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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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神様とは












   神様とは













高尚なタイトルで始まったが、今日はただの笑い話である。


日系企業が現在の深圳に対する要望を深圳市政府の方々に対面で述べて交流をするというイベントがあり、末席に座り資料をもらってこいと言われて出かけた。先週の木曜のことである。場所は福田で何ちゃらビル。


そこで、今やレトロと化した地下鉄1号線に乗る。せっかくだから久々に福田の地下街で飯でも食うかと降りて、おったまげた。


コロナのせいかもしれない。コロナのせいかもしれない。


地下街がめっちゃ寂れてた。場末の、という枕詞が似合いそうなくらいシャッター街だし軒を並べている店は何だか精彩にかけるのである。


ここはイノベーション都市深圳なのかああああああああ!


地下街の一角で中年女性が叫ぶ。もちろん頭の中だけで、本当に叫んではいない。


場末にも色々あるのだが、何だか落ち着く場末もある。自分がどこの誰かを忘れて酒を飲み、演歌を歌って悦に浸るとかな!しかし、この福田の地下街の場末感といったらなかった。なんつうか、ボロが見えたな、深圳よ!


ま、しかし、地下鉄1号線とその周辺の施設は今やレトロ、つまりは古いのだ。そして、コロナで人が出歩かなくなる間にゴーストタウン化したのであろう。


綺麗な街を歩いていると、自分が中年なのを忘れるが、小汚い地下街を歩くと、自分が中年だということを十二分に思い出す。


わたしは、中年だ、中年だ、中年だ、ちなみにこの想念に全く意味はない。


街にめったりと溶け込みながら3号線へと乗り換えのために地下街をそぞろ歩く。すると


「よよ」


このレトロ地下街め、意味もなく階段がある。


普段12号線で生活していると、地下鉄周りの施設は全て新しいし綺麗だ。そして、常にエスカレーターがついている。全くもってわがままな話だが、ここでワタクシ、キレた!


「神様ー、こんなところに階段がありますぅ!私は普段、かなり階段を使わない生活をしているんですが、どうして、地下鉄で登るんですか?これ、必ず後でまた降りるやつですよね?」


すると


「はい、こちらカミサマー、くだらないことで電話してくんじゃねーよ。お前、こちとら何人相手にしてると思ってるんだ。どーぞー」

「……」


独り言のつもりで口にした言葉に、返信があった。そして、切れた。え、今のなに?


おそらく設計ミスのために生じた意味のない3号線へと繋がる小汚い通路の階段をとりあえず登り、テクテクと歩く。すると、予想通り、もう一度無駄に登った分を降りる階段があって降りた。そこでもう一度呟いた。


「あの、すみません。神様」

「あーん?また性懲りも無くかけてきやがったな。なんだ?」

「神様って、サービス業なんですか?」

「はっ、笑わせるんじゃねーよ」

「そーですよね」


サービス業であるわけがない。


「そんなことも知らねえで、生きてんのか。こちとら神様はバリバリのサービス業よー!じゃあな!」

「……」


え……え、いや、神様ってサービス業なの?つうか、今わたしに応対した神様ってどこの神様?日本の神様?


「あのすみません」

「ああ、ちょっと待て。お前もしつこい女だな。蕎麦が伸びる」


交信はきれた。そこで仕方なく産業交流会には行かなきゃいけないので足を動かしながら続きを考えた。神様はサービス業だった。知らなかった。さっきの神様は一人で何人相手にしてると思ってるんだと言っていて、咄嗟に考えると、


「おう、またしたな」


蕎麦を食い終わったのか、また神がアクティブになった。


「あの、おたくは日本の神様ですよね?」

「ああ、そうだよ。そうじゃなかったら日本語でサービスはできんだろ?」

「だとしたら、日本の神様は絶対の単独神ではなくて、八百万の神様ではないですか、だから、一人でたくさん見てるとはいっても単独神ほどではないですよね?」

「あん?あんた、中途半端に詳しいね。やだやだ」

「別にただそこんとこ明確にしときたいだけですよ」

「別によそ様の会社のことをどうこう言うつもりはないけどな」

「会社……」

「そんなん、一人で回しきれるわけねえじゃん」

「え……」

「なんか、からくりがあんだろ、からくりが」

「……」


え、単独神は、一人じゃないの?それ、株主、知ってんの?


「ま、いいじゃん。おたくが契約してんのはうちなんだからさ」

「ほんとに神様は、組織で動いてんですか?」

「あったりめえよ。そんなことを知らないで生きてたの?うちはバリバリ会社です」

「はあ」

「CO.LTDじゃなくて、CORPのほうね。コーポレーション」

「結構、おっきいんですね」

「いや、外資も入ってるからさ。合弁なの」

「神仏習合ってやつですね」

「そうそう、合併する時に揉めてさ。待遇とか違ったから」

「へー」


初耳である。


「でも、契約してるとか言われても、お支払いしてるものとかないと思うんですが」

「あ、君たちの次元でのお支払いとはまたちょっと違うのよ。もちろん一部はお賽銭とかお布施もあるわけだけど」

「何でお支払いしてんですか?」

「信心とか?まあ、しらんでいいしらんでいい」


知らんでいいと言われても


「勝手に寿命削ったりしてないでしょうね」

「バカ、お前」


よかった。考え過ぎだったか。


「俺はそんなことに手を出したら処罰される下っ端だぞ」


考えすぎじゃなかったー!


「寿命関係はありゃ、でかい取引だからな」

「最近、景気はどうですか?」

「いや、まぁ、ぼちぼちね。ぼちぼち。ただ、少子化でちょっと。日本支部はあれかな」

「あら、そこら辺はリンクしてんですね」

「あたぼうよ。あ、でも、我らは悩む人間が多い方がニーズが伸びるけどな」

「へー」

「コロナとか、わりとビジネスチャンスだったわけ」

「そうなんだ」

「お前、なんか、あれだな。わりと話しやすいな」

「はぁ、それだけが取り柄ですから」


そこで、神、相好を崩した。


「飲むか!まだ昼だけど」

「いえ、わたしは産業交流会に行かないと」

「あー?」


そして、一気に機嫌が悪くなった。


「ばか、お前、バチ当てるぞ」

「そんなバチなんて簡単に当てていいんですか?」

「何いってんだ、おめえ、俺は神様やぞ」

「神様より上司が怖いです」

「はぁ?」


それから、レトロ地下道を抜け、炎天下の地上で道がよくわからずスマホと睨めっこしている間、神はありとあらゆる罵詈雑言を喚いていた。


「お前、祟りが怖くないのかぁ」

「さあねえ、でも、それより上司が怖い」

「これだから現代人わぁ」


ところで、神様、最後に一つだけ質問、よろしいでしょうか?

本当に、あなた、サービス業すか?


「あ、あった。あれか。でかっ」

「聞いてんのかうりゃあ」


2024.09.10

汪海妹


追記:純粋なフィクションであり、私に神を冒涜する意図はこれっぽっちもございません。悪しからず。

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