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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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映画:The son(邦題:息子)より















   映画:The son(邦題:息子)より













日本での公開が2023年、監督 フロリアン・ゼレールの映画です。前から見たいと思っていたとかそういうことではなくて、テレビをつけていて見ていた番組が終わった後に続いて放映されていてなんとなく見ました。


あらすじがわからないと映画を知らない人から見たら意味がわからないと思うのであらすじをご紹介すると、


主人公は前妻との間に高校生の息子がいて、現在の妻との間に生まれたばかりの男の子のいる50代男性で、弁護士をしている成功者です。前妻との息子は離婚後母親と住んでいます。そんな前妻がとある日に連絡もなしに主人公を訪れる。何かと問うと、息子が親に内緒で高校に通っていなかったという話が持ち出され、あの子が何を考えているかわからない、わたしには手に負えないと言われる。それで、長男は母親の元を離れて、後妻と次男のいる家に前妻の息子が同居することになる。後妻はしぶしぶ応じた。その後、息子は表面上はうまくいっているように見えて、隠れて自傷行為をしたり、それを咎めた後にまたこちらの高校でも親を騙していっていなかったり、それを強く父親に咎められたら、今度は1回目の自殺未遂。幸い命は取り留めたが、急性うつ病と診断され、医師に入院を強く勧められる。しかし、「連れて帰ってくれ」と泣きながら懇願する息子に病院においていくと言えなかった両親は、彼を退院させてしまう。退院したその日に息子はお風呂場で猟銃で自殺してしまうのです。


これはですね、うつ病になったことがない人や、身近にうつ病の人がいない、そういう人の視点から描かれた映画だと思うんですね。


突然、大切な息子に何が起きたのかわからなくて、自分の息子が病気なのだというのが受け入れられず、二度と自傷するな、学校に行け、俺が子供の頃はもっと頑張った、そんな命令をすれば、息子が元に戻ると思ってる両親。


悪夢を見ていて、その悪夢から覚めたいと思っている人たちをリアルに描いているという点ではきちんとしてると思うんです。そして、うつ病をよく知らない人にとっては、こういう病気なのだということをある程度教えてくれる映画かもしれません。


特にラストに近いシーンの自殺してしまう息子の演技が、リアルです。病院で医師に囲まれながら両親に退院させてくれと懇願するシーンです。


「僕は病気じゃない。こいつらが僕を病気にしようとしてる。僕は病気じゃない。こんなところにいるのなんて耐えられない。最悪の場所だ。こいつらは嘘ばっかり言うんだ。僕は病気じゃない。家に連れて帰って」


これを見ながらね、うつ病になってしまった人というのとそうではない人というのは、火星人と水星人ぐらい違う規則に則って生きていると思いましたよね。


だってね、この時、息子は大きな嘘をついているわけです。涙ながらに懇願しながら両親に人生最大の嘘をついているわけです。


「これからはいい子にするから」


この時、叫んで暴れて懇願している息子の目的は、ただ、自宅に帰って死ぬことだったんです。死ぬために親を騙したわけです。


心から、死にたかったんですよ。死ねて幸せ。ここにいたら死ねない。どうか僕を連れて帰って望みのままに死なせてください。


死ぬことよりも生きることの方が苦しくてたまらないのですよ。生きていることが耐えられないのです。1秒でも早く死にたいんですよ。とっとと。


これが、病気じゃなくてなんなんですか。


しかし、息子は病気だと思いたくない、思えない両親は、その目の前の息子が病気になる前の息子と同じだと信じたくて連れて帰ってしまうのですね。騙されてしまうわけ。


そして、シャワーを浴びるからといって立ち上がって、両親を振り返る息子が安心した顔でにっこりと笑うのです。心からにっこりと。


なんでこんなに笑うのか?当たり前じゃないですか、望み通りこれから死ねるから安心してるんですよ。


もう一回言おう、これが病気じゃなくてなんなんですかってことですよ。


精神科医の言った 病は愛じゃ治せない ってあの言葉がぐさーっと響きますよね。ただ、そうはいいつつ、あの医師と本人と両親での面談のシーンですが、あの場で医者が信用できるか?できないよね?


うつ病の治療についてはいろいろな話を聞きますよね。延々と薬を与えて延々と直さない医師がいるなんて都市伝説めいたものも聞くし、自分としては情報も経験もない。もし突然自分が、或いは自分の大切な誰かがうつ病になってしまったら、お医者さんのことなんてそう簡単に信じられませんよ。


あの絶望的な面談のシーンでの数分が、非常にリアリティがあったと思う。


あったと思うんだけど、ただね、これは、突然息子がうつ病になってしまって、あれよあれよという間に失ってしまった、うつ病ではない人目線で描かれた物語であって、息子の小さい頃の可愛い様子が合間合間にメランコリックに入ってきて、センチメンタルにできあがったものなんです。


うつ病の方や、その近親者から見たら、反吐が出るできあがりだろうなと。


この、死なせてしまった両親の、病気を理解しようとしない姿が非常に腹立つかもしれません。また、センチメンタルに仕上げる手法も反吐が出るかも。


現代社会において求められているのは、うつ病になったら本人や家族はどうやって生きていけばいいのか、そういうものを描いたものであって、ただ悲劇としてメランコリックというかセンチメンタルに作り上げたものではないのかもしれませんね。


いや、ほんとに大変な病気だなぁと改めて思いました。流石に頻繁にこういう重いテーマの映画を見たり、本を読んだりするのもしんどいのでできませんが、ただ、全然知らないまま生きていってもね、ある日いきなり自分が、或いは自分の大切な誰かがなる可能性もあるわけで、誰だってなる病気だと思っておかないと。


だから、ある程度は知っておかないとダメだと思う。そうじゃないといざという時に私も大切な誰かを或いは自分を支えられないかもしれないものね。


汪海妹

2024.08.27


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