送られた3枚の写真を見るうちに、霧が晴れるように晴れたのかもしれない。


こんな形のラブコールもある。


お金は大事だけど、なくては生きていけないし、不幸なわけだけど、だけど、心に染みるものというのは、決してお金で買えるものばかりでもない。私も主人も、そういう価値を感じることができる人間だ。


だから、主人のためにせっせと試着室から息子が送ってくれた写真は、私たちにとって宝物なのだ。


子供を育てる時、実は、一生懸命育てても、心に悪の種のようなものを植えてしまったらどうしようと不安になっていたこともある。善良な人間を育てる確固たる何かなんて、ないような気がしてたからだ。あるいは、親の前ではまともに見える子供が、隠れたところでも善良であるとは限らない。


育児に絶対なんてない。その意見は今も変わらないのだが、ただ、感覚は変わった。絶対に大丈夫なんてものはこの世にないけれど、ただ、うちの子がたまに見せる何かに、私たちは確かに癒されてきました。


うちの子は善良な子だと、そりゃもちろん信じて育ててきていますが、絶対に善良だとかなんとか闇雲に信じているわけじゃない。心はいつだって形を変えるものだから、だから、安心などせずにいつも見つめているわけです。


そんな時、親の予想を越えるような形で、我が子から優しさを受けると、子供が思っている以上に親はじんとくるものだ。生きていて良かったと思える。


子はかすがいである。私たち夫婦は二人とも、うちの子に随分、そうだな、もらってきたのだと思う。もらってきたし、もらっている。


「それ、洗わないでいいの?」

「大丈夫」


息子が選んだその服は、日本で着るのだからまず洗濯をしないといけないのに、主人はずっと脱がずに着ていた。


親子でも価値観が違い、分かり合えないこともある。ただ、分かり合えないからと言って、愛し合えないわけじゃない。私たちは家族なんだから、それぞれがちょっとずつ違っていたって別に大丈夫なのである。


なんだかいつもにましてまとまりませんが、本日は体力の限界。これにして失礼致します。明日は、万博へゆきます。^^


汪海妹

2025.08.19


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