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とりとめのないこと 抜粋  作者: 汪海妹
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シロちゃんと飲んだ酒日記












   シロちゃんと飲んだ酒日記

   2024.02.15












春節休暇中、家族と飲んだお酒を勘違いの幕間③に登場させました。


菊姫 大吟醸は、寿司屋で父が日本酒を飲みたがり 小瓶の冷酒が来るのかなと注文。

おちょこ二つで飲めばよいと思っていたら、グラスが升に入ってる升酒だったんです。


あら……


お高いお酒でした。グラス一杯のお値段とは思えないお値段だったからね。


「もう一杯」


母が間髪入れず追加注文した。


父はですね、よくもまぁ、二度も癌になったのに今でもビール飲んだり日本酒飲んだりワイン飲んだりしてんです。私が帰ると毎日つきあわせる御仁で……。


「あ、お母さん」

「なによ」


注文を受けた店員さんは行ってしまった。

私は飲めませんとでも言おうと思ったか?まさか。

せっかく二杯頼むなら別の銘柄頼みたかっただけです。飲み比べたかったのよ。


大吟醸は本当に全ての雑味のないお酒で、すっきりとした飲み口でした。最近のお酒はグッと辛口だったりはしないよね。

その吟醸も、一口目と飲み続けてゆく中盤、終盤で味わいが変わります。

お寿司を飲みながら、その変化を味わう。体調にもよりますよ。


「飲めない」


そして、自分の分を飲みきれないアラセブの父が私に菊姫を押し付けてくる。

もーーーー!


あらばしり、この言葉が好きですよ。

絞りはじめに出てくる酒のことなんですね。味わいは軽快になると。

なるほど。


変な話、私、酒好きなようでいて、実は同時に酒が苦手というか。ビールは日本のど真ん中の苦いビールより、青島やバドワイザーのような薄いビールが好きだし、日本酒も、どしりと重いの、割と苦手です。


酒が苦手なんですよ……。だから、所謂ど真ん中のお酒よりあらばしりとかの方が飲みやすいわけ。


飲みたくて、というよりは、大吟醸処理係として日本酒を平らげる。

自分的には、升酒二杯飲んでも酔わなかったわ。まだまだいけるな。


そして、別の日である。

日本の家庭料理といえば鍋だろうと、鍋を所望。


「お母さんが鍋嫌がるんだよ」

「そうなの?」


母は別に鍋が嫌いな人ではなかったと思うが。


「一時、鍋のしめにラーメンを入れるのにハマってしつこくやってたらさ」

「……」


家族であるからしてその情報のみで状況を把握した。

父母ともに食いしん坊。そして、王道か邪道かという話で、母は別にジャンクフードも食べますし、正式なものしか認めない人ではないのですが、ただね、正式か邪道化ではなく、B級であってもいいけど、とにかく美味しくなければ認めません。

姉は多分、主婦の方たちが投稿したようなそういう素人レシピ鍋を連発したのじゃないかしら?

素人さんのレシピ、時々まずいんだよ。主婦っぽい節約レシピね。

たまにはいいけど、いつもだと、食いしん坊のお母さんの好みには合わないでしょう。


そこで、娘二人、お代官さまに申し開きするように母の前に跪いた。


「今晩、鍋にしたいんですが」

「何を入れるのよ」

「除夜鍋っすかね?」(ほうれん草と豚肉のみの鍋)

「しめは?」

「蕎麦はやめてよ」(私、アレルギーなのである)

「チッ」(姉)

「寄せ鍋にしなさいよ。ちゃんと魚とか入れて」

「ははぁー」


裁きが下った。

それからスーパーへゆく。


「魚なんかないわよっ、魚なんか」


姉が毒づく。


正確にいうと、東北のスーパーは魚で溢れている。しかし、母のような一流の食いしん坊を舌打ちさせないようなど真ん中の魚を選ぶのは難しい。やれチリ産のシャケはダメでロシア産がどうだとか、クノールカップスープは粒ありが美味しいのだとかうるさいのである。

我々娘も反抗心は持っている。事細かく指定してくる代官の目をくすねて、特売品とか値引きされた魚とかをこっそり買って食べてみる。


すると……


やっぱり母の選んだものの方がうまいと知る。母は伊達ではない。筋金入りの食いしん坊であり、しかも千里眼のついたバイヤーなのである。


「もう、銀鱈とかでいい?」

「……」


不思議とその時、その銀鱈が貧相に見えた。なんか寄せ鍋セットと言ってタコにヒラメの舞い踊りじゃないけれど、物を売るプロが寄せてラップしてくれた物をそのまま買って帰りたかった。とほほ。だって、お代官さまに怒られる気がするのだもの。


「インじゃね?」


文句言われっかもと思いつつ、貧相に見えた銀鱈で手をうつ。しかしだな、その後、スーパーをテクテクと行きながら……。私、海外暮らしじゃないですか。なかなか日本の家庭で鍋を食べる機会なんてないわけ。肉なら中国でも山ほどあるけど、とにかく魚介ですよ。


「これ、食べたい」

「ええっ?」


鍋戦争の合間で無難にいきたい姉とそして、姪っ子。


「こんなの鍋に入れていいの?」

「おたくの鍋文化にはありえないかもしれないけど、日本全国津々浦々ではお鍋にドボンとだな」

「そんな冒険しちゃっていいの?」


私が手にしていたのは紀文のはんぺんである。こりゃ、中国では買えないぞ。


「いやだっ!入れるっ!」

「どうなっても知らないよ?」(姪)


一体、私がいない間、実家ではどんな鍋紛争が起きていたのであろうか。この緊張具合を見よ。


「白菜の陰に隠してこっそり煮るもん」

「そこまでして食べたいのか」


とうとう姪が折れた。あのね、練り物。かまぼこはじめ、ごぼ天はじめ、はんぺんやら竹輪!なんでもないと思ってるこの練製品の陰に隠された数多な日本人たちの努力やいかに。中国でも中国人の作った練り物っぽい物を食べて知った。あのゴワゴワした歯触り、消しゴム食ったらこんな感じかというほどの硬さ。香りももちろんござんせん。それが、日本の練り物はどうよ?魚の味がほんわかとかおり、それぞれのメーカーさんによってちょっとずつ異なるこだわりの歯触り、つまりは、か、た、さ!


「次、行くよ」(姪)


私の熱い気持ちは完全にスルーされ、次へゆく。


「ね、貝入れたい」

「かいー?」(姪)


ゴールデンカムイでは、アイヌ人であるアシリパさんが野生の動物を次から次へと仕留め小刀一本で様々な、ま、いうところのキャンプ飯的な物を作って食すのである。野趣溢れるその紙面に大いに胃袋も惹かれたわけで……。貝はゴールデンカムイには出てこなかったけど、私にとっては若干のキャンプ飯的要素を持っていた。


「貝なんて売ってないよ」

「そなの?」


しかし、正確にいえば売ってました。アサリが売っていた。


「アサリ、入れるの?」

「寄せ鍋には貝も入るっしょ」

「でも、アサリだよ?」


蛤とかの方がいいのかなぁ……。


「ね、アサリを入れると、アサリが全体の味を決めちゃうでしょ?出汁が出るからさ」

「うん」

「これはちょっと冒険すぎない?」


大胆なことをしてまずい物を作ると、奉行所に縄で縛られ引き立てられる身である。


「わかった」

「わかったな」


成績優秀、弁達闊達な姪に説得されすごすごと次へゆく。


「これは買うー」

「えび?」


大した値段ではないエビが置いてあった。ぶっちゃけ、これもまた貧相に見えた。

つまりはね、私の中ではやっぱ、小売のプロが寄せ鍋セットを寄せてラップして、奥様今晩はこれ!みたくパッケージングして売られてなくては、寄せ鍋はこれでいいんだ!って安心できないよ。だって、まずいもの作ったら白州に引き立てられる身だよ?


「えびなんていつも入れないよ?」

「そうなんだけどぉ」


この時、無茶苦茶頭を回転させてました。母に寄せ鍋と言われてました。銀鱈入れました。それから、肉入れました。


「寄せ鍋でえっす」

「まだ、寄せが足りなーい!」


銀鱈入れただけじゃ、寄せ鍋感を120%出せねんじゃねってことなんですよ。


「全国津々浦々でえびは寄せ鍋に入れますっ」

「えー」

「どれにする?」


そんな高くなかったんだよ。貧相なえび。量も貧相だった。


「これでいんじゃね?」

「だな」

「これっぽっちでいいの?」

「いいの、いいの」


予算は大事である。二世帯プラス我々で人数が多いんだよ。


そして、貧相な銀鱈と、貧相なエビと、紀文のはんぺんを携えて帰路に着く。

ネギを切り、白菜を切る。椎茸を大量に切る。鍋ってね、主婦から見て楽なんですよ。材料切れば基本終わりやん。でも、楽だからって頻発すると家族のブーイングを受ける一品であり、日本に住む日本人にとっては家庭の鍋などたいしたものではないのでしょう。


味ぽんが食卓に置かれている。私が日本を離れているうちに、味ぽんに色々な種類が出たんだなと思いながら、ふと思い出した。


「大根おろしは?」

「大根ないわー」(姉)

「ばか!そういうとこだぞ。探せっ、大根をっ」


きれっぱしがあった。


「それっぽっち、すってどうにかなるか?」(姉)

「なるんだよっ、貸してみろ」


姉の家には、下ろしやすい大根おろし器がありませんでした。明日は肩がカチカチになるかもと思いながら、使いにくい大根おろし器で大根を下ろす。めんどくさいことをショートカットして、腹を満たせばいいだろうと鍋を用意する。そういうとこである。味や材料がいいかどうかだけではないのだ。


母の怒りというのはそんな単純なものではない。そういう、手抜きまで含めて天空から雷のように我が姉妹に降ってくるのである。生まれた時から育てた娘たちだ、見えないところでどんな手抜きをしているかマルッと母にはお見通しである。どこでケチったか、どこで手抜きしたかである。


全員分にはならない大根おろしができた。これで問題ないのである。なぜならば、若者は大根おろしなんて屁にも思ってない。これを愛するのは父である。ちなみに私も大根おろしは好きだ。適当に切った白菜はデカかった。(歯があるので問題ない)家に戻ってから気がついた、ツルツル(マロニーちゃんもしくは葛切りのこと)は、家の棚の隅から使いかけを出してきた。麺好きの一家の需要を満たさない量の鍋用うどん(ケチな姉が少なく購入)は、もらったまましばらく放置されていた、どこぞの地方の平たい麺が出てきた。不思議な形の麺だった。


なんかものすごく危うい感じで鍋が始まる。その頃に父が前の家からふらっと赤ワイン片手に現れる。


「葛切り、ちょうだい」


それが、この安ワインアルパカ。酒瓶片手にご飯を食べにくるというその様子が、私のツボにハマった。そして、この安ワインが絶妙に美味かったのである。


「うまーい」

「どれどれちょうだい」


最近成人を迎え、酒を解禁したばかりの姪が口に含む。


「これ、美味しいの?」

「あー、初心者はなぁ」


ミディアムボディだったんですけど、ライトボディからちびちび始める。また、白から始めてもいいし、もしくは飲み口の軽い甘いものから始めてもいいね。この安ワインの飲みやすさがわかるのは君にはもう少し先かもねぇ。


「ツルツル(葛切り)たべたい」(息子)

「はいはい」


そうなのよ、お鍋に入ってるあの透明なやつ、うまいですよね。人気なのに、あまり準備がござんせん。

そして、銀鱈である。


「あら、美味しい」

「美味しいね」(父)


貧相に見えたのに、なんとも美味かった。あの値段で、あんな無造作に売られて、このクオリティか!身がしまっていてそれでいてホロリと崩れたぞ!


「美味しい、美味しい」(息子)


みんな、喜んで食べた。ちなみに銀鱈はそんなにたくさんなかったよ。9人の食卓だ。争奪戦である。争奪戦に慣れていない息子のためにせっせと取り寄せる。自分で取れるんだけどな。

そして、白菜の裏でこっそりはんぺんを温めた。はんぺんは鍋に入れると汁を吸って膨張した。


「どうだ?」

「美味しい」


息子が喜んだ。息子の喜ぶ様子に私も癒された。自分もはんぺんを食べてみた。

……紀文さん、いい仕事してんな、と思いました。なんというのかなぁ、きめ細かいですね。

中国にもね、似たような食い物があるんですよ。これがさ、ボソボソしてんのよね。

まずい物を知ってるからこそですよ。このきめ細かさに感動するわけです。例えていうならば、きっちりと泡立てられたメレンゲのようなきめ細かさだったわよ。


そして、遅れて母が来た。


「エビが美味しい」

「おおー」


まさかのエビの勝利である。あのね、銀鱈と同じなんです。無造作に売られてうまそうに見えなかったけど、田舎ってさ、基本、野菜も魚介も質が高くてしかも安いのよ。このクオリティでこの値段なの?と思うのは、都会から来た人のみよ。田舎の人にとっては当たり前なんだろうね。


「食べて食べて」


珍しく美味しいと言った母に嬉しくなる私。


ちなみに、エビは買ったけど、エビを食べませんでした。美味しいかどうか半信半疑だったし、節約ケチ志向で少ししか買わなかったやん。みんなが喜んで食べてるから遠慮した。


そういうとこ、そういうとこだよ、ハイメイちゃん!

もう一人の私がどっかで叫んでいるように思う。そうなのよ。我慢したりさりげなく人に譲ったりして、それで人が幸せになるわけじゃないの。そうなんだけど、まぁ、またいつかエビを食べる日もあるでしょう。


鍋はですね、中国で日本料理屋さんで食べることもあるんですけど、

あれは不思議と美味しくないかなぁ。


自分たちで買い物をして、用意をして、みんなでワイワイ言いながら食べる。

それが……、食べ物の旨み以外の幸せな満足感をつれてくるのかなぁ。

中国で食べるなら、中国の火鍋がいいね。やっぱり。


汪海妹






















   

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