表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
269/345

ドラマ感想文:琅琊榜(ろうやぼう)

2/13 ドラマ感想文:琅琊榜ろうやぼう


2015年の中国のドラマを、今更、みてます。全54話で37話までみました。知らない人のために簡単に物語を紹介すると、中国をモデルとして設定された架空の国梁で繰り広げられる復讐劇です。主人公の林殊は、罠にかけられて父親と共に逆賊として自国の軍に殲滅され、死んだものとして処理される。親子で仕えていた祁王も自害させられる。その12年後に毒のせいで風貌が変わり、別人のようになった林殊が、梅長蘇と名前を変えて復讐のために都に戻ってくるところから始まるドラマです。


今までで特に好きだった場面を二つピックアップしますが、一つ目が24話の新たなる決意。罪人となった謝玉が流刑の地へと向けて都を離れるシーン。妻と息子たちが今生の別れと思い都の門の外へと駆けつけるのです。


これだけ書くと、愛し合う家族の離別だと思われるかもしれないが、ちょっと違うんですよ。奥様の長公主はかつて人質として隣国から連れてこられていた王族と恋に落ち、その男と駆け落ちしようとしたが阻まれて、そして、密かに長公主に恋焦がれていた謝玉に騙されて飲まされた薬によって、既成事実を作られてしまい謝玉に嫁いだ人。ちなみに長男は謝玉の息子じゃない。夫に子供が殺されることのないよう怯えながら生きてきたという間柄。


そして、謝玉はまた、自分の家を続けてゆくために、ありとあらゆる悪事に人知れず手を染めており、この度それが発覚してとうとう死刑になりそうなところを、弱みを握った相手に縋り、命はとりとめ流刑になったのです。ところが、半ば相手を脅すようにして守った己の命ですが、都を出れば脅された相手にとっては生かしておく意味がない。


悪人もとうとう進退極まった。そこへ、もう会えないと思っていた自らの想い人が見送りに来てくれた。妻です。


普通だったらですね、薬を盛られて犯された上に妻にされた夫が流刑になったら、ざまみろと思って終わりじゃないですか。ところが、見送りに来るんだな!そして、夫が脅した相手に逆に消されないように、妻はその命に関わるようなやばい秘密、情報を書にしたためてわたしに渡せというのです。謝玉を殺したら、この書を表に出すぞということです。


好きでもない相手に一方的に惚れられて、薬まで飲まされてはじまった関係の二人だが、そこに愛はないのだが、不思議な絆がある。


なんか、わかるのだよなぁ、これ。


若き日に長公主と愛し合った隣国の男は今でも過去にこだわり、生き別れとなった自分の息子に執着しているのですが、女はもはや過去には生きていないのです。


忘れられない恋というのもありますが、必死に生きているうちに、そんな愛とか恋よりも大切なものを手に入れるようになる気がする。若い頃は恋や愛が全てと思い込むものだけどね。


「生きてお前にまた会う日があるだろうか」


そう言いながら、好きな人の顔を記憶に刻もうとする謝玉。不思議と憎めない悪役だった。憎めない悪役が出てくるドラマは好きである。この後、罪人として馬車に乗ることも叶わず、馬に轢かれて歩きながらさってゆくのです。その哀れさよ。


自分が誰かを愛するとか、そういうのではなくて、自分を心の底から愛している男を、愛してはいないのだけど、しかし、その愛を許しそして自分を心に刻みつけることを許す。


人生の中で本物の愛といえばそれは若い頃に愛したその隣国の男なのだろうけど、自分が愛する人から愛されるという経験を人生で得られない人なんて、結構いると思いますよ。だけど、そういう女の人がいざという時に、遠国のかつての恋人に思いははせず、目の前の自分の悪友のために心を尽くす、その姿に色々と考えさせられた。


うまく言葉にならないのだけど、だけど、その気持ちがわかる気がするんです。過去の美しい思い出よりも、血塗られた現在を共に生き抜く相手の方が、大切になる日が来る。愛というのは金平糖のようなものではないし。自分は一生孤独であると理解した人が、しかし、孤独なままでできることはする。不本意ではあっても共に生きた夫の命を繋ぐ。そのことによって別に自分が孤独から逃れるわけではなくても、見捨てない。


この見捨てない気持ちというのは一体、なんなんだろうな。


もう一つ好きだった場面が、33話 雪中の訴え。林殊は自らの素性を隠したまま梅長蘇として、靖王の策士として影で仕えます。顔が変わっているために気づかれないが、実は林殊と靖王は幼い頃から兄弟のように育った幼馴染。逆賊として殲滅された林殊をいまだに忘れていない靖王。しかし、梅長蘇に対してはその策士としての計算高さにまっすぐな気性の靖王は不信感を拭えない。怜悧さや計算高さよりも梅長蘇に対して情を求める靖王。心の底には国に対する想いや友に対する想いを抱き、決して利のために都にいるわけではない林殊ですが、友である靖王にその身分を打ち明けることも、また、本当の気持ちを見せることもなく、策士としての顔を見せ続ける。


最初は梅長蘇に不信感を持っていた靖王も、その策士としての顔の裏に志があることを感じ信頼を寄せるようになってきていたのですが、後継争いで争っている誉王にかけられた離間の計にかかり、梅長蘇に再び強い不信感を募らせ、関係を断ち切り、かつての友、林殊の副官で生き残りが見つかり逆賊として捉えられた衛そうを一人で助けようとする。


靖王はその林殊本人が実は目の前にいることを知らずに、梅長蘇に向かって吐き出すようにこう言う。


「自分の身を守るために衛そうを見捨てたら、あの世で林殊に出会った時に何と言えばいいのだ」


気持ちが先走ると周りが見えなくなり、自己を犠牲にしても突っ走る。靖王、蕭景琰の長所も短所もよく理解している林殊は、靖王が誉王と夏江の罠に嵌っているのに気付き、是が非でも彼を止めようと病弱な体で雪の中、門を閉ざし、心を閉ざした靖王が耳を傾けるまで立ち尽くし呼びかける。やっと門は開いたが強い不信感に囚われた靖王には林殊のどんな言葉も届かない。常に怜悧で言葉を荒げず、感情を見せない林殊が、破滅に向かおうとする友に向かって名を叫ぶ。


配下のものが呼ぶことを許されない、靖王のフルネーム(蕭景琰)を興奮してふたたび、みたびと叫ぶのです。ここが非常に良かった。


中国の宮廷は礼儀が厳しいですね。だから、配下のものは言葉遣いもそうですが、姿勢や動作が違う。梅長蘇も普段、靖王に対しては礼を尽くし、上下関係は言葉つきだけではなく動作にも表れているのです。その明確に表された身分の上下をこの時だけ一瞬林殊が飛び越えて、そこに二人のかつての友としての様子が一瞬再現されるのです。


「蕭景琰、感情のままに行動してその命を失う気か?そんなことで命を無駄にして、それこそあの世で林殊になんと言って詫びる気か」


普段本心をひた隠しにしている林殊の想いが一瞬露わにされる場面で、そこには純粋に友を思う気持ちが込められていて、かっとなって我を忘れていた靖王もやっと聞く耳を持つのです。


私はもともとはこのろうやぼうのような、シナリオや演出が好きです。よりわかりやすく登場人物が脚色されているものはストライクではないのですね。ろうやぼうの演出で好きなところを列挙すると


・林殊の恨みつらみや悲しみを大袈裟に描いていない・悪役は悪役、いい人はいい人と線分けをせず、悪役にも感情移入できる余地を入れている・政治上の駆け引きがリアルである・恋愛要素がないわけではないが、控えめである


最近は歴史物をあまり好まない人にもみてもらおうと思って、歴史物をカジュアルに制作するのが流行しておるようです。カジュアルよりになっても、私はストライクゾーンの広い人なので、まぁ、いいと言えばいいのですが、欲を言えばそれでも主軸は残してほしい。本来の歴史物の主軸は残しつつ難しい部分を少し減らしてカジュアルな要素を追加するという形であって欲しい。


それならば何が主軸で、何がそんなにいいというのかというと、ろうやぼうではねぇ、梁帝、靖王のお父さんですが、この人が、逆上して実の息子である靖王を皆の面前で蹴るんです。そして、お前は跪け、と命じます。宮廷では許しがなければ皇帝の前で立って物を申してはいけないのです。


梁帝はかつて、逆賊として自らの長男を獄に落とし、自害させた皇帝であり、親子であってもその関係は現代の我々が思うようなものとは全く違う。死ねと言われたら死ななければならない。皇子なんて言っても、そんな儚い身の上なのです。この他にも、よく調べもせずに祁王を自害させた梁帝に刃向かって以来、冷遇されている靖王は、常に僻地の戦地を回らされ、都に報告に戻っても父である梁帝に「しばらく待たせておけ」と言われ、その後何刻も忘れられるシーンもある。


靖王という人は、親友の林殊と尊敬する兄の祁王を失った時に、一度死んでいるというか、もうどうでも良くなっちゃったんだと思うんだよねぇ。そのくらい、大切な人たちが無実なのに濡れ衣を着せられて殺された経験は、若き日の靖王には耐えがたい出来事であり、そんなことが罷り通った朝廷に愛想が尽きても納得です。


そういうディテイルが良い。ずいぶん長くなりましたが、終わらないので、もう終わらせる。なんてたって、記事を書くより続きをみないとね。すみませんね。それでは本日も、まとまりのないままに。ほとんどが頭絞ってあらすじ書いているような記事でしたが、あしからず。

汪海妹

2025.02.12

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ