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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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村の話8ー西洋の思想が入り混乱した件について












   村の話8ー西洋の思想が入り混乱した件について

   2021.10.24












   










   


「先生、お邪魔いたします」

「お、いらっしゃい。一人?」

「はい」

「上がって、上がって」


 館に中川君が来ました。奥に案内します。この館は日本の古民家のイメージ。囲炉裏ばたに座布団を敷いて座ります。


「で、何?話っていうのは」

「僕も結婚したい」

「いや、君、結婚したよ。ほら、短編で」

「あれだと、相手が誰でどういう経緯で結婚したかわかりません。ちゃんと書いてくださいよ」

「つまり、主役になりたいと」

「はい」

「うーん」

「僕の何がいけないんですか?」


 ちらと見る。若干泣きそうな顔をしてるんだけど。


「どうせ僕は犬と子供と老人にしかモテない……」

「いやいやいや、まぁ、落ち着いて」


 落ち着かせる。


「どうせ僕はいい人なんだけどで終わる男ですよ」

「いや、自分でそういうのやめな?そんなことないって。ほら、中川君は結構つるりとした綺麗な顔だってちゃんと書いてあるし、変な顔ではないんだよ?」

「でも、綺麗な顔のわりに印象に残らない男なんですよ」

「……いや、だから、自分のことをそんなに悪くいうなって」


棚からウイスキーを取り出す。ニッカ。これ、高かったんだぞ。


「もう寒いし、ロックではなくそのままちびりちびりとやろうぜ」

「僕、酒強くないですよ」

「別に量は飲まなくてもいいからさ。ハメを外せ」


そして、二人でグラス持って縁側へ。庭は紅葉してる。一幅の絵のようである。明るい中でウイスキーを楽しむ。いいではないか。


「この前、斉藤君を書いて、あれも綱渡りだったんだぞ。もともとは主役はれる人じゃないと思ってたし短編で終わらせるつもりだった」

「はい」

「いわゆる王道のモテキャラではない人を書くのって難しいんだよ、いい試練にはなるけどさ」

「僕ってなんでモテないんですか?」


どストレートで聞いてきたな。


「その問いに答えるためにはな。まず問うが、君は誰にモテたいの?」

「……」

「そもそもモテるとは何か?」

「モテるとは何か?」


かなり真剣な顔で考え込む。中川君。


「自分の人生にはいつも周りに羨ましいなと思うような男がいるんですよ」

「うん」

「そういう奴はいつもモテてた。だから、あんなふうになりたい」

「うん」

「例えばね。そいつがいない時は僕と楽しそうに話してた女の子がそいつが来た途端にソワソワとし出して僕との会話がそぞろになっちゃうんですよ」

「うん」

「惨めです。いつもそう。勝てない人がそばにいる。そういう星の下に生まれてきたんですよ」

「いや、気持ちわかるわぁ」

「僕、嫌われてるわけじゃないんですよ。好かれてはいるんです。だけど、二番目になっちゃうの」

「いや、わかるわぁ」

「嘘」

「ん?」


ジトーっとした顔で見られました。


「先生って、マイペースっていうかそういうのから自由に生きてるじゃないですか」

「そう見えるのか」

「そう見えます」

「中川君はさ、あれだよね。君みたいな人時々見かけるけど、自分をよく見せようと頑張ってしまう人なのだよね」

「そんなの、みんなでしょ?」

「いや、気にしてない人は気にしてない。自然体だよ」

「……」

「それでさ、人の真似して何かやって失敗して影で落ち込んでたりするでしょ?自分を変えようとして変えれなくて。変身願望って奴だよね」

「僕にはオリジナリティがないので」

「うーん」


どう言えばいいのかなぁ……。


「いつか書きます。中川君のお話も。ただ、まだディテイルが見えませんからなんとも言えませんけど」

「ほんとですか?」


中川君の目がキラキラと輝いた。その目を見ながら思う。


中川君のコンプレックス、これは悲劇と呼ぶほどのものではないささやかな、だけど本人にとっては重大なコンプレックス。

そして、おそらく現実世界の中でも存在しているありふれた感情ではないでしょうか?ただ、それを掬ってきちんとしたお話にする。ありふれたコンプレックスをきっちり掬ってきちんとしたお話にする。……結構難しいんだけどな。


「一言だけ贈っておく」

「はい」

「今の日本で重要なのは二番手で生きてゆく勇気だと思う」

「……」


誰もが社長になるわけでも会社で重要な地位につくわけでもなく、この世で名を残すわけでもない。ありふれた人間として生きていく意味は自分で見つけなければならないし、自分の価値は自分で掴むしかないのです。


「あとこれはまだ仮説ですが」

「はい」

「日本人にとってのオリジナリティというのは、外国人とはまた違う意味合いがあると思ってる」

「どういうことですか?」

「日本の文化は周りに合わせることを基調としている。オリジナリティと日本の文化は軽く矛盾するんだよ」

「難しい」

「ええっと……」


ちょっと頭を整理する。


「周りに合わせるから、本当の自分を殺してしまって、殺して過ごすのが習慣になる。本当はみんなオリジナリティは持ってる。それを言葉に出したり行動に表したりするのが怖いの。それは、日本では周りに合わせることが文化だからさ」

「はぁ」

「本当はオリジナリティなんて、そんな難しいものではないのだと思うよ」

「じゃあ、日本の文化が悪いってこと?」

「私はそれよりも、世界の交流の仕方が変わってね。昔では考えられなかったくらい外国の物や考え方が流入するようになって、混乱してしまったような気がするの」

「はい」

「自分自身が若い頃に西洋的な考え方に傾倒して外国人みたくなろうと思ったことがあるからさ、外国人の友達もいたし、わかるのだけれど」

「うん」

「日本人が西洋人みたくなるのは無理」


庭の贅沢な赤や黄色をみながら、酒の香りを楽しむ。


「完璧な文化なんてないんだよ。だから、私たちはここ最近に起こっている表面的なことだけから判断して、その、日本のね、周りに合わせる文化というものを否定してはいけないのではないかな?寧ろ日本人のオリジナリティは、周りに合わせるというところにあるんだよ。西洋的なオリジナリティやその発現方法に走っても答えは見つからないと思う。寧ろ神秘的な自分の国の文化を改めて学ぶべきなんだと思うよ。そしてそこに日本的なオリジナリティを発見するしかないんだよ」


老子や孔子。仏教とか。日本に昔からあるものの中に本当はオリジナリティはあるのだと思う。私たちは西洋人とは違う方法で、オリジナリティを発現してやってきているんです。


せっかく日本人に生まれたのだから、日本を学ぶべきなのだと思う。もっと深く。

欧米圏に憧れて英語を一生懸命勉強した学生時代でした。海外旅行もしたし、外国人ともずいぶん話した。

そうやって一旦離れたからこそ見える日本というのがある。


抽象的な話をしていますが、その抽象的な部分から始まって、日々のちょっとしたたくさんの人の生き方や毎日の出来事に影響を与えているものもあると思うんです。


日本はいつも周りに合わせることを求めるし求められる

老子がとある文章の中で言っていたはず。

若い頃は周りの人とぶつかっていたけれど、歳を取って自分の思ったことを言っても周りの人とぶつからず和を形作ることができたと。


これは中国の思想家の言葉ですから、純粋に日本の話とは言えませんが、東洋の思想です。

東洋の思想と西洋の思想は違う。どちらも学ぶことが本当は大切なのだと思う。


まとまりのないままに

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― 新着の感想 ―
[一言] 汪海妹様 森毅教授のエッセイかなにかによると(違ったらごめんなさい・・・) 数学的には 定義されていないものはいかように答えても正解なのだそうです つまり 中学数学かなんかで お子様が …
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