表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
323/346

中年女の見た夢

挿絵(By みてみん)


写真の説明:まんまんと注がれた日本酒を見ると、ちょっとアガる。

そして、調子に乗って飲み過ぎると、かなりさがる。


基本的に眠りが浅く、尊敬する人は野比のび太の自分。今週も例によって例の如く朝方は眠れない日が続いていた。真面目すぎるのが欠点な自分。私的悪夢レパートリーは、


学校にいこうと思うのになんかサボってる夢、(すごくオドオドしている)


とか、


運転免許を持っていない私が、無免許運転をしてる夢、(すごくオドオドしている、アゲイン)


とか、


むっちゃシンプルに、夢の中で仕事している。つうか、これ、半分起きて、半分寝て、もはや現実の仕事の段取り考えてるから。


チーン……悪夢オンパレード!!!


悪夢ばっか見るか、眠れず羊を数えていることの多い私。神様にお願いする。

たまにはいい夢を見せてくださいよ。


そしたら、見た!いい夢!なんだったと思います?


高校の時の元カレが、出てきて、自分の年齢はもう少し若返っていて、自分は結婚もしてなくて自由で、もう一回、真剣に口説かれている夢だった。細かいところは忘れた。


目覚ましが鳴るまで起きないなんて、滅多にないのですが、本当に久々にスマホのアラームで起きました。


アラームで起きて、現在、ソファーで寝ている自分は、ソファーで起きるのだが、しばらく自分がどこにいるのか思い出せなかった。子持ちで夫持ちであるのを思い出すのにしばらく時間がかかったぐらいだ。


しかし、いい夢だったにゃー!


そうそう。恋愛ってこんな感じだったわ。夢の中でだけだけど、昔に戻れたわとホクホクしながら着替えて化粧をして家を出る。会社へゆくのだ。


どうして、今更、このタイミングで彼が出てきたのだろうにゃー。


いっつもは忘れてる彼のことを思い出す。彼は今日本にいるし、噂はほとんど聞きません。結婚して娘さんが生まれたというのを大昔に聞いたのが最後だ。


夢って不思議ですよね。それは偽物なのに、本物のような感覚というか感情がしばらく残ってました。求められる喜びというか、この上もなく満たされた感覚。


子供がいて夫がいて、不幸だというわけではないのだけど、恋の喜びと今の幸せは別のものなんですよね。結婚して年齢もそれなりになってくれば、若い頃のような刺激が欲しいわけじゃないですが、すこーしだけ、短い間でいいから、戻ってみたい、みたいな感覚なのかな。


それはみんな持ってるんじゃないかなぁ。


フルコースの恋愛がしたいわけでは全然なくて、ただ、ミニミニで、また久々にあの感覚を少しだけ、


少しだけ、恋したい


普段、蓋をして、蓋をして、蓋をして、さらに蓋をしていた、深層心理様が夢の中で自由になって、大昔の彼氏を出演させてくれたのかなぁ。


ぶっちゃけ、高校の時の彼でよかったっすよ。夢の中でも会いたくない元彼もいるからな。


巷ではダブル不倫とか、昼ドラや深夜ドラマでは結婚しててもみなさん、ご盛んなようで、古いところでは失楽園なんかもありますけど、中年になるときっと大多数が、そんながっつりはいらない。


歳をとると、鰻重とか、全部平らげるのが無理なのと、ガッツリ恋愛なんか無理っすというのは似てる。単純にそんなにいらないのですよ。うなぎもカルビも恋愛も。


胸やけに悩まされるのと正比例して、性欲やらなんちゃらも減少する。


だからむしろ、初恋のようなものに再び憧れるわけ。ああいうのをもう一回してみたい。うなぎを食べきれない中年は、もう酸いも甘いも噛み分けているくせに、初恋はもう無理なんだけどそれに似たようなものを求めるのではないかな。


少し、でいいんですよ。少しだけ、欲しい。それは先に進まないで良い。


仕事中に電話がかかってきた。


「すみません。中国語がわかんなかったんですけど、なんか」


当局からの通知を読み違えて、大問題が起こったと勘違いしたお客様から電話がかかってきた。それはそんなことではない、かくかくしかじかと説明する。


「よかったー」


その後、なんて言われたんだっけ?忘れたけれど、ちょっと嬉しいことを言われて、電話を切った後にほのぼのとする。そうそう、これこれ、こういうの。


捕まえようとすると、捕まえられなくて、空気に溶けて消えてしまうようなあるのかないのかわからないくらい、で、いいんです。


何も起こらなくていいんですよ。というか、何も起こらないのがいいんです。


それでも、人を見て、この人素敵だなと思う感覚だけは、できるだけ長く持っていたい。ちょっといいなと思う相手には余分に親切になるような、さりげに不公平な自分でいたい。


そしてまた、高校の時の彼のことを思い出しました。


多分私たちは、あの頃お互いに不器用すぎて、自分たちがそれぞれ思っていたことの半分も、直接伝え合うことはできなかった。あの夢の中で、あの頃、彼が私に伝えることができなかったことを、一生懸命伝えていた気がする。


何を言っていたのか、言葉は覚えていないのだけれど、ただ、それを受けて湧き上がった優しい気持ちだけがまだ心に残ってる。


今の彼の心の中にはもうあの夢の中の彼が持っていたような気持ちは残ってないですよね。だからまるで、過去からタイムマシンに乗った彼が夢の中で訪ねてきてくれた気がした。


過去の恋は夢や幻のようなもの。幻の中に住むことはできないのだけれど、束の間の蜃気楼のようなそれが、心の芯のようなところに染みることもある。


ああ、あの頃確かに、彼のことが大好きだったなぁ。すっかり忘れてたその気持ちが蘇った。


思い出は、そう、幸せな今とは、別腹なんですよ。今が幸せでも、全然食べられる。美しい思い出。


汪海妹

2025.08.06

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ