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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
30/343

With C その2と3












   With C その2 と 3













3/1 With Cの続き


水、木、金、土、日、月、火 連続七日間 PCR検査を一日一回受けてます。


昨日の夜、9時ちょっと前に携帯に区役所のようなところからショートメッセージが届いた。


あなたの区域は防範区になりました


おー、のー!


これで出勤できない。4日間マンションの敷地から外出れないっ!

主人はPCRで外出中。おばあちゃんと息子と3人で騒ぐ。


「えっ!そんなことなら生姜買ってくる」

「だから出れないんだって」

「ええっ」


生姜を本日全部使い切ってしまったおばあちゃん。夜生姜を買いに表へ出るつもりだったのだ。


「騒ぐな。とにかく騒ぐな」


上がってきたテンションを収める私。


「まだよくわからん。おばあちゃん。おばあちゃん友達に連絡するな」


うちのおばあちゃん結構、ばあちゃんネットワーク激しいのだわ。皆、お年寄り、若者より右往左往する、というか猪突猛進に食物を買い占めたりしようとするから注意が必要。


「とにかく○○(旦那の名前)を待とう」


中国語のショートメッセージよくわからないし、待とう。

旦那はさ、今、PCR検査で外にいるわけじゃない。このまま逃亡すれば隔離は免れるわけだ。

ではさ、電話をするのはやめよう。1人で逃亡されてもな。とりあえず皆同じ船に乗るってことでさ。電話しないしない。


「ただいまぁ」


何も知らずに呑気にPCR検査をしたらもらえる寅年シール(日によって色が違う)を服に貼って帰ってきた旦那。


「ね!もう、出られないよっ」

「え?」

「ほらっ」


明日休みだ、わーいわーいとちょっとだけ思いながらスマホを差し出す。


「いや、これはちがう」

「ぬ?」

「もし、隔離になるならマンションの管理室から連絡が来るって」

「でも、私の会社の人も友達も防範区で4日間隔離なったよ!」

「いや、青い区域は大丈夫なんだって」


今、三つの区域に分かれて管理されてんですよ。防範区 青 参照管控区管理区 ピンク 管控区プラス封控区 オレンジプラス赤


ピンクは出勤できない4日間、オレンジプラス赤は2週間から3週間隔離だ。

透明だったのです。私たち。地図で見るとギリギリ免れてた。


「行いがいいからだね」


若干はてなな感想を漏らしてたのに、サクッと青に格上げです。いや、この場合はもう、出世とか昇格とかなしでいいですよ。

ヒラのままで透明でよかったのにぃ。


「お母さん、嬉しい?休めて」

「うーん、そうだねぇ」

「だから、青は大丈夫なんだって」


台風でも、会社へ這ってでもゆくのが日本人。日本の常識、世界の非常識。

コロナで隔離されて会社に出勤できません。

だから?

コロナで隔離されても決算書は根性で出すのが日本人だ。


「いやぁ、お母さん、会社行きたい」

「え?いっつもあんなにサボりたがってるのに?」

「休んだ方が大変になるのが目に見えている……」


私は日本人だけど日本人ではありません。でも、日本人として期待されているから、リモートで会社でやるより苦労しながら慣れないアップルPCでエクセルを駆使して肩が凝るぜ。


「自宅でやったから、数字間違えましたも許してもらえないのだぁ」

「だから、青なら外出られるって」


見かねた主人、管理室へ電話をかける。向こうの管理室のおっちゃんの笑う声が聞こえる。


「青は、十分注意しろってことで、いきなり隔離になるなんてないですよね?ハハッ」

「そんなことはしませんよー。家主にまず連絡しますから」

「そうですよねっ」


妙なハイテンションで会話をする2人。なんだ。大丈夫なのか。しかし……


「ほら、心配するな」

「でも、隔離と紙一重ですよね」

「大丈夫なんだって」


それでも心配性の私、夜、まんじりともしなかった。

ねむっ、眠いぞっと思いながら、ノロノロと化粧をして、そろそろとエレベーターで下へ降りる。

みょうに鳥が鳴いてるな。鳥よ。お前は防範区も参照管控区管理区も管控区も封控区も何も関係なく悠々と空を飛んでいるのだよな。

自由だな。


マンションの棟を出て、正面出口を見る。


バーンと開いてた。


なんだ……


それを見て思う。


昨日まんじりともしなかったし、ここでドアがバチりと閉まってて、やっぱり隔離です、ふえーんとなったら、

昨日、私がチキンだと言ってうっすらと馬鹿にしていた主人の慌てふためく顔は見られるし、

ベッドに寝に戻れたのになぁ……。


どんなふうに劇的に、粛々と、隔離なっちゃいましたと上司に報告しようか、

シナリオができてたのに。演出も出来上がってたわ。ボツじゃねえか。


……


いや、よかった。よかった。さ、仕事。

台風だろうが、コロナだろうが、決算書は送らなければならないそうですし、

会社でやった方が楽ではないですか。今月はいくら利益出るかなっと。


短い冬が終わり、コロナに閉じ込められる春先の道を歩き出す。


*3/2 With C その三


毎日せっせとPCR検査に通う毎日。

月曜日からはめでたく(?)ブルー地域に加わった我が家。

このブルーがピンクになると、マンションの敷地から外に出られなくなるのだ。


困ったものだ。


会社から17時30分近くに車に乗る。18時10分くらいには、いつも降りるポイントについた。


ぽかんとする。


いつもは18時半くらいになっちゃうのよ。下手するともっと。

路上に車がないのです。皆、アフター5は真っ直ぐ家に帰ってたり、出勤せずに自宅勤務になってる人もいる影響か?


でも、コロナはコロナ。

いつ隔離になってもおかしくない私。

隔離になると一日8000歩、歩けなくなるよ。

だから、隔離ギリギリまで歩こうぜ。てくてく。


階段を一日十階分上るために、地下鉄駅の構内へ意味もなくてくてく降りて、そして、意味もなく別の出口からてくてく上る。

この地下鉄階段は3階分である。悲しいかな。息が少し苦しくなるのだ。

毎日やってたらきっとこのくらいの階段、一気にタタタッと上れるようになるぞっ。


今日もささやかな目標を心の中で叫び、小さくガッツポーズだ。


家に着いた。

階段を日程に加えたせいか、あるいは毎日地味にPCR検査分休息が削られているせいか、疲れたなぁっと思う。

息子を迎えに行って、そして、2人で並ぶ。昔は穴場だったこのPCR検査スポット、穴場PCR検査場としてどこぞで紹介でもされたのかしらん?それなりに混む。


私は並ぶのは得意なのである。地味な我慢強い性格だ。携帯で小説でも読みながら黙々と待ちます。

1人の時はね。


しかし、小学生男子と並ぶとこうは行かない。


「お母さん、上見て」

「はい」

「下見て。何が見えた?」

「お前の顔だ」

「もう一回上見て」

「はい」

「何が見える?」

「何も見えない」

「何か見えるでしょ?」


意味のない不毛な会話を続けなければならない。大人は疲れているのだ。しかし、小学生男子は疲れていないのだ。やれやれ。


そして、PCR検査が終わる。いつも、検査が終わるとちょっとだけ解放感がある。それで……つい……


コンビニに寄ってしまうのである。検査場のすぐ横がコンビニなのだ。


「ジュース、買うー」

「おう」


そして、期待せずにアイスクーラーボックスを見る。

最近、検査のたびにここへくる。そして、来るたびにこれを見る。

夏はもっと素敵なラインナップだった。ところが、ここ最近、イマイチな品揃えなのだ。

今日も同じだろう、と、思ったら?


「ぬを」

「どうしたの?」

「こっち、こい。明治のアイスが入ったぞ」


明治のソフト型のアイス。日本だったらね、簡単に買えるよね。

こっちは一部の店でしか置いておりません。


「どうする?どうする?」


右往左往する私。今朝の体重何キログラムでしたっけ?相変わらず頑固に減ってなかったよな。


「お母さん、決めて」

「食べていいの?食べていいの?どうして食べていいの?」


大人はアイスを食べるために正当な理由を必要とする生き物である。


「ていうか、お前、食べたい?食べたい?」


息子がどうしてもと言ったから、買いました。というストーリーに持っていきたい私。


「うーん」

「早く決めろっ」


いつのまにか決断を下の立場の人に委ねる。


「好きなんだよな。これ」

「そうだよな。そうだよな」


疲れてるし、心も体も。だから、いいはずだ。


「しょうがないな。じゃ、買うか」

「……」


若干、何か言いたげな顔で黙る彼。

その後、もう一つの問題が浮上する。


「一個、買うか?二個、買うか?」

「うーん」

「お前、一個、食べられるか?」

「そうだなぁ」


息子はすでに夕飯を済ませているのである。


「いつものお前ならぺろっといくぞ」

「じゃあ、一個食べる」

「よし」


細くチョコが渦巻き状にかかっているバニラソフトアイスと、ただただバニラなバニラソフトアイスを買って、それからジュースを持って帰途につく。


「なんか、毎日寄っちゃうんだよな」

「ほんとだね」


そして家に着く。


「すぐ食べる?」

「お母さんはね、今日、洗濯をしなければならないの。しなければならないことを先に済ましてからゆったりとした気持ちでいただきたいです」

「じゃあ、冷凍庫入れとくね」


そして、洗濯をして、夕飯にサラダを作った。

売れてますと棚に書いてあったバルサミコ酢を今日買って帰ったのです。初めて買った商品なので、当たりかな?ハズレかな?


「ただいま」


飲み歩けない旦那も帰ってきた。


「何?その黒いの。油?」

「いや、お酢だ」

「まずそう」

「いや、うまいのだ」


イタリア人を敵に回す発言をほっといて、賞味。なかなか行けました。


これいけるぜと会社の同僚たちのグルチャに写真付きであげる。

日本の製品や外国製品、情報がないとハズレを引くのだ。共同体の防御策である。


「お酢は体にいいから、一日一本それを飲んでから出社せよ」


訳のわからないコメントつきました。

この人はね、今、隔離中なんです。ちょっと精神がね、あれなんですよ。ほっときましょう。

もしゃもしゃとウサギのようにサラダ菜を食べる。


それから、主人はPCRへ。

私は、濡れた洗濯物を干す。

しばらくすると主人がまた、寅年のシールをワイシャツに貼って帰ってくる。本日は赤だ。よく見ると6回目と書いてあるぞ。


「検査毎日あそこでやると、ちょっとした経済効果があるね」

「どゆこと?」

「脇のコンビニが儲かってる」

「あ、そーそー」


まさしく我らもその類でしたよ。

そんなこんなで騒いでいると、会社の子からチャットが上がる。


『マンション、消毒してるー!』


防護服きた人たちの写真が上がる。


「あちゃー」


濃厚接触者が同じ棟にいたらしい。彼女は出勤できなくなりました。

1人減り、2人減り、ありゃあ、わしゃ1人で明日、出退勤だわなと。


そして、いまだに一緒に入りたがる息子と風呂に入り、パジャマを着て髪を乾かしてる時に思い出した。


「「アイス!!」」


冷凍庫に入れたまま忘れてたぞな、おい。


「どうする?歯、磨く前に食べる?」


息子のパジャマ姿を上から下へ、下から上へ見る。つくづくと見る。


「お前は、1ミリも贅肉がないからさ」

「うん」

「真夜中の冒険(つまりアイスをこんな時間に食うってことだ)ができるけど」

「うん」

「お母さんは、できません……」

「あー」

「君だけ食べなさい」


ぬかった。洗濯に気を取られて、本日のウキウキな収穫を取り忘れたぞ。


「じゃあ、お母さんと一緒に食べたいから明日にする」

「ほんと?」

「うん。ほんと」


かくして、何のご褒美なのかイマイチわからない明治のソフトアイスは明日へ繰り越されたのだった。

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