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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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地下鉄駅構内に閉じ込められた件













   地下鉄駅構内に閉じ込められた件














陰謀か?とワクワクしながら開いちゃったみなさん、すみません、職業会社員、実は隠れてスーパーマンやってたりスパイダーマンであるわけではなく、そういう話じゃないんです、これは。ごめんなさいね。


とある夕刻、家へとかへる。へろへろになりながら、日本語もやや怪しくなりながら地下鉄に乗って自分ちの駅で降りようとした時のことである。


「よ?」


あれだ、ぴっとして、ぱっと出る駅の改札出口の前で立ちすくんだ。携帯の地下鉄に乗る時と降りるときに出すQRコードがでません。つまり、4Gが繋がってない。(←私の携帯は年代物なので4であり5ではない)


パニックになる。地下鉄にFreewifiあったっけ?私に地下鉄代を払うお金がないわけではなく、ネットにつながりさえすれば解決する問題である。


ネット、ネット……


そうだ。息子がくれば息子の携帯で繋がるとかあるいはその携帯使ってどうにかできるんじゃね?


電話しようとした。

……


バカか?お前は?


チーン


4Gにも繋がらないし、電話もできませーん。


なんでこんなことになっちゃったのか。超簡単で、電話代を払ってなかったからです。


あらっ!かわいそうと思いますよね?実はこの人、電話代を払えないくらい貧乏な人だったんだと。しかしだな。何を払わないでも電話代は払わねばなりません。だって、今時、電話使えなければ何もできないもの。お金は基本的に全部電話で払いますから。


私の電話代は主人の口座から自動で引き落とされるのですが、一体どういうわけかうちの主人は銀行口座を山のように持っている人で、どこにいくら入っているかよくわかってない人なんですよ。で、電話代を引き落とす口座にお金をよく入れ忘れてしまうわけ。今までも何度も電話が止まったことがある。そしたら、携帯のアプリで電話局に繋がり自分でお金を払えばいい。(不思議なことにお金がなくて電話が止められても電話局のアプリにだけは繋がるようになっている)


だから、今までは、自分でなんとかしていました。度々この電話曲アプリを開いてゼロに近くなってきたら、お金を補充してたんです。


のおおおおおおお!


異国の地で(異国と言っても20年近く住んでるが)、家は徒歩5分の場所で、地下鉄駅構内に閉じ込められ(ハードルを走って飛び越える要領で飛び越えられる高さではあるが)、半狂乱になりながら電話局アプリを開く。


この状態になるまでに、何度も確認した、何度も確認しだんだよ!今回もやばいと思ってたからさ!


電話代チャージ額:200元


やっぱりだよ、やっぱりだよ、アニキィ!(←?)

ゼロじゃねんだよっ、金は入ってるんですぅ!


なんで繋がらないんじゃーーーーーー!


ちなみにここで駅構内で右往左往している現場を少し離れて、私について解説しよう。私の主人は男のくせに地図が読めない。地図を持たせて初めての場所へ行こうとすると、例えば地下鉄の出口から出て地図を見ながら一歩目を歩き出すじゃないですか。ほぼ100%、右へ行かなきゃいけない時に左へ歩く人間です。そして、彼のスキルの中でまず間違いなく一番やばいのが地図を読むスキルです。


人間、一番の弱点による恐慌に陥ると、憤慨する。ですので、うちの主人が一番アグレッシブに怒り狂い、こいつ、DVかもという迫力を持ってジタバタするのは、道に迷っている時です。


え、次にこれをワタクシに当てはめますと、ワタクシが一番憤慨するのは、


PCやソフト、アプリ、システム、なんでもいいが、そういうデジタルなものが、説明通りに使っているのに、上手くいかないバグが出た時、まるでいかれる暴れ牛のように獰猛になります。


ふぎゃあああああ!


私がこんな状態になっちゃったのは、うちの旦那が意味不明なほどに口座を持っていて、お金を払ってくれるのはありがたいけど、自動引き落としができなかったせいではないですか。私の今年度最高潮の怒りはこうして主人に向かった。


電話してやるぅ!

……電話代払っていないので、電話が繋がらないのでした。


ぷしゅううううううううう……(←怒りマックスでとうとうショートした音)

(文章は映像ではないので分かりにくいが、しばらく駅構内で怒り狂った挙句にショートして、一つの場所に立ち尽くしていた)


それで、とうとう進退極まって、異国で、言葉も満足に話せないのに、駅の保安さんに複雑な事情を説明しようとする。年齢は中年女性で、国籍は日本で、一応そこそこ小綺麗な格好をしていたはずだ。しかし、情緒は幼稚園児ぐらいで話しかけた。携帯片手に


「出られなくなっちゃって……」

「え?」


ところが、この保安のおじさん、めっちゃ親切な人だった。具体的になんで出られないのかは聞かずに、きっとこういう人が多いのかもしれないが、『出られない』という事実だけで、対応してくれる駅の係員のいるところを教えてくれる。


「あっちに行けば係の人がいるから」

「はい」


それで、見た目は中年女性だが、中身は幼稚園児でふらふら歩き出すと、


「場所わかるか?連れていってやろう」


本当にむっちゃ親切な人だったんだよ!そしてついた先には、清楚系の松竹梅で行けば竹レベルなのだが、美人で小綺麗で若いお姉さんがいて


「どうしました?」

「出られなくなっちゃって」

「どうやって入りました?」

「地下鉄のQRコードで」

「見せてください」


見せても、4Gが繋がってないので、コードが出ない状態。


「あ、ネットに繋がってないんですね」

「はい」


するとこ綺麗なお姉さん、こういった。


「じゃ、次繋がった時に払ってくれればいいです」


間違いなくこの時、このお姉さんが天女に見えました。


「え、いいんですか?」

「構いません」

「え、じゃあ」


そこで、私は、ハードルの選手のようにこの手すりをあらよっと飛び越えようと思ったのだが、


「そこから出られますよ」

「え……」


ガラスの仕切りでぐるっと囲まれている一角に、関係者が通り抜けられる扉があり、そこに錠がかかっているのだが、よくみるとトイレの鍵のように手で簡単に開けられるようになっていて、南京錠も何もかかっていなかった。


「あ、どうも」


なんか、泥棒したような気分だな、万引きしたけど見逃してもらったような。そして、若くて綺麗なお嬢ちゃんにヘコヘコ頭を下げながら、かちゃりと開けてきいっとその私の腰のあたりの高さのガラスの仕切りの扉を開けて、外へ出て、また丁寧に閉めた。


「どうも」


もう一回お辞儀してから歩き出す。


出れたぜー!

(実は社会観念上で地下鉄駅構内からお金を払わず出るとなると、不可能を感じてしまうものだが、物理的には簡単に出られる仕切りなんだと実感した瞬間だった)


しばらくはフリーダムの感覚に酔いしれ、ほくほくと家に帰った。


「タダイマァ」

「おかえり」


なんで遅くなったのかを息子にほのぼのと話しながらふと思い出す。いや、明日どうすんだよと。地下鉄乗れなかったら、私、どうすんの?お金があったって携帯使えなかったら、明日のお昼代どうすんの?Wi-Fiあるところでなければ、決済、一切、できませんがぁ?


そこで、行き場のない憤怒がもう一度立ち上がる。そして、Wi-Fiがあるので繋がってる我がスマホで怒涛のように旦那に電話かけた。主人は比較的運のいい人である。電話に出なかった。


チッ!


普段は簡単に怒らない人間だが、PCとかITとかシステムとかAIとかアプリとか、とにかく電子機器系トラブルが勃発すると別人のように凶暴になる人間であり、尚且つ、外の世界では穏やかな人だが、家の中では暴虐無人な二面性を持つ残念な人間である。その怒りを一番受けなければならないのは、悲しいかな、私を伴侶に選んでしまった主人である。


しかし、主人は比較的運のいい人である。今年一番に奥さんが機嫌が悪い時に、たまたま電話に出なかった。神のご加護でもあったのだろうか。


そこで、くそーと思った。頭の中はこれ↓である。


明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。明日どうすんだよ。


それから、頭にちょっと詰まりかけの血管でもあれば、プチッとキレちゃいそうなくらいイライラしながら、もう一度ふと思い立って、中国電信から来ていた電話代が引き落としできなくてのショートメッセージを開く。冷静になって数えてみるとなんと12回もメッセージが来ていた。


中国語の漢字だらけでひらがなやカタカナの混じらない文章を見ると、というか、中国語にひらがなやカタカナが混じったら、そりゃもう日本語なんだけど、めんどくさと思い、読みたくねえなと思いながら毎日生きています。だから、この12回のメッセージを一回もちゃんと読んでいませんでした。


だって、外国語だし。


しかし、ふと、突然、冷静になって読んでみた。すると、


建议存入金额应不低于272元


という文章があった。272元より低くない金額でのチャージをお勧めします。


「あ……」


私は、200元でチャージしてました。72元足りなかったのだよ。そこで、もう100元追加でチャージした。すると、すぐにまたショートメッセージが飛び込んでくる。


尊敬的客户:您已经恢复正常通信。

尊敬するお客様、貴方様の通信はすでに正常に回復されました。


うおしゃあああ、ゴオオオオオル!


すると、トゥルルルルル、電話が鳴った。


「どうしたの?何か用?」

「あ、もういいわ」

「いいの?」

「うん、解決した」


中国に長くいるが、めんどくさいことは全部他人に任せているため、実は、結構いろんなことを知らない。しかし、これで電話代のチャージの仕方についてまた一歩前進したぜ。


それにしてもである。主人はタッチの差で噛みつかれないですんだな。


2024.05.27

お笑い芸人著



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