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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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遅い100点より、早い70点













  遅い100点より早い70点













ちょっと難しいお客様がいて、委託された業務について来社して対面で打ち合わせをした時のことである。私たちの出した資料がわかりにくいとクレームを受けた。とても細かいことまでくどくどと言われました。その資料は日本人の指示の元で中国人スタッフが作成したもので、そこまで酷い資料だとは思わない。結局、慣れない人から見たら複雑でわかりにくいことをやってるから、資料だけで伝わるものでもないのである。しかし、社会をのらりくらりと歩いてみると、その中で資料至上主義な人たちに会うことがある。完璧な資料を求める方々。


『全てを資料に書き表したまへーーーーー!!!!』

うりゃああああああ。

ピカピカドカーン!


名付けて 資料変態族。


それでは、資料変態族の仰せのままに資料をマニアックに作り上げればいいのか?世の中はそんなに甘くない。


「なん、これ?俺、老眼だから、こんな小さな文字見えないんだけどー」


資料読まない族。

またの名を金払ってるんだから、ポイントだけ、説明してよ♩シェケラウト!(←意味不明な掛け声)


または、


「……」


なんかめんどくせえ、字がたくさん書いてある長いメールきたなっと。うんともすんとも言わず、メールムシ族。


むしろ、マニアックに何でもかんでも資料に書き込んで、それにウヒョヒョと喜んで、マニアックに資料を読み込んで答えてくる研究者肌の人は少ない。人間は仕事上で活字に飢えてはいない。活字にむっちゃ身の毛よだっているのである。


今回のお客様はかなりのレアな人でした。それどころか、


「あなたのそれ、間違っている。ほら、僕の調べた資料を見て!」

シェケラウト!(←意味不明な掛け声)

「……」(←我々、完全に絶句)


アチキタチ、これでおまんまいただいてますねん。自分で調べて自分でやるのなら、業務委託した意味は、どこに?


今回のお客様はかなりのマニアックでレアで、ホモサピエンスな人でした。あまりに度肝を抜かれたので、打ち合わせ上でしばしハニワになりました。


ホエエ……


弥生時代の夢をしばし見た後で、シェケラウト!(←伝染した)爆撃のように送られてくる、アチキたちがご案内する前にお客様である方からなぜか手続きについてご案内メールが来て、それが、上半身が北を見ていて、下半身が南を見ているくらいにズレズレなので、シェケラウト!気を取り直してこちらからちゃんと骨がくっつくような正しい案内をと思う。それで資料作成担当に指示を出した。


「ご案内資料に追加の手続きも加えて作り直してください」


すると、日本語を介するが、やっぱり日本人並みには理解できず、尚且つ年齢的には私なんかよりもっと若いので、あれはどうもマニアックでレアでホモサピエンスだったなと軽く流せない中国人の担当の子は、自分の作成した資料をけちょんけちょんに言われたので、落ち込んでいた。


ズーン


「すみません。資料を追加して作り直すって言ってもどこをどう直していいのか」


資料変態族の要望に真摯に応えようとしている担当。悩んでいた。ちなみに私はこう思っていた。資料変態族は、他人が作成した資料を認めはしない。どんなものを作ったって、ここが足りないと絶対に言ってくる。シェケラウ!だから、そこそこご要望にお応えした、的な改良を適当に加えて


「てへ」


さっさと送って仕舞えばいいのである。まず、間違いなく十中八九、ここが足りないと言ってくる、そういう人たちなのだから、むしろ、ちょびっとちろっと足りないところを、ご用意して差し上げるのがサービスというわけだ。そして、完璧でなくってすみません的に謝っときゃいいんだよ。


ちなみに、ここまでして作り込んだ資料は、その他のお客様にとっては詳しすぎて返ってわかりにくいものに違いない。ふーふっふっふっふ(化け物的に笑ってみた)


「……」


しかし、心のまっすぐな担当は眉間に皺を寄せて悩んでいた。


「じゃ、いつも通りに作ればいいから。それで、言われそうなところは一緒に相談して作り直そう」

「はい」


そして、その時、ふと中国で働き始めたばかりの時に、とある年配の日本人の方に教えてもらった言葉を思い出した。


遅い100点より、早い70点


若い頃は仕事の仕方が分かってなくて、自分が作ったものややった仕事にケチをつけられるのが嫌で、一生懸命あれやこれやと完璧にやろうとこねくり回していた。しかし、年齢を重ねて経験を経てみるとわかることがある。


人間は人それぞれだから、まず、万人にOKをもらえるような完璧なアイディアや資料とか作品とか商品とか、ないのである。誰に出すのかによって作り替えなければならない。それと、相手に受けるだろうと思って作ったものも、それでも大抵ダメ出しを受けるものである。


だから、ある程度作り込んだら、つまりは70点くらい、さっさと相手にぶつけたほうがいい。なぜなら、どんな文句をつけられるかわからない間は、結局完成させられないからだ。完成させずにさっさと相手にぶつけて、残りは相手の文句に沿って完成させたほうが、早い。仕事の無駄はこうやって削除すべきである。


もう一つ、私的に仕事のコツと思うことがある。もっとも、とっても基本的なことで大したことではないのだけど。


もしも、資料担当の子が私にどうやったらいいかわからないと相談して来なかったら、どうか?一人で悶々と悩み、頼んだものが出来上がってこない。こういう小さなことの積み重ねが仕事全体の速度を遅くするのである。


上だけが常に情報や方法論を持っているわけでなく、また下だけが常に情報や方法論を持っているわけではない。物事が一番劇的に進むのは、上下と関係なく常により情報を持っている方や方法論を持っている方が、躊躇いなくそれを伝達できるところにある。つまりはこれが、職場上での円滑なコミュニケーションだ。


上 → 下  でもいいし 下 → 上  でもいいのである。


わからないからできません というのも立派な情報なのである。それが伝達されたから、別にあんなホモサピエンス、適当にやっときゃいい という方法論を持っている私が、じゃあ一緒にやろうと声をかけて、それで仕事が進むのである。反対に、上の人というのは現場の具体的なことがわかっていなかったり、抱えている仕事が多すぎて細かなことを忘れてしまっていたりする。そういう時に


「忘れてますよ」


そんな声がかけられたら、やはり仕事が回るのである。上が色々忘れるかもしれないと思って下が動くようになれば、主体性も生まれる。


そういうコミュニケーションがうまく生まれないこともある。上 ⇄ 下 の双方向のコミュニケーション。


何が、コミュニケーションの円滑化を阻むのか?


簡単である。上の人が怖い人だから。良かれと思ってこういうことを言って、怒られたらどうしよう?下としては黙っているのが無難である。


上司として厳しくてもいい。ただ、筋違いのところでやたらに怒っていると、部下は余計なこと以外は口にすまいと無口になってしまう。


わからない、できない、 こんなことは言ったら怒られると思わせると、一つに情報が上に入らないから仕事が先に進まないし、もう一つは、下がいつまでも成長できなくなってしまう。


これは人によって異なるだろうが、私は部下はのせてなんぼだと思っている。


ショートゴロを打ったのであっても、まるでホームランを打ったように褒めるのである。その演技が真に迫っていると、褒められた方も自分がホームランを打ったのかもしれないと錯覚する。


そして、いつの間にか、本当にホームランを打つのである。


そしたら自分はベンチに下がって、昼からコップ酒でも飲むのである。やれやれと。つまみはあぶったイカでいい。


今回のレアなホモサピエンスは、あれだったが、これとは別のお客さん、こちらの方はまっすぐな中国人担当が私を介さずやり取りしている。メール上に 記入例をつけてくださってありがとうございます とお礼の言葉が書いてあった。CCから覗いた。


言われたことは素直にやるし、自分でもどうやったらお客さんが喜ぶか考える子なのである。褒められているではないか、よしよし。


お客さんのありがとうに反応できる人というのは、非常に稀有な存在である。上司に言われたから渋々やるのと、お客さんを喜ばせたいから自分からやるというのでは、天と地ほどの違いがある。


ま、ただ、一生懸命やっても、難しいお客さんだと怒られちゃうんだけどね。そんな時は、怒られなれてる私がお相手させていただきましょう!


シェケラウッ!……ところでこの掛け声は一体どこから来たのだろう?


2024.05.22

お笑い芸人著



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