DNAの不思議
DNAの不思議
来月の上旬に息子がまた空手の昇級審査を受けることになった。審査までは土曜も日曜もせっせと空手に通う。
こっからいきなり話が飛ぶ。いつものことだ。
自慢ではないが、私は運動はできない。絵がうまくて勉強もできて、楽器もやったらわりとできた。しかし、運動はできない。とはいえ、若干、武道に憧れていた。だから、運動できないくせに剣道をやっていたのである。私の空想の中では、私は美少女剣士であったが、現実では美少女でも剣士でもなかった!高校になってもちゃっかり剣道部に入った。県大会にも出ちゃうような強豪校で、ほうほうの体で逃げ出し、とうとう筋金入りの文化系の人になった。ジャジャン。
自分は運動はできないが、運動できるってかっこいいよねってことで、付き合う男性は運動できる人希望でした。ご先祖様と大切に育ててくれた両親には大変申し訳ないが、行き当たりばったりで、ちょうど結婚適齢期の時にそばにいた主人と結婚することにした。この人でいいかという決め手が一体なんだったのか?選ばれた本人も知らない秘密をここに明かそう。
卓球とビリヤードがうまかった。ついでに言うと、直接見て確かめたわけではないが、運動は色々得意だと言っていた。自分にはない運動のDNAを取り入れようと思いました。てへ。
チーン……
ほんっとすみません。でも、そのくらい、自分が運動できないのがコンプレックスだったんですぅ。しかしだな、冷静に考えて卓球とビリヤードができても、生活のなんの足しにもなりませんから、あたしの結婚、ほんと出たとこ勝負だったと思う。
ヤー!コロコロ(サイコロを振っている)
それで、現代に戻ってこよう。空手の時間だ。
「じゃ、今度は床に寝てください」
空手のミットを使っての上段への蹴りの練習なのだが、瞬発力を鍛えるために床に寝た状態から起き上がって蹴るという練習をしていた。パンっと先生が手を打ち鳴らしたらそこから一斉に起き上がってミットを蹴るのだ。
「はやー」
幼稚園、小学生、中学生(→息子)、成人 バラエティ広く揃った中で、うちの子がダントツで速かった。
「すごいねぇ」
「いや、そんな」
嬉しい反面、つくづく不思議である。半分は運動の得意な主人の血が入ってるが、残りの半分は運動のできない私の血が入ってる。その影響で普通の人になるのではないのか?DNAは不思議である。
卓球とビリヤードの腕で結婚相手を決めるだなんて、アッチョンブリケであるが、しかし、男の好みは変えられん。そこだけ妥協しなかった結果、息子が武道をやるようになり、母の叶えられなかった美少女剣士の夢を継いでくれたではないか。
空手やってる息子はかっこいいのである。ホクホクしながら見ている。運動できる男性と結婚してよかった。自分のDNAではないぞこれは。
家族以外誰も見ていないところで、
「お母さんもできるよ。ほら」
初級ならまだしも中級の型など稽古してない自分ができるわけないが、
「はー!」
「バカじゃないの?」
空手の型の真似をしては大笑いされている。幸せだ。笑いを取るのは我が喜びなのだ。特に好きな人のね。
私は絵が好きだった。本を読むのも好きだった。それに対して、息子は本は読まないし、絵も描かない。何か一つくらい好きになってのめり込むものがあって欲しいなぁ。そう思ってた。空手を始めた時は、いつまで続くかなぁと思って見てたけど、幼い頃からゲーム好きだった彼には空手がはまったようだ。自分から熱中できるものがゲーム以外にもできて、母は嬉しいのである。
母は、運動ができる人と結婚しました。あなたはどんな女の人と結婚するのか。多分、母のような笑いを取ろうとする女の子と結婚するんじゃないかしら?そういう子でいいとは思いますが、割とレアじゃね?あるいは全然違うタイプだろうか?
いずれにせよ、健闘を祈る!
2025.04.21
汪海妹
なくてもよい蛇足の追記自分は挫折したけど、武道に憧れ、現在は主に息子のファンとして空手ウォッチャーである私。観察記ここに書く。自己満の文章である。サーセン。
私の息子は組み手が好きで、型は適当にやっている。空手を知らない人のために説明すると、組み手は試合形式の練習である。型は決められた定型の動きを再現してゆく練習だ。これが級が上がるにつれてめっちゃ複雑になっていくねん。
簡単に言うと、バンドでドラムを叩く人は、手と足で違うリズムを刻む。つまりは同時にバラバラの動きをするのですが、つまりはそういうことだ。いや、全然説明になってないが先へ進もう。腰は痛いし、疲れやすいし、もはやじぇんじぇん運動などする気はない私だが、何せもと美少女剣士に憧れた上、もともと頭でっかちなもので論理的に空手を頼まれてもないのに思考する。
ドラムなんてどうやって叩くねん。同時進行で何別々のことやってんねん、と思うが、例えば英単語もせっせと書き続け、覚え続けていれば地味に境地に達するように、脳で指令し体を動かす、これもまた繰り返し続けていると、あっと思うような複雑な動きを脳を飛び越え体が覚えるのである。
組み手の試合でガチで闘魂でもって、今、我々は少年ジャンプの世界にいるのかっ!と思うような戦いを仕掛ける我が息子であるが、しかし、ここぞという時にやはりミリの差で決まらない。組み手命で型には興味のない息子の後ろで、心だけ武道家の母、カタカタと分析する。
型を再現するためには、そりゃ、毎回、毎回、体に細かな動きを覚えさせるわけです。そして、脳の指令→体 の速度がどんどん速くなってゆく。型というのは空手の代々の人たちが研究した結果たどり着いた体の動かし方なのです。それをいく通りも体に覚え込ませるから、相手に襲い掛かられる瞬時に体が考えるより先に動くのです。
「そうですよね?先生」
なぜか、空手をやっている息子本人ではなく付き添いの母が先生に聞く。先生、大いに感動し、その日一日機嫌が良かった。先生、すみません。しかし、うちの子はこの理論を理解し実践してはおりませぬぞ。そこで母、作戦に出た。さりげにダラダラと長期に続く秘密作戦だ。
「かっこいい」
「ん?」
「前よりも、こう、手がこう」
わからないくせに手をくねくねと動かしながら、説明する。
「ああ、もう、説明とかいいから、動画送って」
「はい」
やれやれ。本当なら、母がかっこいいというよりも、ギャラリーの美少女に言ってもらいたいものだが、ギャラリーに彼と同年代の美少女がいないために代役だ。そして、朝起きる時も夜寝る時も仕事から帰ってドアを開けてただいまと言った後も、
「空手、空手の動画見たか?」
「ああ、もうしつこい!朝から」
妖怪のように付き纏っている。母は準備万端な人なので、スケジューリングに狂いはなく確実に仕上げるために今から本気である。しかし、本人が本気ではない。彼は勉強も空手も土壇場でなんとかしようとする。初級でそれはどうにかなっても中級ではどうにもならんぞよ。母も妖怪にならねばなるまい。
嫌がる彼は毎日空手の動画を見たり、家で自己練しないのであるが、わずかな時間の練習でそれなりの結果を出している。まぢ、うちの子、空手の才能あるんじゃね?親バカ発動である。別に悟空のように天下一武道会に出なくてもいいけど、行けるところまでは行けや、うりゃあ!
それでも頑固に勉強もしないし、家で空手の練習もしないのであるが、あまりに私がしつこいので、動画だけは見ていたようだ。そして本番の稽古である。
おー
目が真剣だった。親として我が子が真剣に何かをしているのを見るのは、心がじんとするものだ。とにかく一生懸命やってほしい。一生懸命やった結果が、たとえダメであったとしても、努力は残る。
今回の審査では、受け という防御の技術が見られる。 攻めて、受けて、攻めて、受けての二つの技術を見られるのだ。論理は理解してるぞ!先生!親がだがな。
稽古で指導はしても、組み手の相手は滅多にしない先生が、珍しく相手になった。コーチはよく相手にしてくれるのでその動きは何度も見ていたが、先生の動きを見たのは初めてに近かったのです。
………
空手ウォッチャーとして、それは一つの驚きでした。なんというか、静かだったんですよね。コーチは若いし元気で強いのですが、先生は、とても静かだったんです。つまりは、動きに無駄がない。少ない動きで防ぎ、最短の距離で攻めに入る。それが全体的に静かに見えた。
「なんか、違ったよね!」
「そだね」
「静かなのに攻撃が届かないんだよね!」
「うんうん」
帰りのタクシーで息子に興奮して話しかける。空手って帯の色が上になるとまた、戦い方が変わってくるんだなぁ。
息子が高校に入って日本行っちゃうと空手を見ることもできなくなるのかなぁ。ファンとして日本まで息子の試合見に行こうかなぁ。あるいは日本帰っちゃおうかなぁ。いやいや、旦那と仕事どうしよう?
くっ……
未来のことは置いといて、とにかく今は、いつか小説書く時の役に立つかもしれないし。空手ウォッチャーは継続してゆこうと思ふ。
長い追記でした。自己満の文章です。ここまでお読みくださった方。非常感謝!<(_ _)>




