表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
168/343

読書感想文:ドライブ・マイ・カー 村上春樹














   読書感想文:ドライブ・マイ・カー 村上春樹













村上春樹さんについてコメントを。姉が大好きでして、姉に便乗して読んでおりました。村上春樹さんで私が一番好きなのは、少年カフカです。何度か読みました。それ以外も読んでいますが、読むと心が整う作家さんです。春樹さんの文章は、嫌いな人は本当に嫌いらしいですね。私はこの文章がかなり好きです。ただ、どうしてこんなに心が整うというほど好きかというと、足りない栄養素のようなものだからだと思う。


私は適当にだらしなく生きている人間ですので、春樹さんを読むと


久しぶりに正座をしたな!


というような気分になる。そして、


今日から春樹さんみたく自分も思考して、生きるぞ!


と思う。そして、なんか村上春樹っぽい文章を書いてみる。すごい影響力である!そして、三日後!


スライムみたくもとのだらしない自分に戻っています。ウエーイ!この関係性が我ながら面白いと思ってる。にわか春樹と言えるほどに影響を受けるのに、長く続かない、ウエーイ!


で、ちなみに感想文を書く前に言っておきますが、少年カフカは何度も読んだからそれなりに感想文を書けるかも、で、ドライブ・マイ・カーも先ほど読み直しましたし書けるかも。でも、それ以外の本は、それなりの冊数を読んでいるのだけど、感想は書けない。なぜかというと、覚えてないんですよ。なんでやねんってとこを考えてみました。楽しんで読みました。一部だけ怖い場面とかあったなとうっすらと思う。ただ、わかろうと思って読まなかったよね。


本を読んでいてそういうこともあるよ。で、ネタバレしつつドライブ・マイ・カーに入ります。


考えてみたい部分を抜粋しようと思う。次から村上春樹の文章だ。↓


「でも、はっきり言ってたいしたやつじゃないんだ。性格は良いかもしれない。ハンサムだし、笑顔も素敵だ。そして少なくとも調子の良い人間ではなかった。でも敬意を抱きたくなるような人間ではない。正直だが奥行きに欠ける。弱みを抱え、俳優としても二流だった。それに対して僕の奥さんは意志が強く、そこの深い女性だった。時間をかけてゆっくり静かにものを考えることのできる人だった。なのになぜそんななんでもない男に心を惹かれ、抱かれなくてはならなかったのか、そのことが今でも棘のように心に刺さっている」「それはある意味では、家福さん自身に向けられた侮辱のようにさえ感じられる。そういうことですか?」家福は少し考え、正直に認めた。「そういうことかもしれない」「奥さんはその人に、心なんて惹かれていなかったんじゃないですか」とみさきはとても簡潔に言った。「だから寝たんです」(中略)「女の人にはそういうところがあるんです」とみさきは付け加えた。言葉は浮かんでこなかった。だから家福は沈黙を守った。「そういうのって、病のようなものなんです、家福さん。考えてどうなるものでもありません。私の父が私たちを捨てていったのも、母親が私をとことん痛めつけたのも、みんな病がやったことです。頭で考えても仕方ありません。こちらでやりくりして、呑み込んで、ただやっていくしかないんです」「そして僕らはみんな演技をする」と家福は言った。

(ドライブ・マイ・カー 村上春樹 より 抜粋)


癌で死んだ妻が一時期浮気していた相手の男と、自分がその事実を知っているということを伏せたままで近づき一時的に友人となった主人公が出てくる短編小説です。主人公は実力派の名脇役と言われる俳優で、相手の男は2枚目だけど二流の俳優。その経験について、短期で雇った運転手の娘に語るという短い話。


私はこの、傷ついているのに、怒ってもいるのに、その原因である浮気相手に対して近づいてゆく主人公の気持ちがよくわかる。演技をしながら近づいたと言っているその気持ちがよくわかる。そして、親しみすら覚えていたという気持ちがね。


もしかして、私が村上春樹さんを読んでいて心が整うと思うのは、こういう、喜怒哀楽の 怒 を複雑に捻じ曲げてしまった 私もそういう人間だからかもしれません。非常に孤立していて、そして、1人でいることを苦にしていない。


ただ、村上春樹さんの作品に出てくる主人公と自分の相違点といえば、春樹さんの主人公は、非常に孤立してる、つまりは友達がいないんですが、ごくごく身近な人、つまりここでは亡くなった奥さんですが、には強く依存しているんです。ごく少数の人に深く依存し、それ以外の人とは距離を置く、そういう主人公が多い。


だからこそ、このドライブ・マイ・カーの主人公の、亡くなった奥さんに対する思いは一途で深いんですね。そして、自分になぜ浮気をしていたのかということについての謎を残したまま死んでしまい、それが長く心に残り苛んでくる。それが、淡々と語られるわけです。


演技をしながら自分の感情を素直に表に出せない男が、単純で感情をそのまま出してくるつまらない男と対峙している。どうしてこんな顔はいいけどつまらない男と、俺にない何があるっていうんだと、延々と考え続けてきた家福に対してドライバーであるみさきはあっさりいう。


そこに意味なんてないんだって


信頼していた妻に裏切られたことにも、みさきの父が妻と子を捨てて出ていったことにも、母親がみさきをひどく痛めつけたことにも、そこには考えたって意味なんかない。病みたいなものなんだって。こちらでやりくりして、呑み込んで生きていくしかしょうがない。


これは、わかる!


思うに、私流に解釈しますが、自分が悪いわけではないのに、自分に何か悪いところがあったのではないかと思って、答えが出ない問いをぐるぐる考え続けるということはあります。


でも、それは、自分に原因があったわけじゃない。


相手の病のようなもので、自分が努力してもどうにもできない問題です。考えてもしょうがないんですよ。


そのことを思って、本日、今夜、私もちょっと救われました。


相手を怒らせたくなくて、あるいは傷つけたくなくて、相手とうまくやりたくて、何度も何度も相手のことを考えて一生懸命やるのに、いつもうまくいかない。こういうことで何度も何度も自分を責めてきた過去がある。でも、自分が頑張ってもどうにもならないことってあるんだなー。


私の人生がいい方に変わり始めたのは、上のようなことを理解してからだったと思う。アドラー心理学の他者の課題と言ってもいいのかしら?相手の病が問題であれば、こちらがどんなに心を砕いてもどうにもならないんですよ。


そしてですね、自分と村上春樹に出てくる主人公とは割と似ていますが、でも完全に同じではなく違うところがある。それは何かというと、私は自分のことを理解してくれる相手を持たずに生きています。そういう意味で孤独です。


私の友達は自分の人生のパートナーにはそういうソウルメイトを持つべきだと信じていて、私がそれを相手に求めないことを詰るのです。相手が悪いのでかえろというの。


昔は、そういうものを求めていました。でも、今は求めていません。それではこっから、拙作から抜粋です。


「彼の妹さんに言われたの。わたしみたいに苦労せずに育った人には、彼を理解できないって。一緒にいると彼に無理をさせるって」「理解できないって言ったのは本人じゃないんだ」(中略)「理解なんてできないと思うよ。経験してない人には。でも、お父さんはお母さんに理解してほしいなんて思ったことはない。理解したいって思ってくれるだけで十分なんだ。他人のことなんてね。努力したって理解なんかできない。人間は」

(いつも空を見ている③ 汪海妹より 抜粋)


父娘の会話なのですが、どんなに自分が心を許しそばに置いている人であっても、わたしのことを理解したなどと思われるのはなんだか違うんですよ。わたしにとってはそれは何か違うんです。何もかも話すわけじゃないし、相手がわたしを理解しないからって失望することもありません。


昔、完全に理解して欲しくて、或いは、完全に理解したくて、随分すったもんだしていたような気がします。


わたしにとってはね、相方がわたしのことをどんな女だと理解しているのかというのはちょっとしたミステリーなんですよ。他人の目から見て、口から語られる自分というのは、本物とはまた違うしかしそれもまた別の角度から見たわたしなわけで、新鮮なものです。そして、きっと長い時間を一緒に暮らして、わたしはわたしなりに相方のことを理解して把握していますけど、それだって、本当はどうなのかよくわかりません。


私たちはあまり会話をしていないのだと思う。実は自分たちの本音はそんなにぶつけ合ってないかもしれません。結婚などしていないか、あるいはしてもまだ若い方は、そんなんで夫婦なの?とか、それはよくないよ!なんていうかもしれませんが、わたしは賭けてもいいけど。何を賭けようか?実は本当は、私たちみたいに肝心なことについてあまり会話をしていないまま長く一緒にいる夫婦の方が、色々腹割って話している夫婦より多いと思うよ。


そばにいて一緒に暮らしているのに、相手にはいえないままずっと長く心に秘めている気持ちのようなものを抱えて歳をとるものではないですかねぇ。


そして最後に、家福さんの奥さんはなぜ浮気をしたのか、自分なりの回答を考えてみようか。


多分、そこに夫は存在していないと思うんですよ。奥さん、1人の問題なわけ。奥さんは生涯、誰のものにもならなかったんだと思いますよ。奥さんは奥さん自身のものだった。だから、必要だと思えば、適当な男と寝るし、それを旦那に言う必要がないと思えば言わなかったんだと思う。


独占欲というのは愛情なのかという問題についてはもうずいぶん長い間考えていて、結論はまだ出ないのですが、男の人はおそらく独占欲と愛情をバラバラにできない人が多いと思うし、女にも独占欲はあります。そして、母親は子供を一時的に完全に支配するし、時にはその支配力を維持し続けようとするものです。


愛というのには表と裏があって、人はそれの表を見たいものですが、私はそこに裏があるのを知ってる。バランスを崩すとしんどいものですよ。


ただ、ひっくり返らない程度に傾いてみるのはいいんじゃないかな?湖の上にローテクな手漕ぎボートで鏡のような水面の上で傾いてみるみたいにね。この家福さんのように。


せっかく生きているんですから、自分を苛む嫉妬に身を焦がすのも一興です。


ただね、そのボート、ひっくり返さないように。愛情の裏には深い深い底まで落ちるオプションがついてますから。下手すると帰れなくなりますよ。


2024.07.03

乙女著

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ