私のコーヒー事情
私のコーヒー事情
低血圧だからかどうなのか、カフェインがないとぼーっとする人である。コーヒーは欠かせないのであるが、このコーヒー、ワタクシが中国に来たばかりの頃は、
……なかった。だって、お茶の国の人だもの。深圳にきたばかりの頃は、関外 ぐわんわい と言って、深圳市郊外に住んでいた私、コーヒーを飲もうと思ったら某西洋料理店へゆく、そこにはスパゲッティという名の焼きうどんがあり、コーヒーという名の色のついた砂糖水があった。それよりはマックのコーヒーの方が幾分かマシである。マックのコーヒーはマックの味しかしないが、それでも、一応コーヒーだった。しかし、当時、私の住んでいたところはマックまで車で10分ぐらいかかるところだったのである。
ノーモアコーヒー!(→明らかに使い方を間違っている)
プリーズ、ギブ、ミー、チョコレート、ではなく、コーヒー!状態であった。
それまで自分は東京に住んでいて、徒歩3分にセブンイレブンがあり、季節限定のスイーツやらアイスやら食い放題だった。コーヒーなんて言うまでもない。
ごおおおおおおおおおん!
激しくホームシックになったことこの上ない。どうしてこんなとこ来ちゃったんだろ?と思っては涙で枕を濡らしたが、一つ救われたところは、深圳は香港の隣にあり、香港まで行けばいろんなものが手に入ったことである。
それがどうよ?いまじゃ中国はコーヒー大国なのだ。それでいいのか?中国人。烏龍茶どうすんだよって話だが、ま、そんなことは個人的にはどうでもよく。私は毎日気が済むまでコーヒーを飲んでいる。
ところがである、そんなわたくしにも憂鬱なことがないわけではない。それは、目眩く中国のコーヒー市場の変化である、つうか、スーパーでね、商品の入れ替わりが激しすぎんのよ。もうちょっとわかりやすくいうと、最近コーヒー周りの謎な新商品が多すぎるのです。そして、私がせっせと買っている職人のコーヒーのドリップ版が消えちゃった。
「にゃいー」(→スーパーの棚の前で叫ぶ)
こういう時だけ動体視力のいい私。ふと近くに不穏な気配を感じた。
「こ、こんなとこにっ」
いた!職人のコーヒー!
「こ、こんな姿にぃい」
変わり果てたその姿を片手で掴み、しばし号泣した。号泣するふりをした。彼奴は以前は誇り高きドリップコーヒーであったのに、なぜか、1リットルのペットボトルに入れられたボトルコーヒーに成り果てていた。つまりは、中国の
あれよ、あれよ、あれよっと
とにかく目新しければものは売れるのだ!的なアホな風潮にとうとう職人のコーヒーも巻き込まれてしまったってことよ。
「こんちゃ」
「こんちゃじゃねーよっ!」
*念のため言っておきますが、コーヒーはしゃべりません。ハイパーにアホな筆者による脚色であることをここにお断りしておきます*
お前、お前を長年買ってきた私だからと、また買ってもらえるだろうと期待してんじゃねえぞっと。
そこで、私は鉄アレイを持ち上げるみたくボトルコーヒーを持ち上げてみた。
「却下」
「えーーー」(買ってもらえると期待していたコーヒーの雄叫び)
今日はね、シャンプーも買うの。もし、宅配で買い物してたら買うけど、私、重いの運ぶのやだし。大体会社用として会社に持っていくのもめんどいわ。
そして、職人のコーヒーをとうとう振ってしまい、私が買ったのは、これも新商品、7天珈琲之旅 だ!
「オメー、まずかったら承知しねえぞ」
「いやーん」(7天珈琲之旅の声)
私が凄んだのには訳がある。これは車ならベンツである。私は車は乗れればいい。だから、日本車でいいの。なのに、棚にあった日本車(職人のコーヒー)は取り除かれ、ベンツ(7天珈琲之旅)しか残っていない。
つまりは、訳のわからない新商品コーヒーを強引にも売るために、カバスーパーは棚から庶民的なドリップコーヒーを駆逐した。そして、貴族クラスのドリップコーヒーか、ハラホロヒレな新商品しかねーんだ。
新商品とはこんなだ。濃縮された液体。お湯を足して飲むんです。あるいは、フリーズドライされたインスタントコーヒー。
ところで最近ワタクシ、会社で飲むためのコーヒーを買ってませんでした。なぜなら、会社の地下にある ラクダカフェのラテにハマっていたからです。このラクダや、あのラッキンコーヒーの真ん前にある。ラッキンって中国で1番手のコーヒーチェーンで、日本で吉牛の動向がいつも注目されているように、中国での飲食業の中で経済誌によく乗るお店です。
ぶっちゃけ、いつつぶれっかな的な気分で眺めてました。だって、ラッキンの前にあって、ほんで、ここは地下道で、しかも、人通りは微妙なんですよ。で、気まぐれで期待せずにとある日、買いました。保守的な自分にしては、初めてのお店でお買い物をするのは立派なアドベンチャーです!
「あ、あ、あ、」
「あ?」
「アイスラテ」(→基本挙動不審な人間である)
ガガガガガガ
この時、驚いたのはこのお店のマシンである。本格的なエスプレッソマシンやったねん。輸入もんやな。
ガガガガガガ
マシンの立てる音を聞きながら、私、しばし、恍惚としました。だって、おら、深圳がど田舎で、ど素人集団で、しかし、泥棒はじぇんじぇんプロばっかやったデンジャラスシティの頃からしれっとここに住んでて、コーヒーと名のついた色のついた砂糖水を飲んで命繋いできたねん。苦節うん10年やねん。
それが、チャイナでこんな立派なエスプレッソマシーンが……
「お待たせしました」
「ども、ハウマッチ?」
「20元です」
ラッキンよりうまいんでね?つうか、わし、ラッキンよりスタバな人。だけど、この日から正妻はスタバだが、ラクダの愛人を持った。
愛人の元に毎朝通う。
「あ、今日はいつもより早いですね」
「ども」
「マシンあっためるんでちょっと待ってください」
「おす」
そして、どしりとラクダの狭い店内の椅子に座り、向かいのラッキンを覗く。ラッキンはあれだ、アメリカンハイスクールのハリウッド映画があったとしたら、パツキンの姉ちゃんだ。おりゃ、パツキンの姉ちゃんには惚れへんど。
「20元です」
「おす」
ちなみに言っておくが、このままだとこの小さなラクダコーヒーを中心にカフェのお姉ちゃんと無口な中年男性の恋物語でも始まりそうだが、私は中年女性です。
「おっは」
「アイスラテですね」
「うす」
「20元です」
しかし、20元なのですよ。たまに飲むならいいけど、毎日飲んでんぞ。とある日にふと主婦気づく。ちなみに我は時々13元の桂林米粉とかを「やっす!」と思いながらお昼に食べている。朝二十元のアイスラテを飲んで、昼13元の桂林米粉ってどうよ?
それで、まず、一日のコーヒーを一杯にしました。もともとカフェインの取りすぎは不眠の原因の一つでもあるので、朝の一杯で我慢することにした。そして、その第二段階として、毎日買うのをやめて、ドリップコーヒー飲んで済ます日を入れようと。主婦はね、倹約するものよ。蝋燭代をケチって、息子を大学までやるのですよんと。
それで買いにきたドリップコーヒー 7杯分で55元 1杯8元だ。160円っすよ?ドリップよ?自分でカップの上にセットしてお湯入れて飲むドリップよ?
やすくねーじゃねーっか!呪いの言葉をかけつつ、ビリ
「あ……」
ビニールを開け、中の紙のパッケージを開ける。よかにおいがしてきたとばい。しかし、しもた。
「しもたー!」
会社でいかに地方ミックスで矛盾した方言使いをしようと、誰もつっこんでこない。なぜならば、みんな日本語がわからない中国人だからだ。
七天之旅 中国語で七天とはセブンヘブンではなくて、セブンデイズです。七日。このコーヒーね、7種類のブレンドが入ってるの。月曜日から日曜日まで違う味を楽しむめくるめくコーヒーの旅♡が、売りなわけ。で、それぞれのドリップの袋に曜日が書いてあった。
「星期一(月曜日)を開けるべきだったのにぃ」
うっかり、別の曜日を開けてしまいました。これでは、めくるめくコーヒーの旅に行きそびれてしまう。どないすんねん!せっかく背伸びしてベンツなドリップコーヒーを買ったのに!
「あ……」
そして、気づいた。
「今日、月曜日じゃなかった」
そう、水曜日にベンツなコーヒーを買い、木曜日に入れていたのでした。
「どうでもいいや」
そ、どうでもいいのである。コーヒーなんて。カフェインが入っていて眠気が取れればいいのである。次はネットで職人のコーヒーを買おう。
「しかし、ラクダも守らなくてはな」
スタバは本妻で、ラクダは愛人である。しかも、愛人はラッキンというイケイケどんどんなパツキンのガールにいつ潰されるかわからない状態だ。俺(私)が守ってやらねばな。スタバは極道の妻系美女で、懐にドスを持ってるから、ラッキンのようなイケイケどんどん金髪にも簡単にはやられないだろう。
「明日はラクダに行こう」
この世でモテるのはほっとくと倒れてしまいそうなものである。毎日コーヒーに20元使っちゃうとちょっとにゃんと思いつつ、ついつい足を伸ばしてしまう。ちなみに最後にもう一度念のために言っておくが、私は中年女性であり、男性ではない。
2024.10.18
汪海妹




