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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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既婚者の男女のリアル












   既婚者の男女のリアル














数年前のことだ。深圳で日本人の異業種交流会のようなものがあって打ち上げがあった。気持ちよく酔っ払い、


「二次会行きましょうよー」


ポンと隣にいた人の肩をつい叩いてしまった。その瞬間手を跳ね返され、しかも相手はざっと私から一歩跳びはなれた。


脱兎!


脱兎ってこういうことかもしれないと、先にまず思った。その後、遅れて衝撃を受けた。


なんと!


これがもし、ポンと肩を叩いてしまったのが男で、叩かれたのが若い女の子ならまだわかる。しかし、私は女だし、叩かれたのだってアオハルとは程遠い、いい大人の男性なんですよ。


衝撃だった!そこまで嫌われたからショックだったのかというと、そういうことじゃないんですよ。私も酔ってた。相手も酔ってた。みんな酔ってた。それで、彼としてはですね。私が嫌いだとかそういうことでパッと手を払ったのではなくて、酔っ払った時に羽目を外してはいかん、酔っ払った時に羽目を外してはいかん、酔っ払った時に(以下略)


つまりは酔っ払ってはいるがまだ酔いが足らず、正気が残った状態だったから、


いかーん!


と思わず、反射的に私の手を振り払ってしまったのだと思います。


ちなみに私の名誉のために言っておきますが、もちろんそんな下心があって肩にポンと手を置いたわけではありません。


そして、私が何にそこまで衝撃を受けていたかというと、


これが実は結婚した男女の真実じゃね?


と思ったからっすよ。つまりね、そりゃもちろんドラマや漫画や映画にあるような大人な淫らなラブというかなんというかを楽しんじゃう人もリアル世界にもいると思うのだけど、実は、このいざとなると 脱兎 のようになるごくごく真面目な人たちの数も わりと多いと思うんです。ただ、 脱兎 をフィクションで取り上げても物語は盛り上がらないから取り上げられないだけで。


実は既婚男性の中には、奥様を怒らせたりお子さんを傷つけてしまうような過ちを酔っ払った勢いとかでしてしまわないか、ビクビクしながら生きている方もわりといると思う。


こんなこともあった。


「あ、私も同じ方向っす!」


酔っ払いが歩いて帰る。同じ方向なのでしばらく一緒に歩いていたのですが、思いっきり離れて歩かれた……。


俺、片思いしている女の子にしつこく付き纏っている青年か何かか?

(私は中年女性で、思い切り距離を取って前を行くのは中年男性です)


ちなみにこの方のお子さんは我が子の同級生で、奥様は保護者会で顔見知り。ちょっとエキゾチックな雰囲気のある美人な奥様で、奥さん大事にしろよ!って気持ちはあっても、もちろん下心なぞ1ミリもない。


ビクビクと前を歩く男性の背中を見ながらぽくぽく歩き、これが意外と既婚者男女のリアルかもなぁと思う。そりゃ一部は要領よく遊ぶ人もいるかもだけど、いつ敵が来ないかとビクビクしながら生活するうさぎのような人も多いんじゃないかな。


そして、また別の中年男性が登場する。飲み会があってみんなが酔っ払ってくると、小説のネタにするために色々な取材をしている私。とある人に、ところで、浮気とかしてるんですか?と聞いてみた。


「いや、もうそういうのはよくなった」

「へぇー」


つまり昔はしてたってことだ。


「そういうのじゃなくってね。だから、何かしたいとかそういうのじゃなくてね。だって、もう、そういうのは寿司食いに行きたいとか、たかられるだけじゃない」

「ハァ」


それは、一体どういうシチュエーションなのかよくわからんがまぁいい。


「こう、たとえばとあるお客さんの会社の受付の子が非常に美人だったとする」

「うん」

「で、冷たいわけよ。つんとしてるの」

「うん」


この人、M男子でした。


「そこに何度も通い、挨拶したり、ちょっと話しかけたりして……」

「雪の日も、雨の日も?」

「そう。雨の日も、雪の日もね」


酒を飲みながらそれぞれ、雪の日と、雨の日と、ついでに日照りの日を脳内に思い浮かべる。


「それで、やっと、」

「やっと?」

「ニコって笑ってもらえた日!」

「おー」

「もちろん次の瞬間にはまた冷たい顔に戻るんだけど」

「うおー」

「そういうのが欲しいっ!」

「わかるっ!」


既婚かける子持ちかける中年 その答えは バレないささやかなときめき、これに限る。意外と このくらい 脱兎な人 は 男にも女にも 多い。


いけないいけないいけない 僕には奥さんもいるし子供もいるんだから

からの

いけないいけないいけない 私には(旦那と)子供がいるんだから

(なぜか旦那が括弧がきの中に入っているが、まぁいい)


じゃあ、脱兎な人々は みんながみんな 真っ白かというと そうでもないのよ。


ほら、ミステリーでさ


「その時、わたしは彼を殺してやりたいと思ったんです。それで、ナイフを懐に忍ばせてっ」

「でも、あなたは刺さなかったじゃないか。あなたが行ったらもう彼は死んでいたのでしょう?」

「でもっ、わたしが殺したも同然なんですっ!」


こういうのあるじゃないですか。頭の中ではやっちゃってるのよ。現実ではやってなくてもね。


こういう状況のために、はらー という淫らなフィクションがあるわけで。あれはリアルであそこまではできない人たちの願望を形にしたものなのだよな。ああいうものの需要があるのはさ。みんな自分でやるのは我慢して、フィクションで誤魔化しているんですよ。きっと。


チーン……


で、現実ではいざとなると、うさぎもマッツァオなくらいの速度で逃げるのです。


だから!だから、既婚かける子持ちかける中年の行き着く先は?


プラトニックラブですな。それも口に出すことのない。この人、素敵な人だなぁと思う人とちょっと話せただけで大満足。帰りに肉まんを買って帰りながら、


今日はいい日だったなぁ


と思うのが幸せ。これは肉まんではなくて、アイスでもビールでもとうもろこしでもいいぞ。


ちなみに上記のようなことを薄ぼんやりと考えながらの本日でございます。業務の一環で依頼者のお客様からお預かりしたお写真をクリックして開きました。


「かっこいい!この人!」

「海妹さん、うるさいです」

「ね、ほら、なんか頭も良さげで、すげえ上品でかっこいいよ、この人」


それにしても、自分も最近見る目が肥えてきたというか、昔ならきっとこういう感じの人、素敵だと思わなかっただろうなぁ。ジャニーズ系の顔とかそういうのとは全く違うのだもの。画面をうっとりと眺めてたら言われた。


「これも、これも、これも手伝ってください」

「ほいほーい」


寝不足でだりいと思ってたのもなんのその、なんだか元気になっちゃって仕事の詰まってるアシさんの仕事も手伝いつつ定時で上がる。定時で上がる前に、もう一回、必要ないのに写真を開く。カチリ。


「かっこいー」


アホである。完全なアホ、一匹である。


映画やドラマや小説やどこぞの漫画のような大胆なことができない脱兎な自分は、いい年した大人のくせに、どこぞの中学生以下ではないか?写真をコソコソみて影で喜んで。


ま、これでいいのである。あたしゃ、既婚かける子持ちかける中年の 不自由な身なんでね。このくらいでいいのだ。


あ、ちなみに、先ほどの刑事と女のやり取りの続きを書いておくか。推理小説なんてなかなか書けないからな。


「あなたは刺さなかったんだ。だから、警察はあなたを捕まえることはありませんっ」

「うー」

「しっかりしろ」


ここで、刑事、うずくまって泣いている女の両肩に手を置く。それ、セクハラじゃないんすかね?


「あなたは生き直すんだっ、これから、幸せになるんです」

「でも、でもー」


早く終わってくれないかな。これ。


「しっかりしろ。さ、明日に向かって吼えろ」


あ、間違えた。太陽に向かって吼えろだった。


「うおおおおおおおお」


やべ、野生化したぞ。この女。


「うおおおおおおおお」


なんで、一緒に吠えるんだよっ!刑事。それでも警察か?ところでこの場所はやっぱり崖だったんだろうか?じゃ、ま、そういうことで、よろしくお願いします。 <(_ _)>


汪海妹

2024.08.13

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