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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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女はだめだ、女はだめだ













女はだめだ、女はだめだ












最初のお断りがき。ギョッとするようなタイトルですが、別に女の人を下げる内容ではありません。


↓こっから本編です。


これは、母の口癖なのだ。


男、女、女の三人兄弟で、真ん中だった母。兄弟は3人とも勉強がよくできたそうだが、親の関心は長男にだけゆき、下の2人は優秀なのにも関わらず、ほとんどほったらかされたのだとか。


そんなバックグラウンドがあったからだろうか、母は落ち込むとよく 女はだめだ、女はだめだと繰り返したのである。


本当にだめなわけではないのだけれど、環境によってそう思わされてしまうこともある。


会社の中で働いていると、ある程度のポジションに立たなければ発言を許されないことがある。たいしたポジションにいないくせに思ったことはぽんぽん言ってたわたしだった。それが喜ばれていた間は良かったが、それによってものすごく嫌われたこともある。


サラリーマンあるあるで、それが会社というものなのだなと思い、それからはできるだけ静かにしていた、つもりだ。


そして今である。困ったことがある。静かにしている間に、自分を売り込むというか、そういう方法をすっかり忘れてしまった。母の女はだめだ、女はだめだ、までいかないが、すっかり控えめな人間になってしまったのだ。


こうやったらいいんじゃないかというアイディアとか、意見とか、会議の席で言ったら睨まれるとか、敵視されるかもという感覚が抜けない。おかげで、とっても大人しい人だと思われている。自ら考えて何かやる人には全く思われていない。


困ったことである。


そこから、ほとほとと考える。時間をかけて何度も何度も、でしゃばってくるなという嫌がらせを受けた。その脅威が今はないわけだが、骨身に染みていて後遺症のようになっている。


わたしが何かを言えば、また誰かに何かされるかもしれない。


それを頭ではなくて体が覚えているのだと思う。こういうのはもう、少しずつゆっくりと解いてゆくしかないのだろう。それで今淡々とあの頃のことを思い出す。


わたしがきちんと理解するまで、何度も何度も、やられた。わたしの上には見えない天井があって、それ以上の活躍は望まれていなかった。しかし、見ていて目につくものだから、自分のカテゴリではないことまで口を出す。そして虎の尾を踏んだわけだ。徹底的に何度も、お前は正社員ではないのだということを思い知らされた。


頑張っても正社員として登用される制度があったわけでもなく、能力的にもミスマッチだったわけで、さっさと転職すれば良かった。これは後の祭り。


あの会社員としてのお約束のようなものを繰り返し叩き込む儀式のようなものは、あれはあれでかなり恐ろしいものだなと思う。これは女だけが経験するものでもないだろう。


なんだかこんな感じなのだ。発言を許されないうちに、思考力が衰えてくるのだ。つまりはバカになる。


会社というのは一つの国のようなもので、その中では既得権益を持った人たちが派閥を組んで、自分たちの権益を守るために徒党を組んでいる。派閥に属さない新入りが入り込んできても、その徒党に入れるかどうかはその人たち次第であり、もし、その新入りが既得権益を脅かす存在であると思えば、容赦なく叩く。


そもそも、損をする人がいるから得をする人がいる世の中である。損をする人とはすなわちわたしのことだ。


ここまでで我慢して、これ以上は望むな。


つまりはそういうことである。実力で上にいけるなんてとこには立っていなかったのだ。


たいして頭も良くないくせにからいばりする人に、顎で使われる矛盾した世界だった。ま、そんな世界、あっちにもこっちにもあるのだろうけど。


場合によっては会社は、既得権益を守るためにお前はバカなんだという洗脳をしてくる世界である。そうか、わたしはここまでの人間なんだ。頑張ったって無駄だとすっかり骨抜きにされていた。


これが怖い。環境によって思い込まされてしまうのが怖い。こういう環境には長い間身を置かない方が良いと思う。後遺症が残る。


転職をしてあと少しで二年になる。わたしの上にあった見えない天井は取っ払われたが、天井が無くなっても卑屈に生きた日々の影響は残る。それこそ母の 女はだめだ、女はだめだ のようなものだ。


こんな感じでどうだろうという発想が立ち上がっても、ワクワクした後にずとんと落ちる。


お前は正社員じゃないんだよ、余計なこと考えないでいいんだよ


そういう声がまだ聞こえる。提案をしても無視され続けた過去が、きっと今度も何をやっても認められないという心の声と繋がるのだ。


軽いトラウマだ。


それでもわたしは生きていく。女はだめだという母の声まで残っていて、何をいっても任されなかった過去まで覚えていても、それでも働くし、生きていくのだ。自分でそう決めた。


プランはいつもあった。でも、それはプランだけで、その大抵がアクションに繋げられたことがない。わたしは実績が乏しい。だから、大きなことはできない。仕事というのはプラン二ングできれば終わりではないからだ。


大きなことをプランニングして、それを実行できなければ、女はだめだの呪いが実体化して動き出してしまう。


確実に実行できる小さなことからいこう。頑張れ自分。負けるな自分。


ヤクザが自白を強要するために時々やるじゃないですか。テレビの中だけどね。深いたらいに水を張って、髪を掴んでそこに頭を突っ込む。息ができなくて苦しい時にあげられて、そしてまた突っ込む。


あれに似てたんですよね。何度も何度も、わたしが頑張ろうとしなくなるまで、何度もやられた。


そんなくだらないことに心血注ぐくらいなら、役に立つ本の一冊でも読めよと思ったよ。頑張っていることは、自分たちの権利を守ること。それ、会社の利益になることなのか?


そんなくだらない人たちに折られるなんて悔しいじゃないですか。だから、やっぱり負けるな自分と思う。わたしは机上の空論を言っていただけじゃなくて、ちゃんと実行可能なことを考えていたんだって、証明したい。


挫折は人生の一部である。それはきっと必要な経験なのだと思う。理想だけでいこうとしたら、それはやはり机上の空論になるのだろう。だから、あの屈辱も、挫折も、理想家としての自分の限界を知るための経験だったのだと思う。


今更なんかすごい何かになんてならなくたっていい。ただこれからわたしがやりたいのは、いつかどこかでお前の給料は女のくせに高すぎると言った人たちを見返してやることだけだ。自分で自分を誇れればそれでいい。


それでやっと、他人の物差しで測られた自分から解放されるのだと思う。


汪海妹

2025.08.13




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