役者について思ふ
役者について思ふ
現在日本在住の姉とオンライン飲みをしようとウェイシンを繋いで、彼女は麦焼酎の水割り、私はビールで乾杯した。特にトピックがあったわけではなくダラダラとおしゃべりしていた中で、某ドラマが前に比べてつまらないという話をしたのです。
「お父さんとお母さんが生きている時の方が良かった」
「うん」
「旦那さんもあの死んでしまった前の旦那さんの方が味があった」
「んだ」
(なんのドラマについて言っているかはご想像にお任せします)からの
「そういえば今日、とあるドラマを一気見したけど」
「相変わらずそんなことをしてるのか」
家を汚いままにパジャマのままで食事も取らずにテレビを見る人間(私)昔から変わらない。
「なんか主人公の男の人が冴えないの」
「うん」
「なんで主人公にこんな顔の役者と思ったの」
「うん」
「でも、この人、なんかみたことあるような気がして」
私は人の名前と顔を一致させて覚えるのが昔から苦手。だから、芸能人の名前をよく忘れます。多分脳みその中で右と左で繋がっていなければならない管のいくつかが生まれた時から繋がってないとかそんな残念なことになってるのだと思う。
「で、あれ、これは、あれだ MYの息子じゃねえかと」(ご想像にお任せします)
「それでなんかじっとみてると不思議と味わいのあるかっこいい人なのだよね」
すると姉は突然徐に語り出した。
「わたしが最近いいと思う役者は……」
姉はちゃんと名前を覚えていた。私は名前ではさっぱり分からず、いちいちネット検索しながらおしゃべりを続ける。
「あ、知ってる!この人」
「だろ?」
「確かにいい演技する!」
「そうなんだよ」
ちなみに父と姉と私は、3人ともきちんと大河を見ている。(アラセブンの父との共通トピックを持つための私なりの努力であったりもする)最近では和泉式部の演技が酷かったと姉が毒づく。
「違うよ。あれは演技が酷いのではなくて、和泉式部が酷いんだよ」
「え、そうなの?」
「和泉式部は平安時代の尻軽女なんだよ。(→非常に独断的な私の解釈だ)あたしたちはいざとなると羽目が外せないから、羽目外せる女を見るとひでえ女だなと自動的に思うんだよ」
「そうなのか!」
ちなみに、深層心理においては羨ましいのである。そして念のため言っておくが、和泉式部は現在まで名の残る一流の歌人である。
それから2人で、俳優はイケメンがいいのかどうかというテーマで語り合った。
「イケメンだと顔が目立ちすぎて演技が霞む」
「ああ」
「どんな演技しても演技が前に出ない」
「顔が前に出るんだね」
「そうそう」
俳優も苦労するなぁと思いました。歳をとってから素敵だなと思う人は、若い頃素敵だなと思った人とどんどん違ってきていて、顔貌よりも表情。深い表情がのる顔というのはもっと地味な顔の方がいいですね。
地味な顔だから七変化するとでもいうのかなぁ。何にでもなれるという感じで、見ていて飽きない顔というのは、イケメンの顔ではないと思うようになるものです。
思うに、年月を重ねて目が越えてくると人はほっといても常に美しいものは見飽きるのですよ。そうではなくて、さして綺麗ではないなと思うものが一瞬美しく見える時、気になって仕方ない。それで、其の次の美しい瞬間を見落とさないために目が離せなくなる。
だから、実は顔の造作というのは、無表情でいる時には地味な人の方が実は可能性を秘めているのではないかと思う。顔は自分の責任であり、その人の深さあるいは浅さは年をとれば取るほど顔に現れてくると思います。もうちょっというと、顔の造作の美しさが魅力の人というのは、若い時を頂点にあとは崩れていくものですから、その顔立ちをキープするのに苦心するわけです。今も綺麗だけどあの頃の方がもっと綺麗だったなと言わせないためにね。
若い頃はただ綺麗な顔の人が好きでしたが、悲しいもので顔が綺麗であればあるほど仮に其の方が中身が浅い場合、そういうものが対峙しているこちらにしんしんと伝わってくる。歳を取れば取るほどそういう方に興味や関心や時間を割けなくなります。
ちなみに私が今回かっこいいなと思った俳優さんは、お父様が伝説的俳優で、お母様も芸能人。弟も芸能人。昔の自分だったら、弟さんの方が好きだったでしょう。イケメンです。でもね、今はもう断然お兄さんですね。雰囲気、存在が素敵。100枚写真を撮ったら、変な顔の写真も混ざってきちゃうのがお兄さんなんですが、つまりは顔の造作からいけば弟さんの方が綺麗です。しかし、上手く取れた写真の素敵さも跳ね上がるというか。
「え、この人、よく見るとかっこいい!」
こういう人にしかもう最近は興味が湧きません。わかりやすくかっこいい。誰が見てもかっこいい人には
「わー、ぱちぱち」
失礼のないように気は配るし、ほんと、かっこいいですよね、とかヨイショもするが、心は持っていかれない。本当に痺れるのは、一見普通そうなのにふとした瞬間にめちゃくちゃいい顔をしている人ですね。撮られた写真によって振れ幅のある人です。かっこよかったり悪かったりの落差のある人。歳をとるに従って素敵になってゆく男の人は、最初から顔の綺麗な人じゃないと思う。これは、まぁ、私が歳をとるにつれて外見的なものよりより中身を求めるようになったからかもしれません。
人間にはスロースターターがいる。若い頃にまずもてはやされる人というのは外見を中心にわかりやすい魅力を持った人だと思います。ところがね、人間だんだんわかりやすいものに飽きるんですよ。それで、昔はモテなかった人がモテるようになる時が来ます。そして、人生の初期にもてはやされた人が努力をしなければ後期に、ま、意地悪な言い方をすると落ち目になります。芸能界の話だけじゃないね。
私は、もてはやされなかった過去を持っているスロースターターの方が好きです。
汪海妹
2024.08.18