尊敬する人、野比のび太、欲しいもの、熟睡
尊敬する人、野比のび太、欲しいもの、熟睡
のび太くんはどこでもすぐに寝られる人だそうで、私は彼をこの点において尊敬している。
歳をとると眠りが浅くなる。細切れ睡眠の苦しさよ。人生を損している気がする。中年になってくると人生の通知表は会社での業績では全くなく、健康診断の結果である。
「うおおおおおおおお!」
健康診断の結果とは、開く時に勇気がいる禁断の書である。そして、最近は
「よく頑張ったね」
「てへ」
仕事で褒められるよりも、
「すごいいい肝臓ですね!」
「そんな、まさか、いや、照れるな……」
この上の会話はどこぞの食肉市場で交わされた会話ではなく、白衣の彼とその真向かいの私、健康診断の場面である。仕事で褒められるよりも自分の肝臓を褒められる方が嬉しい。ちなみに肝臓、沈黙の臓器、をはじめ、私の体の中の内臓はあまりよろしくない。とてもよろしくないわけじゃないが、あまりよろしくない。
ズーン
ごめんなさい、肝臓。こんにちは、肝臓、初めまして、肝臓、じゃないか。
酒を飲むのが好きな人ですが、体はあまり強くない。酒を飲んでも顔に出ないし、なかなか酔わないが、肝臓の機能がいいからそういうことになってるわけじゃない。そして、私のこの中年になってからの睡眠不足が、いたく体の機能を下げているのである。
クー!
人間とにかく寝なきゃいかん!寝不足では免疫機能がガタガタだ!脳みその調子も悪い。だから、のび太くんが羨ましい。どこでもいいからちょっとでもいいから
熟睡したああああああい!(かなりの人がきっと私と同じような悩みを抱えながら生きているに違いない)
で、なんでそんなに寝られないのと言われると、うーん、多分、カフェインの取りすぎかも。わたしゃ多分カフェイン中毒だ。休みの日とかコーヒー飲まずに家にいると
ぼーっとする
仕事ではコーヒーを欠かせない。
コーヒーというと私の中ではアメリカの刑事ドラマなのだ。ドーナッツとコーヒー。ドーナッツとコーヒーがなければ、真犯人は捕まえられない!あのアメリカンなカップでガブガブと飲みながら、半分墓場に足突っ込んだような不景気な顔で、『犯人、許さん!』あの不思議な不健康さにすっかり痺れていて、アメリカに対する憧れと相まって、コーヒーだけはやめられない。
私が一番お医者さんに褒められた日のことを思い出してみよう。お医者さんと私シリーズ。ちなみに褒められた日の前に叱られた日もあるぞ。私は妊娠してる時、実は子宮筋腫を患ってまして、ただでさえそんな状態だったんだけど、調子に乗って焼肉と寿司を1週間のうちにどちらも楽しんだ週に妊婦として体重をお医者さんから見ると増やしすぎた時があった。
「もう!」
「シイマセエン」
そして、出産予定日より1週間くらい前のとある日、破水しているのに気が付かずにまんまとお風呂に入った。お風呂から上がったらなんかおかしいなと思った。母と相談する。
「これは破水だろうか?」
「破水だろうな」
それで病院に電話したらさっさと来いと言うので夜中に病院へ向かった。すると、元々子宮筋腫と妊娠を併発してるうえ、破水しているのにお風呂入っちゃって、極め付け
「たかっ」
「ありゃあ」
病院について測ってみたら、血圧がたかくなってた。妊婦は血圧高くなっちゃうとやばいのよ。
「この状態ならいざとなったら帝王切開なりますから」
「ハァ」
先生が出てった後に、なんか大変なことなっちゃったなと思いながらぼんやりしていると、母が突然
「プリン食べる?」
「ん?」
そんなことを言って病院の売店でプリンを買ってきた。なぜプリン?と思いながら、仲良くプリンを一緒に食べようとしていたら
ガラッ
たまたまお医者さんがまた私の部屋により、
「何やってんすかぁあああああ」
子宮筋腫があることに気づかず妊娠してしまい、破水に気づかずお風呂に入ってしまい、あろうことか血圧まで高くなってしまって大変な時に、何を呑気にプリン食ってんすか!まだ若いお医者さん、キレた。
「言いましたよね?緊急手術になるかもしれないって!飲食禁止ですっ」
「あ……」
で、その後どうなったかというと、簡単に言えば、腹は切らずに自然分娩で無事産まれた。この時は叱られたよね。で、褒められたのはいつか。
無事出産した後、約一年後に大きくなりすぎた子宮筋腫、これはただの筋肉の塊なのですが、これを摘出することになったのです。その時の術前検診。
「いい肝臓ですね!肝臓の数値がいい!」
「いや、それほどでも」
何を隠そう、妊娠中と出産後の授乳期はお酒を飲めませんし、実家で久々のジャパンライフを満喫中でストレスフリーであり、肝臓、絶好調!でした!嬉しかったよ。内臓はどれも大事だが、特に肝臓を大切にしたい私としては。
しかしである、それから日々はたち、とある時期から私の内臓の数値は悪化し、免疫機能がガタ落ちし、日々を過ごしていてもとほほなことが多い。
一つ言わせてもらうと、私は確かに酒が好きだが、体が若い頃より弱いぞとなってからこれでも酒は減らしているし、そもそも自分は家では基本飲まないのである。それでも、我が肝臓をはじめ免疫機能が落ちているのは、なぜだ?
昔はAとBしかなかった健康診断結果がみるみる悪化してゆくのを眺めながら考えた。
……睡眠
それしか思い当たらない。運動不足もある。だから、毎日ウォーキングするようにした。しかし、それでも数値はなかなか上がらない。もうこれは熟睡できないからとしか考えられない。
だから、のび太くんが羨ましいんだよっ!!
なんの苦労もせずに眠れていた頃が懐かしい。歳をとると眠りが浅くなる。同年代の人と話す時、不眠と老眼の話で盛り上がるのはセオリーである。
「なんなんすかね!」
「ほんとにね」
「なんなんすかね!」
「ほんとにね」
(↑意味もなく夜中に目が覚めてしまって眠れないのってなんなんすかねという会話である)
でも、憤ってはみても寝られないのは寝られない。すると、やはり不眠気味だという友人がいて
「いいものあげる」
「……」
睡眠薬もらった。お医者さんの処方箋がいらない薬だそうだ。大切な日の前の日は睡眠薬飲んでぐっすり寝るんだそうだ。
こんだけ不眠で苦しんでいるが、まだ睡眠薬は一回も飲んだことがない。もらった薬をテーブルの上に置き、ダイニングチェアの上で三角座りをしながら考えた。(三角座りは真剣にものを考える時に有効な姿勢である。時と場合によりパンツが見えてしまうかもしれないが)
なんか、癖になりそうな気がして怖いんだよなぁ。
せっかくくれた薬だけど、やっぱり飲みませんでした。それでやっぱり熟睡難民はゆく。
ただ、そんな私にもぐっすり眠れる瞬間が全くないわけではない。
「一緒に寝よ」
「ほいほい」
いつかは自立していなくなる相手なのだから、もうそろそろ足を洗おうと思いつついまだにやめられない、それは、息子との添い寝。
「あんたが嫌だと思ったら、一人で寝るといえばいいんだよ」
「嫌じゃないよ」
反抗期のはずだけど、私とは波長が合うのか、いまだに仲良しの二人。若干、これでいいのだろうかと思いつつ息子と寝る。添い寝のつもりがこの時間に数時間、1日のうちで一番熟睡している自分がいる。
はっと夜中に起きると、たまに涎を垂らして寝てたりする。
乙女だった頃は、寝ながらヨダレなんて垂らしていると起きてから恥入り、誰にも見られなかったかしらなんて辺りをキョロキョロしたものだが、今は違う。
熟睡、キタアアアアアア!
寝汚く涎を垂らすくらいに一心不乱に眠るということは、非常に尊い行為である。
短い時間だけど、熟睡できた❤︎えへへ❤︎
涎を拭きながら真夜中の暗闇の中でエヘヘと笑う。
尊敬する人、野比のび太。理由、3秒でどこでもすぐに寝られる人だから。
寝ぼけた頭でそんなことを思いながら、足を踏み外さないように気をつけて、今日も私は息子の二段ベッドからぎいぎいと降りる。そして、隣の部屋へゆき、半分まだ寝た頭のままで今度は自分たちのベッドに寝っ転がるのである。バタン。
えへへ……
最近買ったばかりの無印のシーツは、ひんやり加工なのである。これが気持ちいい。
えへへ……
不眠気味の中年にとって、寝具、超、重要!不眠に悩むお仲間の皆さん!嘆くな!短い時間だけでもいい。ぐっすり寝られる時間が少しでもあればそれでいいとしようじゃないか!
お笑い芸人、著
2024.05.11