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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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最も難しい答弁












   最も難しい答弁

   2021.11.28











   

 これは、たくさんの人が読むものではないので大丈夫だろうと思うのでここにこういうことを書きますが、読む人が読めば激怒させてしまいそうな私の経験について今日は書きます。


あれは、まだ日本語学校ではなくて、工業団地で働いている中国人従業員に対して日本語を教えていた頃のことです。

昼、工場で働いて、夜日本語を勉強している子達でした。日系企業で働きながら、日本語を勉強して、会社の日本人達と片言から始まる会話を駆使する努力家で前向きな子達が多かった。


中国人は教師というものを非常に大切に扱ってくれる人たちで、あの頃自分はまだ若かったです。だけど、先生、先生と慕われていました。日本語を教えるだけでなく、あの頃みんなは日本人を尊敬している人が多かった。日本の技術や知識に対して尊敬をしていて、日本人はあの頃の中国人にとっていろいろなことを教えてくれる広義の意味では先生であり、上の立場の人たちでした。


そんな背景の中でとある授業中に突然とある生徒に聞かれた。


「先生、どうして日本人は戦争がすきなのですか?」


その女生徒は私をじっと見つめていて、彼女以外の教室にいる中国人の子達は困っていました。

それは聞いてはならない質問だった。


「日本人で戦争を好きな人なんていませんよ」


そう答えて終わりました。


その子は私を嫌いだったとは思わないのです。もしかしたら日本人を嫌いだったかもしれない。或いは、本当にただの純粋な好奇心でそういうことを聞いたのかもしれません。真意はわからない。

だけど、あの頃私が日本語を教えていた大多数の中国人の子は常識があった。日本人と一緒に働いていて、協力し合ってている以上、戦争の話はタブーなのだと分かっていたのです。


ただですね。中国人の子というのは子供の頃から学校で、戦時中にどんなことがあったかを細かく勉強して育っている。相手との関係に問題が起きないなら日本人に聞きたいのだと思います。


どんなつもりであんなことをしたのかと。


仕事の関係なら遠慮して聞かないでしょう。でも、友達関係なら聞いてくる。きっと日本人の方で旅行をしたりして韓国や中国の人と友達になったことがある人なら私が聞かれたようなことを聞かれた人も少なくないと思うんです。


そして、聞かれた人と私もきっとあまり変わらないと思うんですね。


私たちは知らない。よく知らないんです。戦時中に日本が何をしたのかをよく知らない。


意識的に自ら本や記録を読んだり、戦争について考えている日本人は別でしょう。

また、自らが戦争を体験した方も別ですし、身近に体験された方を持たれている人も別。


ただ、嫌な言い方をしますと、それもまた、被害者としての体験ですよね。

加害者としての体験や記録とまともに向き合ってる日本人は、かなり少ないと思うんです。


知らない。


自分がしたことではない。自分の家族がしたことでもない。だから関係ない。


でも、一度海外に出ると、自分もまた日本人として戦争について意見を求められることがある。

加害者としての日本について意見を求められます。


どんどん昔のことになっていく、だから、或いはこれに対する答弁を我々は持たなくてもいいのかもしれません。

いいのかもしれませんが……


海外に出て異文化の人と長く接してきて感じることがある。

国の違う人同士というのは時にぶつかることがあります。

小さなぶつかりが消すことができなくて徐々に大きくなることがある。

お互いに対してある消えない不信感。


それがなぜ生まれるのか、それを生まないためにどうするべきなのか。


こういうことはこれからも未来に向けて考えるべきなのだと思うんですね。


私は今、自分の身の回りで起こっている小さな争いの延長線上に、過去の戦争を見ているのです。


国の違う人同士というのはどうしてぶつかるのか。

そもそも人はどうして争うのか。

愛国心とは何か。


人の心の問題として、考えています。


自分たちの国を守らなければならない。だけど、それを守るための手段はいくつもあるわけで、その中のどれを選ぶべきなのか。


下記はあくまで感覚的なもので感じた最近の動向です。

私の年代や若い年代の人の感覚です。


戦争というものをブラックボックスに入れてしまい、それと向き合ってこなかった。

加害者としての自分たちとです。

そして、企業の海外進出がより活発になり、日本人もどんどん海外に出る。

アジアで活動する際に、日本人として負い目を感じている人が多い。


若い人たちには海外の人たちに対して戦争責任という自分たちでもよくわからない部分に負い目を感じながら海外の人と対している人が多いんです。もっと上の世代の人たちからしたら、何を言ってるんだと怒られる。


上の世代の人たちは戦後の屈辱を経済成長で跳ね返した。真っ直ぐに日本に誇りを持っている。

だけどその反面、子供たちを家に残したまま子育てをしていない人が多い。

自分たちの知らない間に、子供たちがどんなことを感じ、どんなことを考えながら大人になったのか知らない人たちが多いと思うんです。


我々の心の中には、貧しさを跳ね返そうとする動機や強さもない。緊張感がない。豊かに育ってますから。

この豊かさは闘争の末に手に入れたものだと知らないのです。

反面、ほっとかれて育っている。むしろ、上の世代の人たちには反感を覚えている。


上の世代に対する反感が、日本の高い技術とか知識とかそういうものに対する疑問。

むしろ、そうですね。日本人として威張っている上の世代に対する反感も或いはあるかもしれない。


本当はそれは日本人に対する反感ではないわけです。

仕事仕事で、家に帰ってこなかったお父さんに対する反感です。

そんなに会社が重要か。お金ばかりがそんなに価値のあるものか。


そんな私たちの心の中には、上の世代の人たちほどの日本に対する誇りがない。


戦争という負の遺産をブラックボックスに入れてしまったために、副作用が出ていると考えています。

正の遺産についてもうまく引き継ぐことができなくなっている。


だから、そういう意味では戦争という過去の遺物について、考えることは意味のあることなのかとも思ってます。


子供たちから隠しすぎたのではないかと。なぜ戦争をしなければならなかったのか。

ただ悪いことだという結論で終わらせても、無理があるんだと思うんです。


戦争をしろというわけではない。

だけど、世界はいつも生き残るために争っている。

その現実は見なければならない。


日本を守るために戦っている上の世代の人がいなくなった後に、貧しさを知らず、争うことはただひたすらに悪いことだと思っている子供達は、生き残っていけるのでしょうか。


大切なのはただひたすらに働くことだけだったわけではないはずです。

子供を、次世代を育てることは無闇に働くことと同じく大切なことだったはずです。


ただお金があれば幸せだったわけではない。

でも、お金がなければどうなるのかという現実も受け止めなければならないのです。


日本という親に反感を覚えて、海外へ来た。

戦争という負い目からどこかで日本なんてそんな大したことない。

むしろ一生懸命頑張っている中国の方がすごいよというような子も見た。

ハングリー精神が足りないと言われながら育ってきた世代の子の当然といえば当然の帰結な訳です。


だけどそうやって中国人と仲良くなっても、いざというときは中国人は中国人をとる。


もしも自分が日本人でなくなるならそこに入れてもらうのか?

でも、人は海外のものをそう簡単には受け入れない。日本人だったものが簡単に中国人になんてなれない。


もっと自分の国を大切にしなければなりません。

中国の経済成長を身近に目の当たりにして今思うことはそれしかありません。

日本にはずっと輝いていてほしい。自分の国ですから。


親がどうのとか、上の世代がどうのとか、そういうことではないんです。


親に言われたからではない。

日本には輝いていてほしい。

そのために自分に何ができるのか。そういうことを考えるようになった。


学校で教わらなくても愛国心は私の中にありました。

愛国心は戦争につながるものでは、本来はない。自然な感情だと思うんです。


どんなに身近な家族に中国に対する愛を語られても、何も感じません。

でも、日本に対しては愛情を感じています。


私がいつも思うのは心の問題です。

豊かさを繋いでいくためには、次世代を育てる必要がある。

世界の中でどうあるべきか考え、それを子供達に伝えるべきなんです。

愛国心は教えられるものなのでしょうか?

或いは伝わっていくものなのでしょうか?


過去の戦争の周辺にその答えがあるような気がしています。


まとまりのないままに失礼します。

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