表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
154/343

反抗期、万歳!












  反抗期、万歳!














最近、我が家の愛息子も反抗期に入り、噛み付くようになった。普段書いてる文章から見ても仲良さそうだけど?と思われた皆様、そうじゃないんですよ。主におばあちゃんに噛み付いているのです。


おばあちゃんに噛み付き始めた息子を見ている時、ぶっちゃけ微妙な気持ちでした。何って、


あ、あたしには噛み付いてくれないんだ。


ちょっと寂しかった。


え、そうなの?って思われる方とそうだよね、と思われる方がいるのじゃないかな。母親って多分、子供の一番すぐ近くにいて、子供の全てを独占したいという感情を持っている人が多い、全員ではないと思うんです。でも、多い。


その欲望はすいもあまいも、なので、反抗期という悪いものであっても、母親の気持ちとしては、


「よっしゃ、こーい!」


とグローブ構えてどんなボールでも受けてやるぜ!とキャッチャーになるつもりでいる。


これは、まぁ、母親としての主観的な気持ちなんですが、ただね、客観的に見てどうかって視点もある。私は上のような人間くさい感情も、熱い気持ちとかも好きですが、変な話、意外とこういう昭和な熱さが空回りすることもあるよね。


私は良くも悪くも愛が重いんです。


感情的な自分の他に、冷静な自分も持っているのでこういう話が出てくるのだけど、子供をうまく育てたければ、愛の重さで突っ走ると重すぎる。人間と人間なのだから、子供と言っても、子供と母親との距離感というのも重要で、愛が重い私も仕事をしているので、24時間ビッタリと息子のそばについていることもできず、これが結果的には息子から見て私の愛の量がちょうど良くなったのではないかと思います。つまりは、私の愛は息子の方にばかりちょっと多すぎるんですよ。


しかし、美味しいとこ、おばあちゃんに持ってかれたな。不思議なM的感覚でしみじみ思ってた。しかし、おばあちゃんは別に反抗されていることを美味しいとこなんて思ってなかった。


「わたしのいうことは聞かないんだよ」


タイ旅行に行って、なんか仲良くなったからかしら?前だったら心のとばりをあげて私に弱みなんて見せなかったおばあちゃんが弱音を吐いた。


うちのおばあちゃんも中国人と日本人で国籍は違うが、ある1点で私と似ているのです。この人の愛も重いのだよ。おばあちゃんは私と違って仕事がないから、いつもそばにいてそしていつも愛が重いので、煙たがられちゃってるわけ。反抗期の子供はそんなものだ。


「あんたから言ってよ」


それで、うちの子がね、サーキュレーターっていうんでしたっけ?あの最近の扇風機(←昭和だな、自分。名詞の使い方が昭和だぞ)あれをソファーとローテーブルの間に上向きに置いてローテーブルに足を置いて、風を足にずっとあてているのだと、それで風邪を引いたというのです。自分が何度言っても聞かないのだとさめざめとする。


なるほど。


ま、別に扇風機事件を聞かずとも、おばあちゃんと息子のあれやこれやは毎日目にしているので、想像がつく。ばあちゃんの言っていることは、確かにと納得できる忠告から完全にトンチンカンなものまでバリエーションに富んでいるが、内容如何の問題ではないのである。


しつこい。これに尽きる。子供なんて1回言っていうこと聞かなきゃほっとくしかないのである。ほっとけない事項のみ、何度も何度も鳴る目覚ましのように繰り返すしかない。私が1年間のうちで何回、お風呂に入りなさいと言っていると思う?我が家の流行語大賞はお風呂に入れ、だからな。


「もう子供じゃないんだからさ」

「うん」

「別におばあちゃんはアドバイスはしていいんだよ」

「うん」

「だけどあの子もあの子の考えがあるから、アドバイスしてその通りにするかどうかはあの子が決めることだからさ」


実はこれ、アドラー心理学の考えなのだけどね。ちょっとトリッキーな場面だなと楽しみつつ、嫁が外国人じゃなかったら一生アドラーなんかと関係することはなかったであろうおばあちゃんにとくとくと説く。


「アドバイスをした時点で、おばあちゃんはもう自分の責任は果たしている。それを聞かずに風邪をひいたら、それはあの子の問題であっておばあちゃんの問題じゃないんだよ」

「でも……」


この時が初めてではなく、私はもうかなり前からおばあちゃんに同じようなことを延々と説いているのです。アドラー先生!なかなか浸透しません!


「大人になりかけの子供はみんなこうなるんだよ」

「そうなの?」

「もっとひどいうちを知ってるぞ。ただいまといっても、ご飯だといっても、うんともすんとも言わないらしいぞ」

「そうなの?」


それで、我が家はマシな方だといって説く。


「昔はあんな子じゃなかったのに」


おばあちゃんはね、文化大革命の頃に青春を過ごした人で、この時期は学校にちゃんと行けてないし、中国も貧しかったよね。日本人なら普通に知っている『反抗期』という概念を知らないのです。それで、たとえば自分が何か悪いことをしたから、息子に嫌われたと思ったり、あるいは、お母さん(=私)がこういう態度の子に育てたんだとか、原因を思ってはため息をつく。つまりは悪い子に育ってきたと思うというか。


私はそこで、これは成長期の普通の反応なんだ。おばあちゃんも旦那も私も悪くないんだが、息子は大人になろうとして私たちの言うことを聞かないんだよと一生懸命語った。そして、最後にこういった。


「私たちは反抗されて居心地は悪いんだけど、⚪︎⚪︎(息子の名)はいい環境に住んでるんだよ。安心してるから反抗できるんだから。私もママ(姑)も阿華(旦那)もあの子にとてもよくしてるでしょ?」

「そうか?」

「そうだよ。家族が安心できる人たちじゃなかったら、思いきり反抗できないんだよ。反抗できるからいい大人になるんだよ。これはいいことなんだよ?」


私たちは悪くない。精一杯尽くしているから、安心して反抗できるんだ、なんか変な話だが、熱く語った。おばあちゃんにとっては、自分たちはきちんと尽くしている、悪くない、というのがやっと心に届いたようだった。ほっとした。


ああ、実は結構心に来てたのだな、おばあちゃん。


おばあちゃんは愛の重い人である。この人も不器用だ。愛が少ないのも問題だが、多すぎるのも実は問題になるのだと知らない人は結構多い。それで、多すぎて歯向かってくる人に対して、さらに愛を注ぎ、心を砕いては、嫌がられる。そして、行き場のない愛を抱えて右往左往する。


ちょっと話が飛ぶが、自分が子供の頃に見て強烈に覚えているテレビがある。大草原の小さな家で、ローラの夫であるアルマンゾが自分の家の庭先に咲くゼラニウムだったかな?何か植物を見ていうんですよ。


「見ろよ。あれは、僕が一生懸命育てていた時は全然大きくならなかったのに、僕がその存在を忘れて世話を怠った途端に大きくなって。世話が足りなかったんじゃなかったんだ。世話をしすぎてたんだ」


そして、自分もまたあれやこれやと周りに世話をされてきたからこそ、育たなかったのだというのです。確かこんな場面だった。


だよなー。


早熟で変人だった子供の私は、頬杖ついてアルマンゾに同意していた。


良かれと思って世話をしすぎると、かえって成長しないこともある。人間も、植物もだ。


その日、家に帰ると夕飯がなかった。


「お母さんになんか出前してもらえ」


おばあちゃんがストライキをしていた。


「鶏肉かなんか食え」


お風呂に入ろうと服を脱いでいたのだが、タオルを巻き付けてリビングにフラフラとくる。


「何がいいの?」

「おばあちゃん、なんでご飯つくらないんだろう?」


不思議そうな顔を息子がする。


「多分、めんどくさいからだよね」

「違う違う」


自分が悪いから、息子に嫌われたと思っていたのは、それなりにおばあちゃんのボディにブローを打ち込んでいたみたい。今日、解放されたら、頑張りすぎなくてもいいかと思ったのだろう。


私たちは一緒に子育てをしている。息子が反抗期のトンネルに入りました。これもまた一緒にみんなで乗り越えようじゃないですか。だから、おばあちゃんがご飯を作ってもいいし、息子が食べたいものがあるなら、私が出前をしてもいい。


「私は裸なのだから早くしてくれ、何がいい?」

「なんで突然出前?作るのめんどくさいからだよね?」

「めんどくさいんじゃなくって、私もおばあちゃんもあんたに少しでも太ってもらいたいんですよ。串焼きにするか?」


そしてその日は、平日なのに豪華に串焼きを出前した。なんの祝いだ?そうだな、それは多分これだろう。


反抗期、万歳!


2024.06.04

お笑い芸人、優等生


追記

ちなみに中国人の知識程度とか諸々に興味があって、上の記事を書いた後に主人にインタビューをしてみました?


「あなたって反抗期あったの?」

「そんな暇はなかった」


暇?ちなみに反抗期という言葉では主人が理解できなかったので、中学生ぐらいの頃に親に対する態度が云々と長く説明した。


「家にばっかいてゲームばっかりしているからそんなものになる。川に入って魚をとったり、野山を駆け巡れば治る」


野山を駆け巡れば、反抗期は治る!

チーン……


野山を駆け巡れば、反抗期は治る、野山を駆け巡れば、反抗期は治る、……

(あまりにショックだったので頭の中でハウリングした)


「あの、反抗期は心の成長過程で過ぎる状態であって、病気では……、むしろ、正常に育ってきてるね、万歳!みたいな」

「うちの子にはそんな問題は起こってないよね?」


つまり、悪い子に育ってきてはいないよね?いや、反抗期が順調に出て、順調に大人になってきてるぞ。

……


「ありません」

「じゃあ、よかった」


チーン


……中国人だから全員知らないとかそういうのだけではなく、うちの姑も主人も田舎の出身ですし、上流家庭出身というわけでもない。つまりはインテリではない。また、中国の学校って超スパルタで、児童心理学がどうこうなんてことを気にして、……おそらく教育を行ってきていない。多分、今も、ない。


私はどうして反抗期という言葉を知っているのだ?しかし、私が子供の頃にはもうこの言葉も概念も日本にはあったぞ?いいのか?中国人。それで。


うーん……


しかし、心理学的発想とは別に、東洋思想の根幹である中国であるからして、子供が反抗的になってきた時の心構えみたいなものはあるのだろうか?


どー、でも、いーか!お疲れ様です!中国の、青少年諸君!


追記、終わり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ