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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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嬉しかったこと












   嬉しかったこと












どん底のような状態でカタツムリのように暮らしてましたけど、心から嬉しかったささやかな出来事がありました。それが、一緒に働いている中国人のアシさんと久しぶりに電話で話せたことです。


外出先で具合が悪くなっちゃって、それからそのまま病院で検査しつつ自宅療養。落ち着いてきたので在宅勤務。様子を見て来月から会社に復帰かな?という状態でした。


私視点から最近の出来事を語ると、

アシ①が具合悪くなる

学校の事件が起きる

アシ②が具合悪くなる、


という順番で大変でした。物理的にも心理的にも追い込まれてましたが、アシ①と電話で話せた。


「大丈夫なの?」

「大丈夫ですよー」

「ちゃんと原因わかったの?」


すると突然向こうで声を顰めるアシさん。


「近くに⚪︎⚪︎さん、いませんか?」

「いませんよー」

「お医者さんがいうには」


まだ若い子なんですね。持病があるわけでもないけれど具合悪くなっちゃった。いろんな検査しましたが、自律神経の部分にちょっと問題があるといえばありそうなんだけど……


「ストレスじゃないかって」

「あー」


周りに日本語がわかる人がいない事務所の中で、電話の向こうとこっちで声を顰める。アシ①さんは真面目な人ですよ。仕事ができない人じゃない。経験積めばちょっとずつ伸びる人です。ただ、周囲の人がたとえばいい加減だったり、あるいは言い方のきつい人だったり、怖い人だったりすると、そういう人的ストレス耐性が弱くて、私なら0.6ぐらいのダメージを1.7ぐらいで受けてる感じなのです。


そのストレスを与える人たちの筆頭が⚪︎⚪︎さんなのですよ。平たくいうとアシ①は⚪︎⚪︎さんを裏で、怖い怖いと思っちゃって、実際以上に彼女の中で⚪︎⚪︎さんはキングギドラ化しちゃったのよね。


「私が代わりに怒られてあげるから」

「……」


もちろんこういうタイプの人には、私のような優しい上司の方がいいだろう。ただ、仕事というのはそれだけでは終わらないのがセオリーである。部下を甘やかすと、今度はお客さんの要求に応えられなくなることもある。このバランスが難しい。どちらにもいい顔できて合格である。そして、部下が無理しない代わりに自分が無理したら自分が倒れる。


「仕事量も多かったよね」

「はい」

「それもさ、アシ③に振るからっ」


みんな不器用である。⚪︎⚪︎さんも、何もかもを真正面から受けて落ち込むアシ①ちゃんも、ちなみにアシ③ちゃんは怒られていることに気づかない強者で、そこがいいところであるが、細かいところをよく間違える。


だから私が黒子になればいいのである。表に出ずにアシ①とアシ③をフォローすると、彼奴等は⚪︎⚪︎さんの前で、成功体験を得ることができる。自信は人を変える。俺、できるかもという気持ちが大事である。(ちなみにアシは2人とも女子であるが、私に合わせて俺キャラにしてみた)


アシ①とアシ③の性格と仕事の仕方はわかりました。我々のダンジョンにはなかなか強いボスキャラがいて、今のところ3人のパーティーで、たまにしか怒られないのは私だけである。ボスキャラは、戦いを挑んでくれても、育成をしてくれるわけじゃない。だから私が黒子として育成いたします。それで、時々、ボス倒しに行ってこいや。


どんな出来事にも負の面もあれば、正の面もある。


もちろん、本当に酷い出来事で負の面しか探せないこともある。だけど、そのレベルまでいかない出来事であれば、探そうと思えば正の面がある。戦うとはそういうことであると思う。物事のまだ救われる部分を見つけて、武器もって立ち上がるのだ。


仲間と一緒にね。人生だって働くことだって、本当はRPGなのである。自分なりの闘い方を見つけて生き抜いてゆくゲームみたいなもんだ。


アシ①ちゃんが、本当に酷いことになる前に倒れてしまってむしろ良かった。倒れるまでみんな彼女がそこまで参っていることに気づいてなかったのである。本人が隠してたから。


そして、私とアシ①ちゃんとの間には信頼関係は築けたようだ。これで彼女に逃げ場ができました。


私はこんにゃく人間なので、大抵の人を嫌いにならず、受け入れるスキルだけはめちゃ高いのだと思う。


「ひっくり返せば、こんなところにいいところが!」


人間なんてそんなもんだ。ほとんどの人が本物の悪人ではない。(ただ、世の中には本物の悪人もいる)自分は多分、このめちゃめちゃ高いこんにゃくスキルだけで残りの人生は生きていけばいいのだと思う。なぜならば、他の部分は別の人がやってくれるからである。むしろ、別のスキルで何かかっこいい仕事とか、すごいことをしようとすると、バトルになる。


強い人はあちこちにいて、むしろたくさんの人が、こんにゃくのもとで休みたがっている。例えば⚪︎⚪︎さんとアシ①も真ん中にこんにゃくの私がいると、ちゃんと付き合えるのである。2人は私を間に入れてバトルをしていて、アシ①は必ずボスキャラを倒してやると心に決めて戦場に戻ってきたのである。


仲良く喧嘩しな状態だ。


「じゃ、これはまかしてもいいかな?」

「はい」


私は管理職の人間を飴と鞭に分けてみている。飴には飴の弱点があり、鞭には鞭の弱点がある。めっちゃシンプルに適量を超して使うと効果が出るどころか損なう。鞭は振るいすぎると相手が倒れるし、飴は与えすぎると相手がダメ人間になる。


「細かな連絡は全部お願いします」

「はい」


優しい言い方しかできないし、フォローのためにめっちゃ細かい気配りしているが、これをやり続けるとただのお母さんなのだ。引き際が肝心である。そしてこの引き際で私はお母さんから、自分1人では何もできないおじいちゃんになって孫に甘える。


「これ、忘れてますよ」

「え、そうだったけー?」


私は厳しい人ラインでの行動ができない人なので、このラインしかないのである。使える手札が限られているから、少ないカードで最大効果を出すためにいつも頭は使ってる。ちなみに、ボスキャラなんてふざけた名前をつけている鞭型の人にももちろん頼ってる。


仕事はチームワークである。それぞれの人がみんないいところと悪いところを持っていて、誰かの悪いところがたくさん出てきちゃうとうまくいかなくなる。何事もバランスが肝心なのだ。バランスよく周りだせば、チームによる効果は必ず、優秀な個を超える。


そのために陰で暗躍するこんにゃくがいるのである。これ、ゼリーではいけない。ゼリーは良い香りがするし、なんだか西洋の小洒落た感じがする。どうしてもゼリーで行きたいなら、せめて寒天であろう。こんにゃくあるいは寒天でなければならない。


どうしてそこゼリーではいけないのか?目立つからである。悪目立ちだ。こういう職場でさりげない仕事をしている人は、本人にはかわいそうだが、みんなが気づかないのが一番である。(つまり査定されず、給料はたいして上がらない)おでんの中で食べてもらえるのを待っているこんにゃくは実はすごいやつなのである。味が染みている!いとこんでもいけない。あれは、人気がありすぎる。やはり、板でなくてはならない。


なんかよくわからない美学を披露してみたが、それはもういい。


アシ①が帰ってきた。この子、気をつけてあげないと多分やめちゃう。そんなことにだけはならないように、(こんにゃくとして)頑張らないと。それが今の私の原動力である。人間は頑張る目標や対象のようなものが明確になってくると、エネルギーが湧いてくるし、多分、長生きする。多分な。


私は困っている人がほっとけない人間なのだ。


2024.09.28

汪海妹




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