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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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best mother 賞













   best mother 賞

   2024.02.22













2023年は 仲間由紀恵さんだったそうですね。


これは全国の母親の投票によるママたちの憧れのベストマザーだそうです。


それについて捻くれ者の私が何を考えるかというと、全国の子どもたちの投票によるベストマザーが見たいよね。子どもたちはきっと自分のお母さんを選ぶと思う。だから票がばらけてきっとコンテストにならないでしょう。


子供が母親に求めるものってなんなんでしょうか?

それを大人になってしまった私たちが理解していると安直に思うべきでもないなと思います。


子供というのは結構意外と親に遠慮するんですよ。言葉にして言ってこないから、忙しい日々の中で子供が本当に望んでいることに気づかずにいる親というのは実は意外に多いのではないかなぁ。


子供が望んでいる母親ってそんなかっこよくて綺麗な母親ですか?

私はむしろ子供たちによって選ばれた、普通のおばさんたちが北から南まで種々様々な様子で現れてくる何百枚、何千枚という写真の集合体に向かってベストマザー賞を贈って欲しいなぁ。


そしてさらにここから踏み込むと、育児に点数をつけるものではないぞと。

だから、ベストマザー賞は 美人ママコンテストとでもして目的をもっと明確にして、母親に対する表彰状とは分けた方がいいと思う。

なぜなら、髪振り乱しながら頑張ってるお母さんにエールをあげたいというのもあるし、

それと、多様性の時代ではないですか、外見重視のコンテストばかり。もっと頭のよくて仕事に育児に頑張っている人もじゃんじゃん入賞するようにならないと。あるいは体を張って頑張っている人とかね。そうではないから、GDPがドイツに抜かれるんだぞっと。


そこでですね、コンテストを二部問にするのです。外見重視バージョンと、顔以外重視バージョンと。写真選考があり、顔以外重視バージョンであれば、美人は書類選考で落とします。ふ、ハハハハハ。まさかの、美人であるがゆえに受賞できない。なんて不公平なと言われれば、美人でないがゆえに落とされる場面もあるのだから、たまにはこんな条件あってもいいじゃないか。


美人不可

ふふふふふ、やべ、ツボにハマった。


ま、それはいいとして、本日ですね、息子の授業参観だったんです。

年に5回授業参観がありますが、週末に行うのは稀で普通は平日がメインです。年に5回、授業参観のために半休をとる。リーマンされてる方ならわかっていただけると思うのですが、ほとんどの会社でアウトでしょう。


仕事の都合がつかないのではなく、態度の問題で。ちょっと前の時代の人なら、子供の授業参観で半休取るだと?とめくじらたてられ、俺の時代は子供が生まれる瞬間も働いていたという話を延々とされるかもしれない。


これが日本の悪いところだなと真剣に思ってます。


仕事に対する責任感が強く、滅私奉公する。その際、自分を粗末にするということはすなわち、自分の子供も同時に粗末に扱うということで、日本はここで次世代の日本人を健やかに育成するという、人材育成のタスクをスルーしてしまったのです。


ひどいいじめや引きこもり、不登校や子供の自殺。


親はもっと育児に参加すべきです。母親だけでなく父親も。

子供たちのことは全部母親に任せて仕事に滅私奉公してきた結果が、ドイツにGDP抜かれたんだよっと。

中途の説明をまるっと省略してそんなこと書いてみた。


ところが、そんな偉そうなことを言いつつ、自分も授業参観に行ったとはいっても、1時間目だけです。1時間目だけ行くねと言ったら、


「2時間目はこないの?発表があるのに」


息子がなんとも言えない顔で私を見た。


実はですね、前の会社では週末以外の授業参観に行ったことはない。そんなある時、クラスで誰もこなかったのは自分だけだったと息子に言われたんです。


子供ってね、結構親に遠慮するんです。

だから、授業参観に来てよなんてギャアギャア言わない。そういう部分で我慢させながら育ててきているのだとふと気づく。


働いている親にとってお金を使って何かを買って子供に与えることはそんなに難しいことではないですね。

働いている間、一緒にいない後ろめたさから色々なものを買ってきたように思います。


忙しい人はお金で買えるプレゼントを便利だと思って、相手を喜ばせるためによく使います。

だけど、お金では買えないものを相手が欲しがっていたら?


みんなのお母さんは来てくれるのに、自分だけお母さんがいない。いつもいない。

でも、息子はきっとたまには仕事じゃなくて僕を選んで欲しいという一言が言えないんですよ。


主人に声をかけて二人で行くことにした。私は1時間目しかいられないけど、主人に残ってもらって動画を撮ってもらうことにしました。


「私の夢」


息子たちの発表は、将来の夢に対するものだった。

これ、みないとまずいやつだ。

1時間目だけと言いつつ、ギリギリまで教室に残り、一人目の女の子の発表を見ました。胸がドキドキした。

これ、見ないとまずいやつだ。次が息子だったらいいのに。でも、息子ではなかった。

タクシーで会社へ行ったらもう少しここにいられるか?でもね、息子の順番はもっともっと後ろでした。


朝、少し抜けるだけという理由で遅刻を許可してもらった。それが、息子の発表までここにいたら下手すれば午前中を全て休むことになってしまう。


そおっと教室のドアを開けて廊下に出た。


心がちりぢりになるような気分で駅に向かって歩きました。


仕事なんてね、別にないんですよ。あと1時間か2時間、遅くなったからって、何か問題が出るわけじゃないんです。そんな大した仕事を私がしているわけでもないですよ。それなのに、一体なんのために大切な息子を置いておいて私は会社へ向かうのだろう?


仕事を変えたばかりでまだ社内で信用を築いていない。日本人の良さは何より責任感の強さ。

でも、その態度を示すために子供に背を向けていいんだろうか。


涙ぐみながら地下鉄の駅まで歩いた。


自分という人間は、他人の心に対しても自分の心に対しても非常に敏感な人間で、時々その調節ネジのようなものが壊れて必要以上に感じ入ってしまうのです。誰もが自分と同じようなアンテナの触れ具合で生きているわけじゃない。


それは、私の息子もね。


確かに、見てもらいたかったって気持ちはあったでしょう。だから母親は見られなかったけど父親は直接発表をわざわざ見たし、動画を撮って送ってくれたんです。主人が撮った動画は息子の声は聞こえたけど、発表資料の画面が見えなかった。


「ただいまぁ」


家に帰ると息子がいつもの様子でソファーでゲームをしている。


「おかえり」


すぐそばに座った。しばらくその様子を見ていた。いつもの息子でした。発表立派だったよと直接伝えました。


「あなたならきっといい先生になれるよ」


息子は教師になりたいと言っているのです。


「ね、あとでいいからさ。発表した画面見せて。お父さんの動画だと小さくて見えなかった」


ダメなところ、大切なことを後回しにするところ。得意なこと、中国語。そして、好きなこと、キャンプ。息子の職業選択の前作業の自己分析のページ。


「お母さんも、キャンプ好き」

「そうだね」

「ね、次の休みはさ、キャンプ行こう」


グランピングでしたっけ?そういうのでいい。思い出作ろう。


息子が笑った。


いつもと同じような態度で私も笑いながら、胸の中でじんとしました。


息子は母親が学校から駅へ向かう途中で涙ぐんだことなど知らない。それは、知らなくていいのだと思う。親が子供の知らないところで悩んでいたりするのを子供は知らなくていいのだと思う。


自分のすることの全てが正解で、完璧でなかったとしても、子供が壊れてしまったりとか、取り返しがつかないことになることなんてない。


この世のどこにもベストマザーなんていないんですよ。みんなただ必死に毎日を親として生きてるだけ。自分が完璧ではなくとも、それでも、子供は私を母親として選んでくれるんです。


親が子を愛するだけではなくて、子も親を愛し、支えようとしてくれているのだから。

いい大人のくせして、泣くほど落ち込むことはない。


この世はお金を基準にして物の価値が語られることが多いですが、お金では買えないものを子供が欲しがっている時もある。たまにはどうでもいい仕事などほっぽり出して、教室へ我が子の背中を眺めに出かけようではないですか。


手遅れにならないうちに。


汪海妹


追記 ちなみにベストマザー賞に対して随分皮肉を申しましたが、仲間由紀恵さんと阿部寛さんは大好きです。トリックの頃からのファンでございます。


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