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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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リスペクト













リスペクト












最近、これは結構大事だなと思ったことがある。それはこういうことだ。


人間は人それぞれだが、割と自分で思っている以上に自分が知っている世界というのは狭いものだと思う。しかし、その狭さを知らないのだ。それで、自分の世界の狭さでもって他人を測ろうとする。


つまりはこういうことだ。自分は30代前半から主に管理部門の仕事を中心にやってきている。だから、その方面についてはそれなりに知っている。それを他人に説明して相手が一度の説明では理解できず何度も説明する必要があると、


「この人、バカなんじゃないの?」


と思ってしまうということだ。


ところがである。その同じ人が今度は反対に製造分野についての話を私にしたとする。ちんぷんかんぷんである。すると今度は相手が、


「ハイメイさんて、バカなんじゃないの?」


と思うわけである。だから、初対面の人に自分の専門について尋ねられて説明をするときに、自分の物差しで相手の程度を測ってはならない。そういう態度は言葉にしてないつもりでも節々に現れ伝わるものである。


いつものことだがちょっと話が変わる。


専門知識を売りにして仕事をする時、人はその性格により、売り方を変えなければならない。つまりは、どうだ!パンパカパーン!と自分が好きで、アピールするのが好きな人はそうすれば良い。


この場合、すごいなと尊敬を集める。しかし、時に、なんだこの偉そうな人はと思われることもある。(自分の専門分野についてはすごいが他分野に対してはこの人だって素人だからだ)だから、勝率は決して100%ではないのだが、自分はすごいというふうに生まれついた人は簡単に方法を変えられないので、自分はすごいの方向に技を極め勝率を上げていくしかない。


問題は地味な性格の人である。わーすごいとオーディエンスと一緒になってパチパチと手を叩いてしまう人である。私もここに属する。人と競うのが苦手である。自分はすごいでしょ、アピールはきっと一生できない。鏡の前でプロモーションの練習をしてしまうのはこういう小心者の人だ。


会社なんぞでは人の個性を無視して人材を教育しようとするので、アピールが苦手な人にアピールをさせようとする。それで、苦手な後者の人も鏡の前で手品の練習でもしてるような気持ちでプロモーションの練習をする。これは進む道を間違っている。会社も個人もだ。


ものを売るというのにもさまざまな切り口がある。


どーだー!おー!


というのが王道でもあるが、ここで、なんだこの偉そうな人はと思っている人もいるというのに着目しよう。決して100%の人が知識をバンバンひけらかす型のアピールに痺れるわけでもない。そのニーズを拾うのが地味な人だ。だって地味な人は逆立ちしても 俺をみろ! みたいなアプローチはできないからである。


それで、自分にはないと思っていた自分の売りのようなものを自分の心の中にある居間の箪笥の引き出しの中をとっちらかして、探してみよう。地味な人のための地味な人にしか使えないアピールが実はあるのである。


それが リスペクト である。


地味な人は他人がすごいなと思いがちな人なので、丁寧に他人の話を聞くのである。そんな人がお客様に説明を求められたので説明した後に例えば


「よくご存知ですね」


などと褒められたとしよう。


「いや、そんなことは!」


と冷や汗をかいてしまう。


チーン……


もしこんな時自分アピールの得意な人が横にいたとする。続けて説明しようとすると、


「それで、こちらは」

「あうっ」(→アピールが下手な人)


とんびが油揚げを攫うように、途中から人の案件を奪うのがこういう人の特徴だ。


「へぇー」(お客様の感心する声)


そして、油揚げを奪われても大して怒らないのが自己アピールの下手な人の特徴だ。面倒なのでアピールの下手な人を亀ちゃんと呼ぼう。上手な人はうさぎちゃんだ。もう一つうさぎちゃんの特徴を教えませう。


この人は、人の話を聞きません。自分のしたい話をするために人が話している最中に話を切ってしまう。たまにそれをお客様に対してもしてしまうのです。


典型的なテレビドラマや漫画などでは、亀ちゃんはいつも泣かされてドラえもんに泣きついて、水戸黄門が出てきて弱いものいじめするなとなって終わるのです。亀ちゃんは1人で物事を解決できず、周りの人に助けられながら生きてゆく弱者です。


ドラマの中ではな。


しかし、現実の皆様、よく目を開けてみてください。うさぎちゃんのようなものの売り方が一見成功しているように見えるのであるが、実は日本のビジネス界というのは、ロケットのようにポカーンと打ち上げてドカンドカンと取引する場面よりも、長く手堅くきっちりとものを売り買いすることが多い社会である。持続性。


うさぎちゃんが強いのは初対面でのつかみである。しかし、お客様が求めているのが目新しさではなく長く安定して安心して買える関係である場合、人の話をちゃんと聞いてくれない人はちょっと困るのである。ここで最初の印象は地味でも、ちょっと頼りなさそうだけどこっちから言えばちゃんと答えてくれそうだなと思ってもらえることがある。


自己アピールが苦手な人にとって、人をリスペクトするのは当たり前のことなのだ。何せ自分に自信がないのだから。しかし、そこが盲点で、初対面の相手に対して負けてなるものかと威丈高になることなく、相手を尊重して話が聞ける態度というのも、実は武器なのである。


この人頼りないなと思われると発注してもらえないので、そこは注意が必要なのだが、自信があるように見せなきゃ、自信があるように見せなきゃと焦るよりも、この人はちゃんと人の話を聞いて最後まできちんとやってくれそうだな、そう見せればいいのだ。うさぎちゃんとは持ち味が違うのである。あんこが背伸びしてカスタードの真似をしてどうするという話だ。


100%勝つことはできなくても、日本のビジネス界では意外とあんこも売れるものだ。試しにやってみてほしい。


汪海妹

2025.03.25


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