ユーミンはお姉さんである
ユーミンはお姉さんである
残暑
作詞・作曲 松任谷由実 編曲 松任谷正隆
発売日 1990/11/23
日傘をさし 土手を歩く
白い小さな イリュージョン
目を細めて 追いかけたの
夏をひきとめたくて
ふとあなたの声が
去年の恋が
歌いながら 光りながら
耳をかすめた
ペダルをこいで並んだなら
しばらくそばにいて
やがて雲は ちぎれながら
空色を深め
透きとおった心からの
葉書が出せる気がする
まだ あなたの声に
去年の恋に
立ち止まって 涙ぐんで
季節を知るの
そんなこよみをありがとうと
いつしか伝えたい
たまたま日本人の人たちとカラオケに行くことがあって、ユーミンが好きな人が多くてユーミンを歌ってほしいと頼まれた。
「残暑って知ってる?」
「わかるかなぁ?」
かなりマニアックな曲を頼まれた。私も昔かなり聴き込んでいるので結構な数歌えるんですが、流石にこの残暑は歌詞を見てもわからない。他の人が歌ってるうるさいカラオケ屋の隅でスマホで流したが、イマイチ聴こえません。
「ごめんなさい」
「そっか。なんかこれ好きなんだけどな」
「なんかユーミンって有名な歌もいいけど、あまり知られていない曲にもいい歌あるよねぇ」
そして、夜中にやっと帰るタクシーの中で歌詞を見ながら聴きました。
あ、なんだ。知ってたな、この曲。
それからほろ酔いで窓の外を流れ去る光を見つめながらユーミンの曲を聴いていた。そして、この曲が好きなんだよねと言った人のことを思い出す。
「実は離婚して」
「え?」
「言ってなかったっけ?」
子供がいて、でも、離婚してしまったのですって。それから、中国に来たのだと。
「え、仕事ばっかしてて奥さん怒らせちゃったんですか?」
単身赴任が長いとこれが原因で離婚してしまう人も多いんです。
「いや、そうじゃなくて俺から」
「……」
こういうのはね、相手が自分から話すのなら聴いてあげればいいけど、話さないのなら聞かないのが武士の情けってもんですよ。
何があったのか知らないけど、ただ、子供がいて長く家族として暮らした人を失う大変さというか辛さは想像できる。自分も結婚して子供がいるからね。シャレにならない痛みを覚えた時に、思い出したのがこの曲なのか。
とても静かで地味な曲なんですよ。でもね、大きなものを失ってしまった人の心にはこういう静かなメロディが響くのだろうなと思います。とっても悲しいんだと思うんですよ。悲しくて悲しくてたまらなくても、大声で叫ぶわけにもいかないじゃないですか。ただ静かにずっと長い時間をかけてその悲しさというか痛みを感じながら生きていかなければならないんですよ。
だから、この曲なんだろうな、と思いました。
ゆっくりとそれでもその痛みすら思い出になっていく、のかもしれないな。そう思わせてくれるような曲なんてあちこち探してもなかなかないですよね。
ユーミンは友達のお姉さんが大好きで、それで、私はそのおしゃれで素敵なお姉さんに憧れていて、それで真似をして聴き始めた。それはもうたくさん聴きました。歌詞の意味もよくわからずに片っ端から聴いていた。私の恋愛観の一部を作っているのは間違いなくユーミンです。
初めてヒールのある靴を履いて、髪を高くゆって、靴擦れを作っちゃっていたような頃から、失うとか人を裏切るとか、愛の責任とかそういう難しいことを考えるようになった今まで、ユーミンはずっと隣にいてくれた気がしてる。子供の私にも大人になって母親になった私の横にもいてくれた気がします。
こんだけ甘えているのだから、ユーミンってお母さんみたいとも思うのだけど、でもやっぱり違う。ユーミンはお姉さん。
会ったこともないし、これから会うこともないだろうと思いますが、でも、ユーミンはそれでも私の隣にいて私を慰めてくれたお姉さんのような気がします。そしてきっと、私だけのお姉さんではないのでしょうね。
たまに昔のことを妙に思い出すような夜にはユーミンが聴きたくなるな。
汪海妹
2024.08.15